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モラハラ婚約者があまりにも酷いので、やり返すことにした【連載版】  作者: セトガワ トウ


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23話 オープン初日、神客と地雷客

 オープンの日がやってきた。

 お店の外に出ると、澄んだ空気と青々とした空が広がっている。

 休日なので、多くのお客さんの来店を期待してしまう。

 一点、オープンに関して心配なこともある。

 アレジオだ。

 彼がこのまま黙っているとは思えない。

 フィロー様を警戒しつつ、なにか仕掛けてきそうな気がするんだよね……。

 

「やるっきゃない!」


 気持ちを切り替え、私は看板を入り口の前に立てる。

 開店の十一時まで、あと三十分。

 そんな最高のタイミングで空から黒い塊が降ってきた。


『おいリナリー、約束通り来てやったぞ』

「ありがとね〜! あそこで待ってて、アルミラ」

『フン』 

 

 アルミラ専用の食事台を指さすと、彼は鼻を鳴らしながらも素直に移動する。

 店の入口でブルブルと震える三人のウエイトレスに、私は声をかける。


「安心してください。あの子は私の友達で、襲ったりしませんから」

「と、友達ですか? ドラゴンと……?」

「はい。みんなは開店の準備をお願いします」

 

 私は厨房に入ると、急いで準備していたアルミラ用の料理を作り始める。

 この店のメニューはもちろん、アルミラ用に用意していた大きめの肉や野菜も調理していく。


「はい、おまたせ〜」

『だいぶ待ったぞ! 干からびるところだった』

「またまた〜。ほんの十分二十分でしょ。どうぞ」

『まあ、いい……。せっかくだし、食ってやろう』

 

 アルミラはスゥーと鼻から息を吸い込む。

 鼻腔をくすぐる香りを楽しんでいるらしい。

 だんだん、人間っぽくなってきたのなに?

 ガツガツ、ガツガツ——とすぐに本性を現すかのようにガッつきだした。

 うん、こっちの方がアルミラっぽい。


『グルォォオオオオオオ————!』


 そして、大気が震えるような咆吼を王都にまき散らす。


『実に良いではないかっ! なぜお前の作る飯はこんなに美味いのだ! 余も人間になれば毎日食えるのか!?』

 

 食べながら喋るので食べ物が飛んでいく。しかしアルミラは、それをすぐに拾って口の中に戻す。

 もう少し落ち着いてよ。


『しょっぱすぎず、それでいてコクのあるソース。それが適度な麺の弾力と上手に融合している。ヤキソバ……余は好きだぞ』

「前から思ってたけど、アルミラの口の中って繊細すぎない? 口も大きいのに、人間と感覚同じだね」

『上位種のドラゴンは、感覚の繊細さを持ち合わせているものだ。人間も小指の先ほどの物でも、味わうことはできるだろう?』

 

 確かにそうかも。

 なんなら、もっと小さな物でも味わったり感触を楽しむことはできる。

 私が納得させられていると、外野が騒がしくなった。


「……な、んだ、あれ……!」

「ドラゴン……ドラゴンだっ!?」

 

 咆吼で集まってきた人たちだ。

 さらに店のオープンと同時に来ようと考えていたお客さんたちが、続々と道に集まってきた。

 当然、大きな騒ぎになる。

 ダークドラゴンがいて、しかも人間用の料理を食べているのだから。

 私は急いで移動して、彼らに説明する。


「落ち着いてください。危害は加えません。彼はお店のオープンを祝って、訪ねてきてくれた友達なんです」

「ドラゴンと友達なんて、聞いたことがないぞ!」

「いや、それよりあれは、なにを食べている?」

「お店のメニューです。もうすぐ開店なので、よろしければ、こちらにお並びください」

 

 そう言いながら、私は看板の横を指さす。

 看板を見た彼らは目を丸くしながら驚嘆する。


「ダークドラゴンが立ち寄る料理店って……比喩じゃないのか……」

「ドラゴンすら虜にする美味しい料理を、お出ししますよ!」

「……おいどけ、俺が先に並んでたんだ!」

「嘘よ! こっちが先よ」

「ケンカなさらないでください。本日は二百食分、用意してありますから。メニューはこちらです」

 

