<18> タロウを殺せ
不正が発覚したところが次々に逮捕されている。次は俺の番かもしれないと、戦々恐々としている。ルカナンで国の予算を横領している奴なんて、いくらでもいるが、その規模が問題だ。金額の大きい不正から調べていると言われている。俺を誰だと思っているんだ。戦慄のドームと噂されるほどの男だぞ。捕まってなどやるものか。
このまま発覚して捕まるか、捕まる前にタロウという者を殺すか。俺の中ではどうするか決まっている。
「タロウという奴を殺すチャンスはあるのか?」
俺は部下で一番腕の立つ男、バランに聞いた。
「はっ。それが、一人になることはなく、常に二人以上で行動しています。一人になった時に襲うのが理想的ですが、それは望めない状況ですので、二人の時に襲う必要があります。」
俺が関与しているということが、決してばれないようにする必要がある。バランが直接動くのはまずい。その点理解しているか、確認せねば。
「どうやって、俺が関与している証拠を残さないようにするんだ。お前が直接動けば足がつく恐れはある。その点はどうなんだ。」
「極秘裏に、依頼している者がいます。こちらと何の関わりもない、お金さえ払えば何でもやり腕の立つことでは、私が本気で戦ってもまだ相手にもならないほどの強者です。しかし、その分依頼料は高くつきますが、今回の件では必要かと思われます。」
バランが、軍隊千人を相手にしても負けるとは思わないが、そのバランが敵わないとなると、ルカナンどころか世界でもトップの実力であることは間違いない。そうなると、お金で解決できるのであればいくらでも出す。どうせ、タロウを殺せば、また金儲けの手段が増えるのだから。
「その男の名前は?それだけ腕の立つ男なら、さぞ有名な者であろう。」
「それが、ルドルというのですが名前はあきらかに偽名。依頼ごとに違う名前で受けているらしいです。依頼方法も、直接会うことはできずに、ある人物を通して依頼するのですが、その人物もその男に会ったことはないそうで、『最強の奴で頼む』と言うと、いくつかの人を経由して、その男に依頼されるらしいのです。私がその男の強さを知っている理由は、以前一度だけ戦っている姿を見たことがあるのですが、その時の自分には、動きを追うことすらできませんでした。私が目指しているのは、あの男の強さです。」
戦慄のドームの異名を持つこの俺が、まさかの身震いを感じた。バランが動きを追うこともできない存在が、人間なわけがない。恐らく、魔人以上の存在ではないだろうか。
「わかった。では、その者に依頼しよう。決して依頼主がばれぬよう注意してくれ。」
「承知しております。」
こうして太郎の暗殺が行われるのは確実となった。天使のジンはこのやり取りを見て、太郎に伝えることを考えたが、関与し過ぎると行動を制限されて地上で自由に動けなくなる恐れがある。素直に神様に相談した。
『神様、ジンでございます。私の友達のリサの恋人の田中太郎が暗殺される状況にあるのはご存知かと思いますが、この件に関して、太郎やリサに話をしてもよろしいでしょうか』
神様には姿がないが、声を聞くことはできる。それで必要に応じて神様に相談しているのだ。
『ジンよ。太郎は今回は死ぬことはないが、深い傷を負うことになる。生死の境を彷徨うことになるが、人間のことは人間に責任を持たせる必要がある。辛いだろうが、今回は関与することは許可できない』
『承知しました』
ジンはこの件に関与できず、リサと太郎を見守るしかなかった。太郎は、殺されるかもしれないと思い、ヘルメットの代わりとなる帽子と、防弾チョッキを装備して生活していた。リサは、いざとなれば、自分が太郎を守るというつもりでいた。
「やっぱり俺、殺されるのかな」
いつの間にか、太郎はジンに呟いていた。
『まあ、気を付けるに越したことはないよ。それに太郎はそんなに簡単に死なないんじゃないかな。準備していないリサは今のままでは簡単に死んじゃうかもだけど。タロウは防弾チョッキも来ているんだろ?』
「そうだった。リサの分の帽子と防弾チョッキも用意しなくちゃ。」
ジンは、過干渉とならない程度に、太郎にアドバイスをした。
そのころ、太郎の暗殺を依頼された仮の名をルドルという者が、暗殺の準備を始めたのであった。




