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ありえない組み合わせ

会社で一番 立場が低いのって、総務課じゃないかな。

なんでか、って言われると 凄く言葉に困るけど…

一番「稼いでいない」「経費削るなら、総務から」事業部の人たちの視線が冷たい。


だから私は総務課がちょうど良い程度なんだと思う。

確かに、「仕事」っぽい仕事が出来るくらいに、人と応対出来る自信がない。

電話一本、出るのも怖い。


毎日が、家と会社との往復。

そんな私が、恋なんて出来ない…




ある日、物流部から「これ、書き方がよく分からなかったんだけど…」提出物が直々に来た。

それは、「一身変更届」

引っ越した、親を扶養に入れた、家族が増えた・なくなった、結婚した・離婚したから苗字が変わった… すっごくプライベートな書類だから、直接届けに来る人が多い書類


「あ、はい。いま行きます」

来たのは、作業着姿の女の人。一瞬、業者だと思った。

「忙しい所、ごめんなさいね。」

ゆったりとしたサイズの作業着を着崩して、すっぴんの肌に、キリっと縛り上げた髪の毛。

日焼けに任せた焼けた肌に、使い込んだリストバンド。

本社では決して使わないだろう軍手が、サイドポケットからはみ出ている。


見るからに気が強そうな表情が怖い。

「物流部の蕃昌です。このたび、結婚する事になったんですけど、社内のみ旧姓って出来ますか?」


物流部の蕃昌さん。

名前だけは知られている有名人。だって、物流センターに勤務している女性の現場社員だもん。

やり手って聞いてる。

配下100名 軍隊並みに絶対服従で 動かしてる。

会社の方針聞いて、納得いかなかったから 重役相手にケンカして、直々に秘書課のチーフが何度も説得に行った。



「あの、確認しますのでお待ちください」

「どれぐらいで分かるかしらん?」スパッと聞いてくる言い方が、刺さる。

「そ、それも 確認します。お待ちください」

最後は聞きとってもらえたか 不安なくらい消え入りそうだった。

だって、この人 目線ずらしてくれないんだもん。顔は笑ってるけど、逃がしてもらえない位の視線の強さが、苦手。

こんな人を、奥さんにしようとする男の人、どんな人なんだろう。


カウンターから離れようとた時に、高い電子音が鳴り響くケータイの音がした。

「ごめんなさいね、バイブにしてなくて。」目の前の蕃昌さんだった。

「こちらから押しかけといて、申し訳ないんだけど」ケータイの音を一旦下げながら続ける「ちょっと、折り返しが溜まってきたから また来てもいい??」

本当に申し訳なさそうな表情、噂と違う…のかな、それとも今だけ?

「書類だけでも、置いていった方がいいよね、また来ます。お手数掛けますが、よろしくお願いします」

片手で、謝る顔して 最後に「忙しいのに、ごめんね。ありがとう!」バタバタと出て行った。


いるだけで騒がしい、とはあのことかも。居なくなってくれてホッとした。

存在感、ありすぎ。

静かに戻ったフロアで 残された書類を、何の気になしに見てみる。

結婚で、氏名変更とは聞いたけど、旧姓のまま…って 社内だけならシステム上は可能なんだけどな。

健康保険とか、給与明細だけは、変更の苗字になっちゃうけど、名刺とか 申請書の判は 別に支障なかったはず。

どんな苗字になるんだろう。

所定欄を探して、視線を めぐらす

良くある苗字の 田中とか高橋とか? 佐藤、伊藤?

答えは、氏名変更のチェックボックスの下に書かれた備考欄だった。


正解は、柏木


柏木? 社内に、「柏木」は、いる。

でもまさか、柏木?

私が知ってる「柏木」さんなら、秘書課のチーフ。

えっ えーっ!!


物流部の現場社員と本社の秘書課チーフが結婚?!


だって、ずっと片思いしてた人だもん。




秘書課の柏木チーフ といえば、重役に直属で付いてる秘書のトップ

数年前まで、秘書課にも「課長」がいたけど、何かの黒い理由で静かに退職してた。

それ以来、課長代理としてチーフ職にいる…この会社では、エリート系

一般の男性社員が震え上がるぐらい 仕事に厳しい人で、柏木さん自身が一番働くから 誰も文句言えない。


でも、総務課に来るときは、怖い顔はしてるけど、ちゃんと「お願いします」と「ありがとう」は言ってくれるんだよね。

この前、「良かったら食べて」と飴もらっちゃった。

総務課長も怯えてるけど、私には優しい。

ホントのホントの姿は、優しい人なのかも。気になり始めたら 好きになってた。


片思い期間半年。想いも伝えぬまま…まさか結婚するとは。

もしかしたら、自分だけには?ってうぬぼれちゃったりもしてた

ちょっと、というか かなりショック。


フリーズした私を周りの人たちがどうしたの、と気にし始めて、書類を見せた

歓声が上がるどさくさに…私は、トイレに消えた。

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