寝言
施設を抜けだして、ヤマのソトに出たエルヒーたちは、ソトにいる看守たちを、つぎつぎに撃破しながら、ミナトに向かっていた。
主だった異能者たちは、ヤマのなかの施設に入っていた。そのために、ソトにいた異能者では、エルヒーたちを、止めることはできなかった。
そして、エルヒーたちのうしろから、ウキタに命じられて、追撃してきた看守がいたのであるが、シンガリとして、ヘイハチとムネシがおり、このふたりによって、追撃者は、つぎつぎに撃退されていた。
本来であれば、「前門の虎・後門の狼」という状況なのだが、エルヒー・ヘイハチ・ムネシのつよさが、看守たちの予想というものを、はるかに上回っていた。
「どうなってんだ。なんでドレイのコイツらが、異能力を使えるんだ。しかも、なんでこんなにつよい」
こういう叫び声が、あちこちで聞こえた。だがしかし、看守たちは、敵うはずがないのに、けっしてあきらめようとしない。
(なんなのかしら、コイツらは。ワタシたちのほうがつよいって、わかってるはずなのに、敵わないのに、あきらめずに挑みかかってくる)
実力差というものが、ハッキリしているにもかかわらず、看守たちは、けっして逃げようとしない。そして、何度たおしても、襲いかかってきた。
不審におもったエルヒーであるが、ココで、あることに気がついた。ソレは、看守たちが、「エルヒーたちを意識している」というよりは、「なにかにたいして、つよい恐怖の感情を抱いている」ということに。
(コイツらは、ワタシたちじゃなくて、ほかのナニカを意識して、恐れている?)
良く見ると、襲いかかってくる看守たちのカオには、なにかにたいして、怯えているような感情がでていた。
(おそらく、あのウキタっていうニンゲンのことを、恐れているのかしら。もしもミスや失敗をしたり、ワタシたちを逃がしてしまえば、どんな目に遭わされるかわからない。こうおもっているのか)
エルヒー自身、先ほどウキタを前にしたときに、なんともいえない嫌悪感を感じていた。おそらく、この感情のウラには、つよい恐怖感があったのであろう。
あいての持っている、底知れないつよさ・実力と共に、残忍で残虐そうな性格というものを、そのカオつき・表情から、ヒシヒシと、感じ取っていたのだから。
「ヘイハチ、ムネシ、ソッチは大丈夫?」
エルヒーは、最後尾にいる、ふたりにたいして声をかけた。
「大丈夫だよ、向かってくるヤツラは、全員たたきのめしてる」
「わかったわ。ワタシが最後尾に行くから、ふたりは先頭にきてちょうだい。交代しましょう」
「交代すんの?わかった」
エルヒーはふたりと、位置を交代した。
(あのウキタっていうニンゲンは、一旦許したワタシたちが、また逃げだしたのを知ったら、おそらく激怒して、追ってくるかもしれない。そうなったら、ふたりではたぶん、防ぐことはできない)
エルヒーは、サイアクのケースというものを想定した。そうなったときは、ふたりよりもつよいじぶんが、防ぐべきだとかんがえたのだ。
(もうすぐミナトに着く。おそらく前方に、つよそうな敵はいない。ふたりでも、十分に対処や対応ができる。でも、もしもウキタが追ってきたら、ワタシがなんとかしなければ)
エルヒーは、サイアクのケースをかんがえたとき、「ウキタによって、皆ゴロシにされてしまう」ということは、なんとしても避けたいとおもった。
(とはいっても)
ココロのなかでは、なんといえない不安があった。
(そもそもワタシが、アイツに勝てるんだろうか)
さっき、ウキタと対峙したとき、手も足も出なかったのである。だがしかし、今ここでは、もう逃げることはできない。
まして、一度は降参しておきながら、ふたたび脱走したのである。おそらくもう次は、降参したところで、許されることはないであろう。
ソレに、そもそも、もう二度と、ドレイという状況に戻りたくない。
(またドレイになるくらいだったら、死んだほうがマシよ。敵わないまでも、一矢報いてやる)
最後尾に着いたエルヒーは、覚悟をキメなければならなかった。そして今、その覚悟をキメた。
(来た!!)
エルヒーが、カンづいたのと同時に、うしろから、すさまじい勢いで、ナニモノかが近づいてきた。
(間違いない、ヤツだ)
ソレは、ウキタであった。すさまじい速度で迫ってきており、そのスガタが見えた。
「エルヒー!!せっかくオレが、生きのこるチャンスをやったっていうのに、ソレを無下にしやがって。ラクに死ねるとおもうなよ」
こう叫ぶと、ウキタは異能を発動した。つぎの瞬間、地面がウネリだし、カタチを変えて、はげしく隆起した。
そして、まるで林のように、ヤリ状の土の柱ができたかとおもうと、それらが、すさまじい勢いで飛んできた。
(今度はもう、逃げない)
こう決意すると、エルヒーは、キリガクレからもらった剣を取りだし、そこにホノオをまとわせた。
そして、襲いかかってくる土のカタマリを切りさいていった。だがしかし、すべてのヤリ状の土のカタマリを、切りさくことはできない。
(マズイわね、このままでは、ほかのニンゲンにギセイ者がでる)
エルヒーが、一緒に逃亡しているドレイたちにたいして、被害が出ることをかんがえたとき、ほんの一瞬であるが、意識が周囲に逸れてしまった。その一瞬の隙を、ウキタは見のがさなかった。
「オレを目のまえにして、ほかに気をとられるとは、いい度胸だ!!」
ウキタのさけび声を聞いて、ふたたび、前方にたいして注意を戻したのだが、そのとき、ウキタのスガタは見えなかった。
(ヤツがいない、一体どこに?)
