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神祇 ─じんぎ─  作者: 高石童話本舗
あらかじめ
1/1823

あの頃の

あまつ神 世づく(よすが)の天の()は うつろふ(みこと)うつしざま さだめてながむ花心 さだめてしのぶ姫心 たとふはゆかし天少女(あまをとめ) 下天を下照るあはれげに 下延(したば)ふ者は愚かなれ 百鬼をしのぐ荒しきを 知らぬが花か ひめ待つことか


私が小学生のとき、(まこと)しやかな噂が、よく流行したことを覚えている。


“公園の近くにある田んぼの貯水池には、ザリガメがいる”


今にして思えば、子どもに特有の与太話。


もとい、屈託のない童心が反映した、文字どおり噂話の(たぐい)である。


ある種の都市伝説と言ってもいい。


けれども、当時の私たちにとっては、ひどく冒険心を(くすぐ)るものだったと記憶している。


“水中で、でかいハサミがゆらゆらしているのを見た”


“隣のクラスの人が、公園で遊んでいる時に襲われたらしい”


“好物は煮干し。 もし襲われたら、それを投げつけて逃げろ”


いつしか、当面の尾ひれに()てて加えて尾ひれを得た噂話は、日ごとに大きく膨れていった。


噂話の怖いところは、それが知らぬ間にひとり歩きをするという点だろうか。


人口を膾炙(かいしゃ)するうちに、なにが真実なのか分からなくなる。


重要な核心が、どんどん人目を忍んでゆくという点だろう。


“口裂け女みたいなもんかぁ? おっちゃんが子どもの時分はなぁ───”


“ランドセルが煮干しくさい!”


“ザリガメなんていません”


もちろん、大人たちからすると、笑い話もいい所ではある。


中には目くじらを立てる親御さんだっていたかも知れないが、所詮は子どもたちの()れ言である訳だから、真剣に取り合うことをしない。


しかし、先述の通りだ。


“噂話は、ひとり歩きをする”


(かじ)の壊れたそれは、無差別に人口を席巻した。


“人が襲われるのを見た!”


“警察! はやく警察を!!”


“当分の間、公園は立ち入り禁止”


こうなると、もはや嘘から出たまこと。


根拠のない噂話という核心には、誰も焦点を当てようとしない。


最初は笑っていた大人たちでさえも、日に日に顔色を悪くしていったように思う。


そんな、ある日のことだ。


私たちが、数名のクラスメートから成る“調査隊”を、意気揚々と結成したのは。


まったく(もっ)て、子どもの悪ノリである。


けれども、たしかな義勇心めいたものを、幼気(いたいけ)にもきちんと持ち合わせていたように思う。


あの日のことは、よく覚えている。


ちょうど、夏の(さか)りだった。


青々しい草の匂い。 (よど)んだ水面の色。 そして、大きなハサミ。


我々は元々、割合に情の薄い生き物なので、そっくり忘れ去ろうと思えば叶うのだろうが、断じてそうしない。


“あはは!? おっきなハサミ! こりゃ()いや!!”


忘れようとしても容易に()せるものではなく。 そもそも、当の記憶をぬぐい去る意味そのものが、ひどく希薄なのである。


“天ぷらにしよっかな? それとも、バター焼きですかオラァ!!!”


それは、私たちが出逢った日。


いつまでも()せることのない、大切な思い出の場面なのだから。

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