勝算
(勝った)
エルヒーが、いやエルヒーだけでなく、ヘイハチとムネシも、勝利を確信したのであった。まさに瞬間、ウキタのスガタは消えていた。
いや、ウキタのスガタが消えたのではなくて、エルヒー、ヘイハチ、ムネシの3人のカラダが、宙に浮いていたのだった。
3人の足場がはげしく隆起したのだ。その上にいた3人は、土に押されてしまい、宙に舞いあがっていた。
3人を見あげながらウキタは、自らの異能を発動させた。辺り一面の地面がうごきだし、空中にいて、自由に身うごきをとれない3人にたいして、何百本もの土のヤリが、宙に向かって、すさまじい速さで伸びていった。
「くし刺になれ!!」
ウキタが叫んだ。そして、3人は土のヤリによって、くし刺しになった。かに見えたのだが、今度は3人のスガタが、空中から消えた。
(なんだ?どこに消えた?)
「間にあって良かった」
すこし離れたところで、キリガクレが3人をつかまえていた。土のヤリが3人に向かって行った、まさにそのとき、キリガクレは、霧をヒモのようにして伸ばし、3人をつかまえたのである。
そして、そのヒモを、ゴム状の性質にして、伸びきったゴムが、いきおいよく縮むようにして、3人を手もとに引きよせた。
「アブナイところだった。見たところ、3人とも無事のようだけど」
「アリガトウございます、キリガクレさん」
「どうやら、使ったらしいね」
「ええ、つかいました」
「ということは、今のが正真正銘、絶体絶命のピンチだったってことかな?」
「そうなります」
「そうか、アレを使わざるをえないほど、追いこまれてたってワケか。ということは、もうソロソロ、時間が切れるかな」
「たぶん、そうだとおもいます。正直なところ、今さっき、アイツにやった攻撃が、ワタシたちの体力がつづくなかでの、精一杯の攻撃でした。アレを防がれた時点で、限界がきていました。そうよね、ふたりとも」
「右におなじ」
ヘイハチがいった。
「おなじく」
ムネシもいった。
「どうやらホントウに、間一髪で間にあったってことか」
キリガクレがいう「アレ」とは、カレが3人にあたえたモノである。ソレは、カレの異能を霧状にして、さらにソレを圧縮し、濃縮してつくった丸剤といってよかった。
ソレを飲みこめば、いわば、つよいドーピングのような効果があり、「一時的に、異能者の実力を、底上げする」というシロモノである。
ただし、コレをつかうと、その反動・反作用・副作用というものが、とてもつよい。そのために、使ったあとは、つよい疲労感におそわれて、しばらくのあいだ、マトモにうごくことすらできなくなる。
しかもコレは、効果の持続時間がみじかい。ながく見積もっても、10分が限界・上限時間なのである。
キリガクレは、一旦はウキタにたいして降伏したエルヒーたちを、ふたたび逃がすときに、3人にたいして、コレを渡していたのだ。「ホントウに、アブナイときだけつかうように」と。
(どうなってんだ?ヤツラのスガタが、とつぜん消えた)
かわすことができないタイミング・スピードで、無数の土のヤリを、3人にたいして浴びせかけたのだが、一瞬のうちに、3人のスガタが消えてしまい、土のヤリは、宙を切った。
(どこに消えやがった)
ウキタがまわりを見たわすと、離れたところに3人のスガタがあった。そして、そこには、見たことのないニンゲンがひとりいた。
(なんだアイツは?もしかして、アイツがエルヒーたちの協力者か?なんにしろ、ヤツラをたすけたってことは、オレと敵対してるってことだろう)
こうおもうと、ウキタは、エルヒーたちの方向に向かい、走っていった。
「さて、3人とも間一髪で、無事なのは良いことだが、あのウキタってヤツも、コチラのそんざいに気がついたらしい。この場所に長居はマズイ。すぐにミナトに向かうべきだ」
「この場所に、長居は無用っていうのは賛成なんですけど、このまま逃げたとしても、おそらくヤツは、執念ぶかく追ってくるとおもいます。
ですから、ミナトに向かって逃げたとしても、ヤツを足止めする方法や対策を、かんがえるべきかと。
