<56> 15年前の事件の真相
俺はトニー・アッカルド。俺たちはアル・カポネを中心とする集団の中でも、最も早くから活動を行っていた。
どんな活動かと言えば、悪霊を増やすための地道な活動だ。地上にいる人間たちに悪事を行うよう唆すこと。悪事を行うことにより、死んだ後に悪霊となり、仲間になる。アル・カポネを慕って集まってくる仲間が少しずつ増える中で、どんな活動をしているかというと、悪なる思いを持つ者に囁き唆すことである。
相手には実際の霊の声が聞こえるわけではないが、精神に直接影響を与える。
だから、普段なら良心がブレーキとなって行わない悪事を行ってしまう。怒りで暴力行為を働いたり、電車の中での痴漢行為、店で万引きなど、良心を麻痺させれば悪い行動を起こしやすくなる。
これは、悪い思いを持たない人には良心を麻痺させても何も悪いことを行わない。だから、悪なる思いを持つ者であることが必要なのだ。
しかし、それで一度失敗したことがある。他にはそんなことはなかった。ジンという妖魔が関わっていた。
今までで殺した相手の魂に怨みを持たせ、地獄に引き込む。そこで俺たちの仲間になるか地獄に行くかを選ばせ、俺たちの仲間にしていく。また、殺した側の人間が寿命などで死んだ時も、同様に地獄に行くか仲間になるか選ばせる。
そうやって、一度の殺人で被害者と加害者の二人を勧誘する。
最初から殺人を犯させることはできない。少しずつ悪の経験をさせて、悪なる行動に慣れさせないと、殺人を犯すことまではできないのだ。それで、まずは暴力行為、痴漢、万引きなど、殺人よりは軽い罪を犯させる。それを繰り返し、より重い罪を負わせ、最後に殺人に手を染めさせる。
かなり地味な活動だ。一人を殺人にまで追いやるのに、何年もかかる。だから、こちらも数が必要だ。多く仲間がいれば、より多くの人に悪い行動をさせることが可能だ。
そして、因縁のある家系に影響を及ぼすよう、悪霊達の感情もコントロールする。
『お前は理不尽にも殺されたんだから、殺した相手の子孫を殺さないと気が済まないだろう?ぜひやるべきだ。殺された時の怨みが消えることはないんだから、せめてそいつの子孫を殺して怨みの思いを軽くしようぜ。今のままじゃ悔やまれてならないだろ?」
そうやって、殺された怨みを晴らすため、行動に移させる。これで、行動に移しさえすれば、殺害は成功する。成功するはずだった。しかし、過去一度だけ、失敗したそのことを思いだす。
俺たちは、直接手を出さずに相手を唆して行動させる。自分が殺しても意味はないからな。唆した相手(霊)は、行動するによい体を見つける必要がある。その霊は黒川徹という心の荒んだ少年を見つけた。そして体に入り、自分の怨みを晴らす。七代目の子孫で、明後日には死ぬが、普通に死んだのでは我々にとって意味はない。だから殺人を犯させる。
殺す相手は白神響子。しかし崖から落とそうとしても、ガードレールが邪魔だった。誰も見ていないのを確認し、とりあえず背中を思い切り突き飛ばす。胸がガードレールに強く当たる。そこで足を持ち上げてガードレールの下の崖に落とす。後ろ向きで顔は見られていない。
この高さなら確実に死ぬ。そう思い、その場を離れる。それから怨みを晴らした霊は黒川徹から出た。黒川徹はそれまでの記憶を持ち、自分がやったことだと認識している。急に殺したくなってやったのだと認識しているのだ。こいつが死んだ時には、その罪を理由に仲間にする。そして、たった今、怨みを晴らした霊も、その罪を理由に仲間にする。どんどん仲間を増やすことができるのがお分かりだろうか。
俺は、白神響子を仲間にするため、様子を見に行った。ジンという妖魔がいる。なんだあいつは。邪魔だな。そう思った。
しかし、誰かを呼びに行った。よし、チャンスだ。今のうちに行ってみよう。
(あなたは……誰?)
『驚いた。まだ生きているのか。俺はトニー。お前を迎えに来た。声は出ないだろうが、思っていることはわかる。』
(……私はもうすぐ死ぬのね。まあ、そんな気はしてたんだけど)
『ああ、死ぬよ。死んだら俺たちの仲間になるんだ。お前は殺されたんだ。殺した相手が気にならないか?どうして自分が殺されなきゃならないんだって、理不尽に思うだろう?いや、思うべきだ』
(……ジンが、助けを呼んでこっちに来る……)
『なんだって?ちぃ……しょうがねえ。じゃあ、またな』
俺は急いでその場を離れた、ジンというやつは恐ろしい妖魔だ。俺なんかが敵う相手ではない。気配を殺して遠くから見ていると、太郎という少年とジンがやってきた。それから暫くして白神響子の魂は消えた。違う世界に行ったのだと。異世界?ふざけるな。そんなもんあってたまるか。転生だと?なんなんだそりゃ。
おれは、わけがわからなかった。ただ一つだけわかるのは、白神響子を仲間に引き入れるのに失敗したという事実だけだ。ジンという妖魔とは、そのうち戦うことになるかもしれないな。俺はそう思ったのだった。




