村の警備依頼①
屋敷に戻ったイザヨイは、手早く泊まり込みの準備――着替えやポーションなどの最低限の荷物――を済ませた。
ちょうど屋敷を出ようとしたところでアンドリューとすれ違った。
「おや、イザヨイ殿。お出かけですか?」
「あ、アンドリュー様。実は、ギルドで村の農地警護の依頼を受けたんです。数日ほど村に泊まり込みになるので、しばらく屋敷には戻れません」
「村の警備……ですか」
アンドリューの顔に、分かりやすく落胆の色が浮かんだ。
せっかく彼自身の提案で屋敷に滞在してもらうことになったのに、すぐに泊まりがけの任務で出立されてしまうのは、計算外だったのだろう。
「……そうですか。寂しくなりますね」
「あはは、すぐ帰ってきますから。あ、お風呂、すごく最高でした! 帰ったらまたゆっくり浸からせていただきますね」
「ええ。お待ちしております」
アンドリューの少し寂しそうな見送りを受け、イザヨイは仲間たちが待つ街の門へと向かい、全員と合流してハルモニア村へと出発した。
二日間の道のりを経て、ハルモニア村に到着した。
黄金色に色づき始めた麦畑と、豊かな野菜が育つ畑が村を囲んでいる。
しかし、よく見るとその一部が無残に踏み荒らされ、作物が根こそぎ食い散らかされているのが分かる。
「おお、冒険者の方々! よくぞ来てくだすった!」
村長と思われる白髪の老人が、麦わら帽子を取って一行を出迎えた。
「ここ数日、夜になると森から『ワイルドボア』や『ジャイアントバグ』どもが下りてきよって……。せっかく育てた作物が、このままでは冬を越す前に全部ダメになってしまうのです」
「なるほどな。そいつは俺たちに任せておけ。一匹残らず肉と素材にしてやるよ」
ボルグが自慢の胸を叩いて請け負うと、村長は安堵の息を吐き、彼らの寝床となる空き家へと案内してくれた。
「よし、じゃあ夜間の見張りのシフトを決めるぞ」
荷物を置いた後、ボルグが五人を集めて提案した。
「夜通し起きてるのは効率が悪い。二組に分かれて、前半と後半で交代して畑を見張るってのはどうだ?」
「賛成よ。それなら無理なく対応できるわね」
シエルが頷く。
「じゃあ、組み分けなんだけど……」
ボルグはチラリとイザヨイを見た後、ゴクリと喉を鳴らし、シエルに目配せをした。
(シエル……頼む! 俺とイザヨイを一緒の組にしてくれ! 夜の星空の下で、二人きりで見回り……完璧なシチュエーションだ!)
だが、シエルはその視線を完全にスルーして、口を開いた。
「じゃあ、私がイザヨイちゃんとシルフィアちゃんと一緒に組むわ! 女子三人組ってことで、どうかしら?」
「はぁっ!?」
ボルグが素っ頓狂な声を上げる。
「な、なんでそうなるんだよ!? 戦力的には、俺かクローザーがイザヨイと組んだ方が……!」
「あら、ボルグ。戦力ならイザヨイちゃん一人で十分すぎるでしょ? それに、女の子だけのナイショ話もあるんだから、むさ苦しい男二人は一緒に夜警でもしてなさいな!」
シエルが腕を組んでビシッと言い切る。
彼女の中では、「ボルグとイザヨイの恋のキューピッド」よりも、「イザヨイちゃんのイケメンムーブをもっと近くで見たい(あわよくばお近づきになりたい)」という個人的な欲望(禁断の扉)が完全に勝ってしまっていたのだ。
「……俺は、シエルの意見に賛成だ」
クローザーが、前髪の奥で密かに親指を立てながら同意した。
(ボルグとイザヨイを二人きりにするなど、絶対に阻止せねばならないからな。……まあ、俺も一緒に組めないのは痛手だが、リスクを減らすのが最優先だ)
「お、お前らぁぁぁ……っ!!」
ボルグが裏切られたような顔でワナワナと震える。
「あはは、私はどっちでもいいですよ。女子三人組、楽しそうですね!」
「ふんっ。まあ、男と組むよりはマシね。寝込みを襲われないように見張っててあげるわ」
イザヨイがニコッと笑うと、シルフィアも偉そうに杖を突いた。
こうして、ボルグの淡い下心は粉々に粉砕され、夜警のシフトは『男組』と『女子組』の二班に無慈悲に分割されたのである。
「チキショォォォッ!!」
夕暮れの村に、悲痛な男の叫びが空しく響き渡った。




