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<17> 青木探偵事務所

 表向きの名前は青木だが、この男の中には青木自身以外に四十八人の霊が入っている。どの霊も私が四千年かけてスカウトしてきた者たちなので、非常に優秀である。中には女性の霊も入っており、紹介された松井香織に女性の霊を入れられないか、様子を見ている。


 田中太郎に若い女性が良いと希望を出していたのは、女性の霊が能力を発揮する際には女性の体のほうが仕事しやすいということがある。男性の体では、女性が男性の口調をマネして男性のふりをして仕事をしなければならず、面倒である。また、できれば若くて美しい女性のほうが入る霊も気分が良いというものだ。


 その点、松井香織は若くて美しい女性なので、外的には問題ない。内的には、霊を受け入れる素質を持っているが、精神的に受け入れる寛容さがあるかどうか。まずは、そこから確認してみよう。


「松井さん。あなたは霊の存在を信じますか?」


「霊?ですか。よくわからないので、肯定も否定もできないんですが、どちらの答えがお望みですか?」


「信じてくれると助かる。実際に、事件の真相に霊が関わっていることはよくあることなのです」


「なら、信じます。まあ、よく知らない世界のことなのでどちらでもいいんですが、死んだら存在がなくなるよりは、霊となって存在が残るほうが納得はいきますので」


 そんなことを平然という松井香織は、何でもない事のように私を見ている。私は、目の前の女性が常識に囚われず、真実を見極める素質を持っているか、さらに確認する。


「私が、これから話すことは、信じられないことかもしれないが、事実だから聞いて欲しい」


 松井香織は、特に気にすることもなく、私に微笑みかけて言った。いや……これは微笑みではない。どちらかと言えば……どや顔?


「田中さんから、ここが特殊な事情と環境であることを聞いて知っています。私が転職したいと相談するつもりで田中さんに電話したら、私が言う前に転職の話をされて驚きましたが、その時に詳しく聞いて納得しました。私にとって大事なことは、できるだけ苦労せずに高い給料をもらうことです。だから、霊でもなんでも私が苦労するようなことでなければ、何でもいいんですよ」


 私が生まれてから、約四千六百年。ここまで適応力のある人間は初めてかもしれない。彼女ならきっと大丈夫。そう思い、本当に伝えたかったことを伝える。


「この体の中には四十八人の霊が入っている。私はその代表で本当の名前はカイトという。年齢は生きていれば四千五百九十二歳になる。この説明を信じてもらえるかな?」


「結構年寄りなんですね。若く見えますが。」


「ユーモラスな切り返しですね。気に入りました。この体の持ち主は、八時から二十時までの間休んでいて、その間は私が仕事をしています。二十時以降は元の体の持ち主である青木に戻ります。。青木と私とはそういう約束をしていまして、彼にとっては、休んでも仕事をしたことになるので、楽でいいと喜んでいる」


「それは怠け者っぽいですね。私はそこまで休んでいたいとは思いません」


「そこまで精神を乗っ取らせる必要はないが、私の中にいる霊のうち5人は女性なんだ。だからその5人を松井さんが仕事の時間中だけ受け入れて欲しい。かなり優秀な5人なんだ。それぞれの得意分野があるから、必要に応じて変わってくれればよい」


「問題ないですね。私の給料はそれによって上がりますか?」


 私は、彼女に最初は断られるつもりで言ったのだが、給料の確認をしてきたことに驚いた。給料アップはするつもりだったから、別に問題ないのだが、想像していた反応と違うと戸惑ってしまう。


「給料アップはする。松井さんと霊が入れ替わるごとに1万円追加。一日三回入れ替われば、元の給料と合わせ一日で四万円もらえる。というので、どうだろう」


「逆に一日一回も入れ替わらなかったら、元々の給料のみですね。もう少しだけ、なんとかなりませんか?」


 彼女は、入れ替わることに文句はないどころか、入れ替わらない日の心配をしている。何て人だ。面白い。


「もし、全く入れ替わらない日があれば、その日の給料は元々の給料に五千円上乗せ……でどうだろう。」


 彼女は、笑みを浮かべて言ったのだった。


「それで結構です。よろしくお願いします」


 最初の計画では、もう少しゆっくり時間をかけて説得するつもりだったが、早くも話がまとまってしまった。でも、これで一気に仕事がはかどるというものだ。もともと電話受けなど必要ではないのだ。普通の人は、こんなところに依頼などしないのだから。

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