<84> 窮地に陥る太郎とリサ
リサと太郎は、仕事も落ち着いたので久々にデートをしていた。昼ご飯をレストランで済ませて、家に移動している途中であったが、突然リサが歩くのをやめた。不思議に思った太郎は、リサを見ると顔が青ざめている。
-----太郎視点-----
リサが恐怖に震えている。
目の前に何万もの霊が見えてるのだという。
僕には見ることができないが、不気味な声は聞こえる。
今、僕たちにできる最善の手段は逃げることだと思う。
だから、僕は転移しようとした。
しかし、既に体の感覚を霊達に奪われ、転移することができない。
リサも動けなくなっている様子だ。
そして、僕は視力を失った。
声も出ない。
手足が動かない。
心臓は止まっていないが、呼吸ができなくなってきている。
呼吸ができないのは、体内の酸素濃度を調整することでなんとか対処できる。
心臓も魔法で動かすことは可能だ。
だから、これで命が奪われることはない。
しかし、僕がこの状況なら、リサも同じ状況となっているに違いない。
なんとかこの状況を脱しなければならない。
視覚も聴覚もそれ以外も含め、五感は失われている。
たくさんの霊が僕の中に入っているようだ。
このまま、どうなってしまうのか、皆目見当がつかない。
僕は、意識を失っていくのを感じた……
-----リサ視点-----
「太郎、何万もの霊が、悪霊がこちらに近づいてくる。逃げなきゃ。」
私は、絶望を感じていた。肉体を持った存在が相手であれば戦える。しかし、今見ているあの存在は肉体を持たない霊なのだ。そして、霊は太郎の中に次々に入り込んでいる。これは危険すぎる状況だ。
「太郎!大変、逃げて!」
私の声が届いていないようだ。目も見えていないかもしれない。太郎の意識を完全に奪ったようだ。そして、今度は霊達が私の中に入ろうとしている。
しかし、私の中には入れないようだ。ジンが私の中で抵抗してくれている。太郎を何とかしないといけない。私は太郎を背負って歩いた。とんでもなく重く感じる。
異世界とつながるゲートを通過すれば、外部に影響を与える魔法が使えるようになる。そこまで移動すれば、何とかなると思う。
私は、自分に強化魔法をかけた。太郎が軽く感じるようになる。そして、さらに体内の魔力を操作し高速移動を行う。
私は、太郎を背負ったまま、ゲートを開いて異世界へ飛び込んだ。
そして、魔法が使えるようになったのを確認し、太郎に浄化魔法を使う。
霊達に浄化魔法が通用するか不安だったが、あっさり効いた。太郎の中にいた霊は全部体の外に出た。
しかし、太郎の意識は戻らない。ちょっと時間が必要なのかもしれない。
太郎から出た霊達を迎えに来てもらえるようジンに頼んだ。
その後、悪霊たちは迎えに来たの霊たちに強制的に引かれて行った。もう、大丈夫だろう。
私は、太郎を揺さぶった。早く起きて欲しいのでとにかく力いっぱい頬を叩いてみた。
すると、太郎は意識を取り戻した。
「太郎、大丈夫?」
「死ぬかと思った。それから頬がジンジンする。霊にやられたようだ」
太郎の頬は私の手のひらの形に腫れている。
……ごめんなさい。それは私がやりました。
黙っていよう。
「本当にひどいよね。回復魔法使うね。……治った。これで大丈夫ね」
「ありがとう。それにしても、危なかった。リサが助けてくれたの?」
「うん。太郎が意識を失ってから、ゲートまで太郎を運んだの。結構大変だった」
「リサ、有難う。助かった。本当に今回ばかりは駄目だと思った」
私は、これから地球に戻った時に、また襲われるかと思うと不安になるのだった。




