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僕の青春は怪異と共に  作者: 夢乃間
第2章 安寧の地
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再会

 黒宮アキトと西連寺マコトが去り、家主不在となった家の中で、宮本達也と斎藤響は肩を並べてソファに座っていた。斎藤響が服の修繕をしている横で、宮本達也は黒宮アキトから託された破邪の指輪を眺めていた。破邪の指輪を着けて怪異と対峙してきた黒宮アキトの姿と、黒宮アキトと過ごしてきた半年間の思い出がフラッシュバックし、宮本達也は静かに涙を流した。  


「……はぁ。あんた、今日で何回目の涙よ?」


「っ!? う、うるせぇ! 友達と離れ離れになったら、こうもなるだろ!」


「いや分かるけどさ。それにしたって泣き過ぎ。アキトの指輪ばかり眺めてるから泣いちゃうんじゃない? 他の事をして気を紛らわせなよ」


 斎藤響に言われ、宮本達也は渋々破邪の指輪をポケットの中にしまい、テーブルの上に置いていた携帯ゲーム機を手に取って電源を入れる。画面にゲームが表示されると、一時停止になっている黒宮アキトとの対戦画面が映し出された。

 その画面を見て、懐かしさと連敗していた悔しさを思い出し、宮本達也の目から再び涙が流れ出す。


「う、うぅ……!」


「あー、もう! 今度はなに思い出したの!?」


「あ、あいつ……! 勝ち逃げしやがった……!」


「60回もリベンジを申し込まれたら勝ち逃げもしたくなるわよ! むしろ60回もあんたのワガママに付き合ってくれた事に感謝しなさい!」


「あいつに弱キャラ渡したのに……!」


「初心者にやる事じゃないわよ……もう! いい加減立ち直りなさいよ、今生の別れでもないのに!」


「でも、お前だってずっとそればっかじゃん……!」


 宮本達也は斎藤響が修繕している服を指差す。その服は、怪異との戦いでボロボロになった黒宮アキトの服であった。家に来てから二時間が経った今、斎藤響が修繕した黒宮アキトの服はソファの横に積み重なっている。


「お前だって引きずってるじゃん……!」


「わ、私は! 物を大切にする主義なの! アキトがボロボロになったのはいらないって言うのが勿体なくて……とにかくこれは引きずってるとか、そういうのじゃないから!」


「う、うぅ……! ついでに俺のもやっておいて……!」


「何がついでよ。流れでいけばやってもらえると思わないで。というか何で私達は今もここに居座ってるわけ!? いくら好き勝手暮らしてたからって、家主がいなくなった今でもくつろいでいるのは、流石に常識無さ過ぎでしょ!?」


「仕方ないだろ……家に帰ろうとしても、自然と足がここに来ちまうんだから……」


「……はぁ。思えばこの半年間、私達ずっとここで暮らしてたわね。西連寺家からの依頼を受けて、仕事して、ここに帰ってきてご飯を食べて、寝て……依頼の無い日も、自分の家に帰らずにここで過ごして……もう、家族みたいになってた」


「……みたい、じゃなくて……家族だったよ、俺達」


 二人は家に置いてある物や壁の傷を見て、黒宮アキトと西連寺マコトの四人で暮らしていた日常を思い出す。常に死に繋がる仕事をしていたにも関わらず、当たり前のように次の日の朝を迎えていた。祓い士である黒宮アキトが二人の代わりに戦っていたというのもあるが、この家で過ごす時間が楽しかったというのもあった。四人で生活する日常が楽しく、将来の不安や身の危険を考える暇も無かった。

 幸せと楽しさに包まれた日常は、二人に死という終わりを忘れさせ、異常な程までに明日を迎える事を受け入れていた。

 しかし、黒宮アキトと西連寺マコトが去ってから二時間後の現在。四人での生活に終止符が打たれ、忘れていた寂しさや孤独感に包まれた。

 だから二人は思い出に縋った。少しでも心の穴を埋めようと、四人で生活していた日常の残響に記憶を巡らせた。


「……俺達、戻れるかな……元の日常に」


「……無理よ。だって、四人で暮らしていた以前の日常だなんて、もう……忘れちゃったもの」


「絵の上にペンキを塗ったみたいだな、俺達の日常って」


「はぁ。今頃あの二人、上手くやってけてるのかな~?」


 祓い士の世界に帰った二人のその後を心配した矢先、玄関のドアノブがガチャッと勢いよく捻られた音が鳴り響いた。鍵を掛けているおかげでドアが開く事は無かったが、音の大きさからして、来訪者は普通の人とは考えられない。

 ドアノブの音を耳にした斎藤響は、瞬時に壁に立て掛けていた竹刀を手に取って、玄関のドアの方へ竹刀を構えた。


「今の音、何?」


「お客さん……にしては」


「少々失礼過ぎる程の力加減だったわね」


 すると、今度は連続でドアノブが捻られ、明らかな異常性を見せてきた来訪者に、二人は改めて臨戦態勢を取る。


「どうする? どうやる?」


「相手が一人かどうか分からない今の状況で、迂闊にドアに近付くのは危険よ。達也は窓の方を見張ってて。ドアからの侵入を諦めたら、次に来る場所はそこよ」


 斎藤響の命令に従い、宮本達也はポケットから取り出した破邪の指輪を中指に着け、バットを手に窓の傍に立つ。二人が各々の配置についた瞬間、喧しかったドアノブを捻る音が止み、家の中に静寂が訪れた。

 しかし、二人は尚も警戒を続けていた。額から流れる汗と鼓動を速くさせる緊張感から、来訪者がまだ家の近くにいる事を知らせていたからだ。

 緊張の瞬間が続く中、突然玄関から爆発音に似た轟音が響き渡った。リビングと玄関まで長い通路がある所為で玄関の様子は伺えなかったが、轟音を耳にした二人はドアが蹴破られたと確信した。

 窓側を監視していた宮本達也は斎藤響の隣に立ち、同じ方向に視線を向けながら、来訪者が姿を現すのをジッと待ち構える。足音がリビングに近付く度に、二人の鼓動は跳ね上がった。荒れだしそうな呼吸を抑え、何も考えずにただ前を見続ける。

 そして、来訪者の影が見えるや否や、二人は前に飛び出した。黒宮アキトから教えられた先手必勝の教訓を信じて。


「「チェストォォォ!!!」」


 二人は叫びで相手を威圧し、振り上げていた獲物を来訪者に向けて勢いよく振り下ろす。振り下ろされた二人の獲物は来訪者に軽々と受け止められ、手応えが軽い事に焦りを抱いた二人は顔を上げ、来訪者の姿を見た。

 その来訪者の正体は、黒宮アキトであった。二人の記憶にある黒宮アキトとは髪色も風貌も別人と化しているが、黒宮アキトであると認識出来た。


「「アキト……」」


「出迎え方は、祓い士と同等レベルになったな……久しぶりだな、達也、響」


「「……二時間で、久しぶり?」」


「……え?」


 三人は困惑した。宮本達也と斎藤響はたったの二時間での黒宮アキトの変わりように困惑し、黒宮アキトは自身が感じていた時間の流れとはまるで違う事に。

 離れ離れになった三人の再会は、感動の再会とはいかず、怪異探偵の三人らしい奇妙な再会となった。

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