<30> リサは命の恩人
僕は、絶対に死んだと思った。銃の弾を避けて、一方的にこちらがダメージを負い、そして意識を失った。マンガ等のご都合主義展開でもない限りそんな状況で助かるなんて絶対にあり得ない。
しかし、気が付くと僕は日本にいた。リサの目が赤くかなり泣いていたのがわかる。ジンにどうしようと相談していた。ジンは命に別状はないとリサを落ち着かせていた。
『ほら、太郎の意識が戻ったぞ。リサ、もう心配しなくても大丈夫だよ。』
「太郎もう……だい……じょう……ぶ?」
リサから後で教えてもらったのだが僕が意識を失っていた時間は三分ぐらいだったそうだ。ここは人通りの少ない場所なので、ある意味幸いである。僕は魔法を使って体を治そうとしたが、ユーナスでもないのに、魔法が使えるはずない。前にジンが言ってたし。
一応体内には魔力を感じる。試しにやってみよう。僕は、無詠唱で回復魔法を使ってみた。ジンが言った通りなら世界の法則が違うのだから、魔法は使えないはず。でも、魔力操作により怪我が治っている。
「リサ……、試しに回復魔法使ったら、怪我が治った」
「え?うそ?なんで?……ジン……なんで?」
リサも、地球で魔法が使えるなんて思っていなかったのか、驚いていた。リサも大怪我している僕に回復魔法の詠唱をして助けようとしたが、魔法が使えなかったそうなのだ。これについてジンが解説してくれた。
『太郎が使っているのは無詠唱だろ?リサは無詠唱できないじゃないか。その違いだよ。リサも太郎も知っているだろうけど詠唱することによって、魔力操作するんだよな。けど世界の法則が違うのだから地球では詠唱しても魔法は使えない。ここまでは理解できるよな』
リサも僕も頷いた。地球で魔法を使っている人なんて見たことないから、地球では魔法は使えないと思ったほうがよい。でも無詠唱なら魔法が使える?どういうことだろう。
『地球ではユーナスの魔法は使えない。なぜならば、世界の法則が違うだけではなく、魔力操作を詠唱に変える法則が違うからだ。つまり地球上では、違う詠唱が必要となる。』
リサが何かに気が付いたようだ。リサは言った。
「つまり、詠唱による魔法は同じようにはできないけど、魔力操作ができないわけではない。ということなの?」
『その通り。ただし、体内の魔力を操作できるだけだから、地球で使えるのは回復魔法や強化系魔法ぐらいだと思うけどね。世界の法則が違うから、体外に影響を及ぼすことはユーナスと同じ方法ではできない。地球で魔法を使えるようにするためには、地球の魔法使いにでも会って教えてもらうしかないね』
僕は、ようやく理解した。つまり駄目で元々とやってみた回復魔法が実は有効だったというわけだ。しかもこちらの世界で唯一使える魔法。僕の体は完全に回復した。血が足りない気がするがそれ以外は少しのどが渇いている程度だ。
試しに浄化魔法を使おうとした。体外に影響を及ぼす魔法だがどうだろう。…だめだった。やはり体内にある魔力を体内で使うことだけが唯一できるようだ。服が汚れているが仕方ない。
それにしてもリサは、相手を敵だと認識するまえから銃で狙って打ち、さらに僕が攻撃されている間も銃で撃ち続けてくれた。間違いなくリサがいなかったら、僕はもっと大きなダメージを受けていただろう。リサのおかげで相手は弾を避けながら僕を攻撃する必要があったのだから、簡単ではなかったはずだ。
ともかく次の対策を考える必要がある。全魔法を無詠唱で使える能力も、二人の自動拳銃を避けられる相手には無意味だ。軽く避けるに決まっている。あんな人外を相手にどうやっても勝てる気はしないが、そもそも勝つ必要なんかない。僕にはとっておきの方法がある。
戦略的撤退だ。だから、みっともないが今度会ったら言ってやろう。「それ以上近づくと逃げるぞ!」と。
「リサ、僕は決めたよ。次にあいつに襲われたら逃げる。日本に転移すればいいんだ。」
「そうね。逃げるが勝ち。あんなやつ倒せるはずがない。」
その後、ジンが言った言葉を僕とリサは理解できず、茫然としてしまった。
『たしかに「あの女」に会ったら、……逃げるのが一番だろうな』
え? ……女?