ウキタのスガタが消えたことに、かるいパニックになったのであるが、よく見ると、そもそもウキタのスガタどころか、視界がまったくない。つまり、先の景色が見えないのだ。
(どういうこと?視界がなくなってる?)
よく見てみると、視線の先にはカベがあった。しかも、そのカベはうごいていた。ふと上を見ると、そこにも、高い土のカベがあった。
つまり、土のカベとは、土の津波であったのだ。津波状になった土のカベが、すさまじい勢いで、エルヒーにたいして向かってきていた。
(マズイ!!)
「ヘイハチ、ムネシ、急いでちょうだい。うしろから、土のカタマリが、津波になって向かってきてる」
エルヒーが先頭を振りむいて、ふたりに叫んだのと同時に、ふたりもまた、エルヒーに叫んだ。
「エルヒー、タイヘンだ。正面に土のカベができてて、しかも、コッチに向かってきてる」
先頭と後方の二カ所から、同時に、土の津波が襲いかかってきた。
(このままでは、挟み撃ちになる。左右に)
エルヒーがこうおもい、左右を見たのだが、そこにもまた、土のカベがあり、しかも津波状になって向かってきていた。
「ウキタさん、チョット待ってください。オレたちも巻きこまれます!!」
エルヒーたちを追っていた看守たちが、ウキタにそう叫んだのであるが、土の津波は、止まらなかった。
つまり、前後左右、すべての方面から、土の津波がエルヒーたちに向かい、襲いかかってきた。そこに、逃げ道はなかった。
その数十秒後、エルヒーたちは全員、土の津波に飲みこまれた。土の津波が覆いかぶさり、そこには、巨大な土のカタマリがあった。まるでヤマのように。
(コレで全員飲みこまれただろう。逃げだすスガタは見えなかった)
マンゾクそうな表情をうかべながら、ウキタが近づいてきた。土の津波に巻きこまれるのを、幸運にも免れた看守たちが、恐る恐る、ウキタにたいして近づいてきた。
「あのお、あのなかには、オレたちのナカマがいるんですが。無事なんでしょうか?」
「ああ!?んなことは知るか。運が良けりゃあ無事だろうよ。逃げだしたドレイどもを、捕まえられん無能どもに、イチイチかまってられるか」
じぶんの部下でさえも、平然と、無情に切りすてるサマを見せられて、看守たちは、あらためてウキタにたいして、底知れないほど、つよい恐怖を感じた。
「なにをボーっとしてんだ。生きのこってるヤツは、ここにあつまれ。チンタラすんな、役にたたねえバカどもが!!結局オレが、すべて片づけるハメになったんだ。すこしくらい働いたらどうだ。ノロマどもが」
ウキタの怒りの声を聞いて、ゾロゾロと、看守たちがあつまりだした。皆、「ウキタの怒りの矛先というものが、じぶんにたいして向かってくるのではないか」と、つよい恐怖を感じていた。
(ったく、バカどもが。すこしは役に立ちやがれ)
「あのお、ヨロシイでしょうか?」
「なんだ?」
「この土のヤマは、どうしますか?掘ってなかにある死体を、ソトに出しますか?」
部下のひとりが、恐る恐る聞いてきた。
「ああ、そうしろ。ミナトへの道に、こんな土のカタマリがあるのはつごうがワルイ。まして、死体があったらなおさらだ。すぐ掘りおこして、テキトウな場所にでも生めておけ。
まあ、おそらくグチャグチャになって、カタチを留めてる死体なんてのは、ほとんどないだろうがな」
「わかりました。すぐに掘りかえします」
生きのこった看守たちは、何人かがスコップを取りにいった。そして、ソレをつかい、土のヤマを掘りだした。
「ガチン」
と、スコップの先が、かたいモノにあたった音がした。
(岩にぶつかったか?)