 仲裁をしつつ、看板に書いてあるメニュー表を確認してもらう。


 

 ……極上ヤキソバ   1500リル

 ……鶏の唐揚げ    1200リル

 ……レモンスカッシュ  800リル

 ……ドラゴン定食   3000リル

 *ヤキソバは麺。唐揚げは鶏を揚げたもの。レモンスカッシュはビリビリする飲み物。ドラゴン定食は三つ全部セット。


 


 こちらの定食系のお店の平均は800〜2000リルくらいが多い。

 2000までいくと結構強気の値段になる。

 うちは特異性があるので、それでもいけそうだけど、まずは安めにしてリピーターを作りたい。

 一番前に並ぶ人に、私は一つ説明しておく。


「並んでいただいてありがとうございます。ただ、一番客に関しては決まっております。ご了承ください」


 私が頭を下げたとき、そのお客さんがやってきた。


「やあ、リナリー! いよいよだね」

「フィロー様、お待ちしておりました!」

 

 アルミラは別枠として、この店の一番客はフィロー様と決めていた。

 無事に開店できるのは、間違いなく彼のおかげだしね。


「僕の近衛騎士を二人連れてきたんだ」

 

 背が高くて凜々しい表情の男性二人が、フィロー様の左右を守るように立つ。

 立派な鎧に身を包み、王家の紋章の入った剣鞘を手にしている。

 髭の立派な四十歳くらいの人と二十代後半くらいの青年だ。

 

「おいあれ、王家の騎士じゃないのか」

「待ってよ……あの御方、フィロー様じゃない?」

「わたしたちも並びましょう!」

 

 さすがに王族の力は強い。

 そしてイケメン王子ともなれば、若い女性たちが花に寄せられる蜂のように集まってくる。

 

『リナリー、緊急事態だ。すぐに来い』

 

 私はアルミラのところに急いで戻る。


「どうしたの?」

『ヤキソバが無くなった。唐揚げもだ』

「あ〜ごめんね……。今日はここまでかも」

『なんだと? あの人間たちの分があるだろう?』

「お客さんなの。ここまでで我慢して。また今度作ってあげるから。そのとき、新作メニューの試食もお願い」

『ぐぬぅ……仕方あるまい。早めにしろよ、ドラゴンを長く待たせるな』

「うん、来てくれてありがとね!」

 

 存外聞き分けの良いアルミラが翼を広げると、集まった人たちの視線が釘付けとなる。

 力強く羽ばたいて去っていく姿に、誰もが感動していた。

 ドラゴンを間近で見られる機会なんてそうそう無いからだ。

 ましてや、命の危険性がないなんて極稀だからね。

 私は、お客さんに体を向ける。


「——オープンします!」

 

 手を挙げて合図を出すと、ロリナがお店の入口のドアを開けてくれる。


「いらっしゃいませ〜!」

 

 フィロー様たちが店の中に入ると、看板娘たちが元気よく挨拶をした。

 研修で身につけたことをちゃんとやってくれる姿に私は安心しつつ、厨房に急ぐ。

 コックコートに袖を通し、調理の準備に入る。


「リナリー、注文よ!」

「了解です」

 

 ロリナから伝えられたメニューをすぐに作る。

 練習してきたので手際には自信がある。

 できあがった料理はお客さんに出す前に、昨日2万Pで購入したカメラで写真を撮っておく。


「一品目だけは、私が届けますね」

「じゃあ、あたしは飲み物作っておくわね」

 

 レモンスカッシュはロリナに任せて、フィロー様の席に料理を運ぶ。


「お待たせしました。焼きそばと唐揚げが三つずつになります。すぐに飲み物も届きますので」

「ありがとう。それでは、いただこうか」


 ちなみに王都に箸の習慣はないので、フォークで食べてもらう形だ。

 屈強そうな近衛の二人が喉をごくりと鳴らす。


「殿下……香りこそ良いですが……この茶色い麺料理は大丈夫でしょうか……」

「こちらの鶏肉も茶色だ……まず我々が毒味をします」

 