でも、正直なところワタシには、その方法や対策がサッパリ、おもいつかないんです。キリガクレさんにもらった、このカタマリを使ったのに、しかも3人がかりで、ヤツとたたかったのに、どうすることもできませんでした。
そして、ワタシたち3人は、疲労困憊で、もうこれ以上、たたかうことはできそうにありません」
エルヒーのコトバにたいして、ヘイハチとウキタもうなずいていた。
「たしかに、ヤツを野ばなしにしておくと、せっかく逃げても台なしになる。だから、オレがアイツのあいてをする」
「キリガクレさんがですか。そうしてもらえると凄くたすかります。ワタシたちでは、もうどうしようもないので。ところで、キリガクレさんから見て、ヤツとたたかったとして、勝てそうですか?」
エルヒーは、すこしだけ、不安そうなカオで聞いてきた。
「オレがヤツに勝てるか、不安かい?」
「いえ、キリガクレさんのつよさを、疑うっていうワケじゃないですが。でも、ヤツのチカラを経験してみて、バケモノじみたつよさだと感じました。キリガクレさんからうける印象とは、まったく違うカタチのつよさだと。
ヤツにたいして、キリガクレさんは、つよいっていうのは感じるんですが、ソレを極力、オモテに出そうとしていないというか、隠してるというか。
ソレにたいしてヤツは、大っぴらに、じぶんのつよさをオモテに出してきて、ソレが、ものすごくつよい、プレッシャーになってる感じです。
ですので、つよさの質が、キリガクレさんとヤツとでは、うける印象がまったく違うんです。ですから、キリガクレさんが勝つのか、負けるのか、ワタシには、サッパリわからないんです」
「ははあ、正直だなあ君は。じつはオレも、ヤツにたいして、似たような印象をうけたんだよ。つよいっていうのは、ヒシヒシと感じるんだけど、ヤツはソレを、まったく隠そうとはしてない。むしろ、ソレをアピールしてる節さえある。
だから、オレとヤツのタイプが、まったく違うっていうのは、たぶん合ってるだろうね。となると、たしかに、オレとヤツのつよさを、単純に、比較することはむずかしいかもしれん。
正直なところ、オレも、ヤツのスガタを見たときに、つよいっていうのは良くわかったが、オレと比べてどうなのか。っていうところは、実際にたたかってみないと、なんともいえん感じがした」
「だったらキリガクレさん。失礼にあたるかもしれないので、あまり言いたくはないんですが、もしもその、キリガクレさんが負けてしまったら、すべてがダメになるっていうか、台なしになりませんか?
今ここでは、キリガクレさんのそんざいが、ワタシたちドレイにとっては、唯一のこされたキボウなんですよ。
そもそも、この反乱自体、キリガクレさんがいなければ、到底おこなうことができませんでした。
キリガクレさんが、ワタシたちに、この異能力の使いかたをおしえてくれた。だからこそ、ここまで事態を進めることができたんですから。
そして、今現在も、あの施設のボスにたいしては、キリガクレさんしか、おそらく、対抗することはできません。
となると、万が一、キリガクレさんが負けてしまえば、ワタシたちはここで、ハメツというか、全滅することになる。ですので」
「だからこそ、オレがヤツにたいして、ホントウに勝てるのかどうかが、気になると」
「正直にいえば、そういうことになります」
「なるほど、たしかにエルヒーのギモンはもっともだ。オレが君のたちばでも、おなじことが気になるとおもう」
「失礼にあたるとはおもうんですが、でも、どうしてもこの点を、アイマイにはできないんです。あのウキタというオトコのつよさは、バケモノじみてます。
キリガクレさんが強いっていうのは、百も承知なんですが、でも、実際にヤツと対峙したワタシとしては、勝算があるのかどうかを、どうしても、ハッキリと聞いておきたいんです」
「勝算ねえ」
こういうと、キリガクレは、空を見あげた。
「どうしました?空に、なにかあります?」
エルヒーも、つられて空を見あげたのであるが、そこには、なにもなかった。
「ワタシには、なにも見えないんですが」
「ソラに今、なにかあるっていうことじゃなくて、ソロソロかなと」
「ソロソロ?」
「ソロソロ、アレをここに、運んでも良いんじゃないかとおもって」