看守のひとりが、スコップの先を見ると、なにやら、カガミのように光っていた。
「なんだ?」
のぞきこむと、ソレは、氷のカタマリのようであった。
「なんでこんなところに、氷のカタマリがあるんだ?」
コレが、この看守のさいごのコトバであった。氷のカタマリがうごきだし、針状になり、その看守を貫いたのだから。カラダを貫かれた看守は即死であり、下に落下した。
「なにしてんだ、遊んでんじゃねえぞ。ウキタさんを怒らすな」
落下した看守の近くにいたひとりが、こう発言したつぎの瞬間、ヤマのようになった土のカタマリが崩れだした。
土が崩れだしたのは、中から、氷のカタマリが膨らんだからであった。そして、たくさんの看守が、地面にたいして落下した。
「なんだ?」
ウキタがつぶやいたのと同時に、氷のカタマリは、とつぜんバクハツした。このバクハツで、氷の破片と、たくさんの土や岩が、まわりに吹きとばされて、看守のカラダにたいして直撃した。そのために、たくさんの看守が負傷し、身うごきがとれなくなった。
「やったかしら?ヘイハチ」
「おもいっきりバクハツさせたから、たぶん、ケッコウな数の看守に直撃して、大ケガしたとおもう」
「ごくろうさま。ソレとムネシもね。氷のカベで、とっさに土の津波をふせぐなんて、スゴイじゃない」
「へへ、それほどでも。でも、ユキメのチカラでパワーアップしたからこそ、あの土の津波をくらっても、壊れないだけの氷のカベができたんだって。ソレと、今のヘイハチのバクハツもね」
「そうね、よくやったわユキメ。えらいわ」
「アリガトウ、エルヒー」
バクハツのなかから、エルヒー、ヘイハチ、ムネシ、ユキメと、たくさんのドレイたちがでてきた。
「あらかたの看守は、今のバクハツを食らって、タダで済んでないとおもうけれど、肝心のウキタは」
エルヒーがまわりと見わたすと、どこにも、ウキタのスガタは見えなかった。だがしかし、今のバクハツで、あのウキタがスンナリと、再起不能になったとはおもえない。
「3人とも、ゼッタイに油断しないでね」
エルヒーが、こういった次の瞬間、エルヒーの剣はすばやくうごき、土のカタマリをはじきかえした。
「ったく、どうなってんだ。なんでテメエらは生きてんだ?」
死体のヤマが土で吹きとばされて、そのなかから、ウキタがでてきた。
「ホントウにヒドイというか、クサッてるニンゲンなのね、アナタは。部下を盾にしたなんて」
「ああ?なにいってんだオマエは、オレのためにイノチを張るのが、コイツらの役目だろうが」
「そう、アナタとは価値観が違いすぎて、ハナシがまったく合わないわ」
「そうかい。オレもオマエらと、ハナシを合わせる理由はないね。さっそくだが、死ね」
ウキタが、こう言うのと同時に、エルヒー、,ヘイハチ、ムネシ、ユキメの4人にたいして、たくさんの土のヤリが襲いかかった。だがしかし、そのすべては、ヘイハチによって吹きとばされた。
(なんだ?どうなってやがる?なんでコイツらが、オレの攻撃をふせげるんだ?ソレに、さっきの土の津波をふせいだのもヘンだ。フツウの氷のカベだったら、土のカタマリでくだけて、圧死してるはずだ。
そもそも、さっき見たときと比べて、あきらかにコイツらは、つよくなってやがる。なにをした?)
目のまえにいる4人が、先ほどまでとは、別人のような空気感というか、雰囲気を醸し出していることに、ウキタは、不審な感じを持った。
「ワタシたちも、アナタと、ハナシをするツモリはないわ。かといって、このままアナタを無視して先に進もうとしても、できそうにない。だから、この場所で、アナタをたおすことにするわ」
「オレをたおすだあ?寝言は寝ていえよ」
ウキタが4人にたいして、次の攻撃を仕掛けようとしたとき、すでにエルヒーはうごきだし、逆に、ウキタにたいして斬りかかった。
(コイツ、さっきより、カナリはやい)
ウキタは、エルヒーの剣が、じぶんのカラダにたいして届く寸前に、土のカベをつくり、剣戟をふせいだ。
だがしかし、エルヒーの剣は、その土のカベを切り裂き、ウキタのカラダをかすめた。
(なんだあ?)
ウキタがうしろに飛び、つぎの剣戟を避けようとした瞬間、カラダに、ニブイ痛みが走った。
左から、氷のカタマリが飛んできて、カラダにたいして直撃したのである。その先には、ムネシがいた。
エルヒーが、真正面から斬りかかったのと同時に、ウキタの左にまわりこみ、氷のカタマリをぶつけてきたのだ。
ウキタは、そのカタマリに押されるカタチで、右に吹きとばされたのだが、その先には、今度はヘイハチがいた。
そしてヘイハチは、ウキタにたいしてバクハツを浴びせかけた。このバクハツというものを、モロに食らったウキタは、カラダのバランスを崩した。その隙を、エルヒーは見のがさなかった。
バランスを崩したウキタにたいして、エルヒーは、剣を振りかざした。その剣は、エルヒーの異能のチカラによって、はげしいホノオをまとっていた。
この剣による斬撃というものを、マトモに受けたとあれば、ウキタといえども、無事では済まないであろう。




