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宿に帰還

 夕陽が完全にカルゼオンの街を沈め、ランタンの灯りが石畳を照らし始めた頃。

 領主の館からの豪華な送迎馬車は、冒険者たちが定宿とする『踊る麦亭』の前に静かに停車した。


「ありがとうございました、お気をつけて」


 イザヨイは優雅に馬車を降り、見送りの騎士たちに軽く手を振ってから、宿屋の扉をくぐった。

 中に入ると、夕食の準備で活気付く食堂の喧騒が耳に飛び込んでくる。


(ふぅ……。とりあえず、今日は一日仕事だったな)


 カウンターにいた女将に数日分の宿代の銀貨を支払い、イザヨイは真っ直ぐに二階の自室へと向かった。

 ガチャリと扉を開け、部屋の中に入る。


「疲れたーっ……」


 イザヨイは『星屑の聖衣』を着たまま、バタンと勢いよくベッドへ倒れ込んだ。

 フカフカのベッドが体を包み込み、同時にコルセットでガチガチに押し上げられていた双丘が、重力から解放されてドスンとシーツに沈み込む。


「はぁ……。それにしても、色々あったなぁ」


 天井の木目をぼんやりと見つめながら、イザヨイはヴェルリス家での出来事を反芻した。


 領主マクミランと副団長アンドリューからの、グリフォン討伐に関する尋問。

 ワイバーンの群れを相手にした、魔法の実力テスト(金策イベント)。

 そして、泣き虫の三男カルロスにお留守番のご褒美として施した、純粋なスキンシップ(という名のおっぱい顔面プレス)。


(ま、結果オーライだな。領主様にワイバーン討伐の恩も売れたし、何より……!)


 イザヨイはベッドの上でゴロゴロと寝返りを打ちながら、ニシシと笑みを深めた。


(アラクネの糸を加工できる幻の職人を、領主様直属の諜報網を使って探してくれるんだからな。金貨百枚の報酬を蹴ってでもお願いした甲斐があったってモンだ)


 これで、この物理的な揺れと重力によるデバフから解放される未来がグッと近づいた。

 究極の『揺れないインナー』さえ手に入れば、魔法の固定砲台を卒業し、かつてゲームで慣れ親しんだ、剣を握って最前線で敵を斬り刻むインファイトスタイルに復帰できる。


(……よっしゃ。なんか急に元気出てきた)


 イザヨイはむくりと上体を起こし、ベッドの端に腰掛けた。

 激しい戦闘(大魔法ぶっぱな)の疲労はないが、丸一日中気を張っていたことと、馬車に揺られていたことによる、精神的な凝りのようなものを感じる。


「こんな日は、やっぱり大きなお風呂に限るな!」


 イザヨイは立ち上がり、背中のホックを外して『星屑の聖衣』をスルリと脱ぎ捨てた。

 ドレスの拘束から解き放たれ、キャミソールとショーツだけの下着姿になると、再びあの圧倒的な質量と柔らかさを誇る双丘が、ぷるんと豊かに自己主張を始める。


「相変わらず重い……」


 女湯での視線にはまだ慣れないが、それでも大衆浴場の広さと熱いお湯は、異世界生活における数少ない極上の娯楽だ。


 イザヨイは手早く、冒険者の普段着に袖を通した。

 胸元は相変わらずパツパツで窮屈だが、豪華なドレスのままで大衆浴場へ行くよりは遥かにマシだ。

 そしてポーチを手に取る。


(今日は一人でゆっくりお湯に浸かってこよう)


 軽快な足取りで部屋を出て、イザヨイは階段を下りた。

 食堂からは冒険者たちの喧騒と肉を焼く匂いが漂っていたが、今はそれよりも石鹸の香りと熱い湯気を体が求めている。


「よし、銭湯へレッツゴー!」


 カルゼオンの夜の街へ、銀髪の美少女は、一日の疲れを癒すべく、ご機嫌な様子で駆け出していくのだった。

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