ドミちゃんと学ぶ魔術の基礎
「じゃ、私たちの国にたどり着いた瑛太君を称えて」
「「いただきまーす!」」
机の上には、巨大な魚料理を中心に、豪華な食事が並べられていた。
湖の上で生活しているだけあって、魚が主食となっているのだろう。
「それで、魔術の話だっけ」
トリクスから酒とおかわりを禁止され、落胆していたドミちゃんだったが、ようやく復活して話を切り出した。
「実は、トゥリーちゃんみたいな大型のデバイスって今は見ないのよ。例えば、これは私のデバイスなんだけど…」
そう言って差し出されたのは、スマートフォンのような小型の機械だった。
「この小さいのが、今の魔術デバイスなのですか…?」
「トゥリーちゃんみたいに意思を持って喋ったりはしないけど、魔術に必要な機能は全部この大きさに詰まってるよ」
「わ、私はもう旧世代機の…骨董品…なのですわね…」
しばしば自分を最高峰の魔術デバイスと言っていただけあって、ショックを受けたようだ。
「じゃあトゥリーより高性能なんですか?」
「いや、そんなことはないよ。使える魔術は君に比べたらほんの少しなんだ」
そりゃあそうだ。震光灼のような強力な魔術が誰でも使えたら、世界が滅んでいる。
「今の魔術デバイスはロックがかかってるからね。免許が無いとほとんどの魔術が使えない」
「……えっ、免許?」
「そう、免許」
「魔術って免許制なんですか?」
「うん、危険なものもあるし、職業によっては特定の魔術の免許を持ってないといけない、みたいなのもあるよ」
免許を取ると、該当の魔術のロックが解除されて使えるようになる。
魔術のランク分けも、ロックがないもの、成人すれば使えるもの、免許が必要なもの──と、段階を踏んで高くなっていく。
「…じゃあ僕が全ての魔術を使えるのは」
「単純に、もとよりトゥリーちゃんにロックがかかってないんだろうね」
本当に単純だな…
ファンタジーの世界観には疎い僕でも、魔術と聞いたら生まれ持った才能だとか、レベルアップで習得だとかを想像するのに。
「し、知りませんでしたわ…そんな話…今の魔術はそんなことになってるのですか…!?」
そして僕以上に驚くトゥリー。
「私がわかるのはこれくらいかな…フォトンについては私もよくわからないし…あ、おかわり」
「はいはい…って騙されんからな」
「ちぃっ」
これで、魔術について、この世界の地理については知ることができた。
しかし、まだ自分の置かれた状況を推測するには空白が多すぎる。
まだしばらくは目的もなくふらふらすることになりそうだ。
「ちなみに、免許を取るための魔術専門学校ってのがある。それで…私は近々、その専門学校をオラリアにも設けたいと思ってるんだ」
「マジっすか!?」
急なカミングアウトにトリクスが立ち上がる。他の村人たちも湧き上がる。
どうやらこの話を村人の前でしたのは、この話題を切り出すためでもあったらしい。
「そのためにはまず、教師として誰かに魔術を学んできてもらう必要があるんだけど…それを今度の祭で決めようと思ってるんだよね」
「祭?」
「そうか、エータは知らないよな! 三ヶ月に一度、成人した有袋人類を祝って祭をやるんだ!」
「そう、そこで踊りだとかのパフォーマンスや、国民同士の力比べ大会なんかも行われる。今回はそこで優勝した一人を教師として推薦したい」
この言葉に、皆はさらに湧き上がる。
そして、この時は関係ないと思われていた僕も、この祭に向けて色々巻き込まれていくのだった。
ここまで読んでくれてありがとうございました。
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オラリアバラ
硬骨魚綱 スズキ目 アカメ科 アカメ属 オラリアバラ
塩分濃度の高いオラリアの湖に適応した魚。有袋人類たちの主食になっている。
※この作品に登場する動物は、一部を除き創作されたものです。現実を元に創られていますが現実には存在しません。