<57> ジンの与えたヒント
カイトはジンに長いことアドバイスらしいアドバイスを貰えていなかった。ところが、この前ジンがこんな事を言ったのだと。かなりわざとらしく。僕にカイトが教えてくれたジンのアドバイスはこうだ。
『あー、これから俺が言うことは独り事だから、聞くなよ。絶対聞くなよ。ただの独り言なんだからな?それにしても異世界のラケルが無詠唱魔法に成功したんだよなあ。こっちの世界で回復魔法だけは使えるから、無詠唱魔法使えると便利だよなあ。まあ、今のところ太郎しか使えないけど、訓練すればなんか誰でも使えそうなんだよなあ。なんだ、カイトいたのか?今の独り言聞いてなかったよな。ああ、よかった。聞かれてたらちょっとやばい内容だったからな。じゃあな』
わざとらしさMAXだな。聞くなよ。絶対聞くなよ。ってなんだよ。聞けって意味じゃないか。まったくもう、何をしろというのか明白過ぎる。さて、僕がこれから何をしなければならないのか、カイトの言うことで分かったのでちょっと頑張ることにする。
まずは、僕の中にカイトが入り、リサの中にキャサリンが入る。それで、異世界へ転移。僕たちはラケルに会いに行く。
久々の王宮だ。ラケルはそこで今日も研究に忙しそうだった。僕はラケルに声をかけた。
「ラケル、久しぶり。無詠唱魔法に成功したんだって?」
「あら、太郎とリサ、久しぶりね。そうなの。その研究結果をまとめたレポートがこれ。精神力が一千を超えると無詠唱魔法が可能になるの。ただし、その精神力を一千まで上げるのが普通の生活をしていては不可能で、意識しないといけないことがあるの」
そう言って、これまでの研究のレポートを見せてもらった。僕はもう使えるから、次はリサの番かな。無詠唱魔法使えるようになるのは。地球では回復魔法限定だけど。そういえば、痛み止めの魔法も体内で作用する魔法だから地球でも使えるんじゃないかな。今度試してみよう。あと、再生魔法も可能かもしれない。
「リサ、ラケルと一緒に無詠唱魔法の訓練をここでしてみないか?番組収録も終わったから、時間的には大丈夫だよね」
「そうね。私の出演するテレビ放送録画してくれるよね? 後で見たいな」
録画するのは当然するつもりだったので、その点はご心配なくと説明し、リサはラケルに特訓?を受けることになった。無詠唱魔法が使えるようになるまでの期間、ここで暮らすことになる。僕は、ラケルにお礼として研究資金の役に立てばと、こちらの世界ではまだ高級品である鏡をプレゼントした。ラケルはこれ欲しかったのよねと喜んでくれた。それから、ラケルに紹介したい人がいると伝え、カイトとキャサリンのことを簡単に紹介した。
カイトが僕と入れ替わり、キャサリンがリサと代わって挨拶した。ラケルは初めての経験に驚くも、受け入れて言った。
「カイトにキャサリン。初めまして。魔法の研究をしているラケルです。こちらで何人ぐらいの人が無詠唱魔法を覚えたいのですか?」
「最終的には全員。まずは主要な8人を覚えさせたい。回復魔法があると、怪我した時に命を落とさずに済むこともあるかもしれない。これから危険なことに立ち向かうには必要なことだからね」
それを聞いてキャサリンが言った。
「あら、危険なことだという認識はあったんですね。カイトのことだから、ファミルとナンシーの圧倒的戦力で何とかすればいいとか考えていると思ってたけど」
「……まあ、正直なところ、ファミル・ナンシーペアに対抗できる敵がいるとは思えないけど、今回は、マハトマ・ガンジーの非暴力作戦でいく」
「まあ、ガンジーは嫌いじゃないけどね。仲間の中でも結構いいやつだし。でもその作成でいくなら、主要な八人だけじゃ足りないわね」
「だから、最初は八人。最終的には全員。いざとなれば、怪我した人をこちらに転移させて、こちらで魔法で治せばいいからね。最初から全員となると時間がかかりすぎる。相手の組織はどんどん大きくなっているんだ。なにしろ相手は百万人を目指しているそうだ。まだ少ないうちに勢力を縮小する必要がある。
話を聞いていると、どうやら相手は巨大組織にも関わらず、力でねじ伏せるのではなく、非暴力で対抗するという。僕はまだカイトが何をしようとしているのか、よくわかっていないのだった。カイトの仲間の一人がガンジーで、そのガンジーの作戦を採用することになった……らしい。
まず、カイトが無詠唱魔法を使えるか確認。僕が体内の魔力を操作し、無詠唱の魔法をいくつか使ってみる。その魔力の流れを感じ取ってもらい、真似してもらう。しかし、初めてのことだからなかなかうまくはいかない。それで、僕もリサと一緒にラケルのところにお世話になることにした。
ここでの訓練により、カイトは三日。リサとキャサリンは二週間で魔法が使えるようになった。僕はその間に番組の収録もあり、リサとキャサリンを残して日本で生活したのだった。