 かなり警戒している。

 王子様の口に入れるものだから、特にそうなるのだろう。

 対照的に、フィロー様はリラックスしていた。


「心配しなくていいよ。リナリーを信じるんだ」

「殿下!?」

「そんなっ」


 焼きそばを真っ先に口に入れたフィロー様を見て、二人が心配する。

 突然、彼が泡を拭いたり倒れたりなんてことはない。


「素晴らしい……カップ麺より美味しいじゃないか! こんなの手が止まらないっ」

 

 言葉通り、手を動かしていくフィロー様につられるように、近衛騎士もそれぞれヤキソバと唐揚げに手をつける。


「なんだこれはぁっ!?」

 

 髭を生やした彼が絶叫する。


「味が濃い! 香草でもなければ、ただの塩とも違う。複雑で甘じょっぱい謎のタレが、モチモチした麺に絡んでいるぅぅ!」

 

 この人、前世で食レポやってました?

 その大げさぶりに吹き出しそうになっていると、もう一人の若い騎士も負けじと声を張る。


「団長、このカラアゲとかいうの……外側が硬めでサクサクするのに、歯を入れると熱々の肉汁があふれ出します! それでいて……肉が柔らかいんですっ!」


 部下の食レポを聞いた団長は慌てて唐揚げを食べる。

 

「なんということだ……。俺たちが日頃食っているパサついたロースト肉とは、大違いだ!」

「ですよね!」

「——二人ともうるさいよ。恥ずかしいし、静かに食べよう」

「「し、失礼しました……」」


 フィロー様に冷静に突っ込まれて、二人は大人しくなる。

 ただフォークを動かす速度は爆速だったけれど。


「お待たせ〜。レモンスカッシュになりまーす」

 

 ロリナが微糖の炭酸水を持ってきてくれた。

 三人は、顔を見合わせながらほぼ同時に炭酸水を口に含む。

 若い騎士がまずむせた。


「ガフッ、ゴホッ!? く、口の中に電撃が走ったかのようです!?」

「なんと……無数の妖精たちが、弾けて跳んで暴れ回っているぞ!」


 この二人、前世じゃなくて現役のレポーターかな?

 一人だけ落ち着いていたフィロー様だけど、刻むように何度も飲んだ後、カッと目を見開く。


「癖になる旨味だけど、脂っこさが少し口に残る焼きそばと唐揚げ。これはその二つを一瞬にして浄化させ、爽やかさを取り戻す役割……。けれど、平和になった世界はまた刺激を求める。つまり、また焼きそばと唐揚げが欲しくなるという仕組みなんだね、リナリーッ!」

 

 うん、二人の師匠はこの人だったのかもしれない。

 なにはともあれ、三人とも楽しそうに食べるので見ていて嬉しい。

 私はお辞儀をして、すぐに厨房に戻った。

 汗水垂らしながら、ひたすら焼きそばと唐揚げを作っていく。

 全部、一応写真を撮って保存しておく。 

 ロリナやみんなが、素早くそれをお客に出す。

 少しして、フィロー様が声がけに来てくれた。


「ごちそうさま、また来るよ」

「ご来店、ありがとうございました」

「頑張ってね。城で広めておくよ」

「助かりますっ!」

 

 フィロー様は片手を上げると、颯爽と去っていく。

 学校で改めてお礼を述べよう。

 そこから、忙しさは激化していく。

 どんどん注文が来てお客さんも回転していった。

 しばらくして、ロリナが焦った様子で厨房に入ってくる。


「リナリー、ヤバいわ。あいつが来た……」

「あいつ?」

「あんたの婚約者よ!」

「……いきます」

 

 まさかの本人がやってくるとは。

 額の汗を拭いながら厨房を出る。

 腕を組んだアレジオと、執事の格好をした老爺が入口に立っていた。


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― 新着の感想 ―
せっかく、アルミラをふくめた、完璧なゲストと共に、ワクワク楽しい気分で、オープンデーが終わるところだったのに! 莫大な借金にも裏がありそうだし、これまでの悪行全てに匹敵する、特大天誅がアレジオに下るこ…
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