ソの国は平等の下に
「魔術義装試験機43番、聞こえるか、こちら連邦軍参謀本部。被験体43番の休眠状態を解除し、すみやかにこちらの指示に従え」
迷洞樹から帰還した僕を待っていたのは、『政府』と呼ばれる者からの着信だった。
「あ、あなたたちがトゥリーの言っていた『政府』ですか…?」
「…待て。なぜ被験体が既に目覚めている?」
ここが地球と判明したのも束の間、予想外にも真実が近づいてきたため、僕は思わず聞き返す。『政府』はそれに驚嘆してさらに疑問を漏らした。
「おそらく野生動物がコフィンを掘り起こし、休眠解除スイッチに触れたものと思われますわ。それよりも指示、とは」
「待ってくださいトゥリー、それ以前に僕は政府について何も知らないんですよ。そちらに背くつもりはありません…が、せめて、僕が置かれた状況を説明してほしい…というか…」
はやる気持ちを抑えられず、僕は要求をしたが、相手はおそらく国家。少し怖くなって、言葉が尻すぼみになっていく。
「なるほど……わかった、後日、可能な限り情報を送ろう。それから、被検体という呼び方もふさわしくなかったな。無礼を詫びる。名前を教えてくれるかね?」
「ありがとうございます。紫香楽瑛太、といいます」
「しかし瑛太様を起こすということは軍事的な問題が発生したということですわ。なにがあったのです?」
今度はトゥリーが踏み込んで質問する。
「…結論から言おう。反政府テロ組織の調査と鎮圧を依頼したい」
「て、テロぉ!?」
「落ち着いてくださいませ。元々私たちは軍用兵器、むしろ本業とも言うべき仕事ですわ」
「いやそれも初耳ですからね。なんでいつも大事なことを伏せておくんです?」
「すみません…」
萎縮するトゥリー。今回ばかりはちゃんと反省してほしい。政府からのデータもちゃんと全部教えてくれるか心配だし。
「仲が良くて結構。具体的にはオラリアから北西、海を渡ったところにあるアセアという国に向かってほしい。レジスタンスの動向を探るだけで構わない。君の年齢なら潜入も容易だろう」
「……少し考えさせてください。どちらにせよすぐには動けません」
「わかった。無理をして受ける必要はないが、良い返事を期待している」
そう言うと通話は切れた。
急激に解像度の上がった世界に、僕は戸惑うことしかできなかった。目的もなく、ただ生きることに必死だったから。
レジスタンス、という人々に想いを馳せる。僕が任されたのは要するに彼らとの戦争に加担するということだった。
『政府』は優しい人ではあったが、同時に、僕の関与がなければレジスタンスを虐殺するつもりでいる。
──あの鳥が危ないと思ったら、つい──
リアムの言葉を思い出す。そうだ、必死に生きてるのは僕だけじゃない。振り返ると、リアムがトリクスに稽古をつけてもらう約束をしていた。
皆を見ていると、いつのまにか自分のことだけを考えるなんてできなくなっていた。いや、もっと最初から、僕は──
「トリクスさん、僕にも教えてくれますか?」
「ん? お前も祭に出るのか?」
「いや、これから必要になるかと思うので」
トゥリーの力だけに頼ってはいられない。自分の命は守れるかもしれないが、今それを良しとできる感情は持ち合わせていない。
祭の日…僕がこの国を出る日まで、残り十日。
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