<29> 暗殺者の動揺
私は、姿は男の姿に変えることはできても、声は変えられない。だから、殺しは一瞬。時間をかけるわけにはいかない。だから声を出す必要など今までなかった。
でも、今回は想定外のことが続いている。まず、なんでまだ敵だと判断されるはずのない時点で、弓矢より格段に危ない武器で攻撃されているのだろう。リサが勘で私を敵と判断した?むしろ、敵と判断する前に攻撃しているとしか考えられない。もちろん避けられないほどではない。いくら高速とはいえ、直線移動しかしない小石以下の大きさの物体に対して、私が恐れる必要は何もない。さすがに二人同時にの攻撃は避けづらいが、当たったところで急所以外なら死ぬこともないのだから。
その時はまだ、私は一瞬でタロウを殺せると思っていた。とにかく切ればよいと。
私は、近づいて素早く切った。切ったはずだった。上着が切れているのだから、切ったのは間違いないが、タロウは怪我一つしていない。切れない服を着ているのか。ならば、こんな刀は意味がない。
私は刀を捨てて、最大限の力とスピードで蹴った。切ることができないなら、蹴るのは基本だ。しかし、蹴った感覚がおかしい。手ごたえがない。例えるなら、空中の布団を蹴った感じだ。衝撃が殺された。これでは相手を倒せない。
リサが攻撃してきた。それに便乗してタロウも攻撃してきた。バババババと音が鳴るごとに小さな粒が飛んでくる。当たったら痛いかも。一応避ける。避けた先の木に深い穴が開いた。粒が当たると痛いどころではないかもしれない。
声を出せば女だとバレてしまうから言えないが、危険極まりない武器で二人がかりで攻撃してくるなんて卑怯だ。
その怒りを力に変えてタロウを投げた。私の足から腰へ回転させながら移動させた力を遠心力を使ってタロウを空中に投げる。そしてタロウは空中を舞う。空中で制御できない体は頭から落下した。
落ちた瞬間、大きな音がした。タロウと地面が激突した音だ。足に怪我を負ったようで、血が出ている。リサの表情が変わった。攻撃を止めずに大声を出してタロウを呼んでいる。
私はもう一度タロウを投げることにした。しかし立っている相手を投げるより、寝ている相手を投げるほうが難しいのだ。だから、一度立たせるためにタロウの右腕を私の肩に乗せ、私の体を軽く回転することでタロウ背負った状態にし、タロウごと私の体を斜めに一回転以上させた力で宙に投げた。
リサは攻撃をやめてタロウのところに駆け寄った。タロウが地面に叩きつけられ、タロウの傷口が大きくなった。血が出ているのが見え、リサがタロウに抱き着いて泣き叫んでいた。
その後、リサとタロウが消えた。突然のことで私は茫然とした。リサとタロウの存在が消えた理由が全くわからない。そこには、タロウが流した血が残っているだけだった。
私の暗殺が失敗したのは、これが初めてだった。




