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メタァな厨二病男子とチートなお節介系幼馴染は果たして純潔を守れるか!?  作者: アシタカ
第四章 魔族領・ラースラッド編
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第40話 神隠し

 私たちは海上にいた。船は揺れ、海風を浴びる日々を数日過ごした。


「もうすぐスロテナントに到着できるのね」


 私は甲板から大陸を眺める。険しい山脈の続く景色から、段々となだらかな平地が形成されているようだ。

 アイベックス海賊団はトルペ沿岸からスロテナントを目指していた。あの後ライナルトを説き伏せなんとか送ってもらうことを約束すると、そのまま出航したのだ。

 アイベックスたちは可愛い奴らで、すぐに仲良くなれた。そして余談だが、なぜかライナルトはあの後イザークが怖いのか人型には戻らずヤギのままで過ごしていた。

 本当は旅の前に支度を整えなくてはならないのだが、今はお尋ね者の上無一文である。とにかく進むのみだと私たちは海上をひたすら進んでいた。


「マーガレット。ワガママなところもチャーミングだね」

「何がワガママよ。夕飯の調達とか手伝ってるし、いいでしょ」


 昼間っからワインを取り出しグラスに注ぎ、ライナルトがそんな世迷い事を吐き出す。慣れたもので、これは彼の挨拶のようなものだと理解した。

 私たちは大きなウナギみたいな魔物とか、下顎が異様に発達した魚とか、見たこともない生き物ばかりだがアイベックスたちと毎日釣り上げては晩餐の日々を過ごしていた。それ以外にも積荷はあったので、食料に困ることはない。

 トルペで人族に追い立てられてから数日。もうあの町には行けないなと思ったが、そもそもラースラッドで帰り方を教われば即帰宅なのだから、どんな話になっていようが関係が無い。


「そうだ、むしろこのままスロテナントを通り越してラースラッドまで送って行ってよ。そしたらこっちも一気に行けて時間短縮だし」

「いやいや、申し訳ない。私たちも慈善事業じゃないんだ。本業を疎かにしたら備蓄もすぐ底をついてしまうから、それは受けられないねマイハニー」

「本業って略奪行為でしょ?そんなのに身を入れるなんて最低じゃない。そうだ、これを機に廃業して別の活動しなさいよ。海賊船クルーの旅とか」


 海賊行為許されまじ。私が提案すると、アイベックスたちは反論ないらしくメーメーと鳴いていた。ライナルトは「考慮しておこう」と返事を濁したが、後で他のアイベックスたちを説得しておこう。


「ところで、なんで人族付近の海域で海賊やってるの?ドロデンドロン大陸の方に一応魔族の領土があるんでしょ?」


 不思議に思ったことを聞けば、どうやら魔族領ラースラッドは人族との戦争に負けて以来荒廃していて、海賊をするにも襲える町や村がないらしい。ライナルトたちは豊かな町や村を求めて人族領付近に現れているようだ。もともと、食うに困ったためアイベックス海賊団は結成され、海賊行為を働くようになったのだという。


「スロテナントまで送り届けたら、私たちは帰らせてもらうよ」


 そこは譲れないらしく、ライナルトはワイングラスを揺らし、一気にあおいだ。船長からの許可は得られなかったので、私からのお願いは却下されたようだ。仕方ないので下船するまでの間にアイベックスたちを口説き落として海賊業を廃業させてやろう。

 そこから幾日か過ぎ到着した海岸線は、ゴツゴツとした岩肌の険しい山脈の麓であった。


「本当にこの辺りにドワーフの住処があるの?」

「もちろん。以前に寄ったことがある。ここを南下していけば集落があったはずだ」


 ライナルトは古い地図を渡してくれた。人族と魔族が戦争を始める前、ライナルトが気ままな一人旅をしていた時に立ち寄ったことがあったらしい。彼は聞けば本当に吟遊詩人のようなことをしていたそうで、そういう活動の経歴を持つようだ。


「しかし、霧が深いな」

「何か聞こえないか?美しい音色が・・・」

「ナイト、何も聞こえないんだけど」


 上陸し、霧深い森を眺める。何だか不気味な雰囲気を醸し出す霧は濃く、あまり視界を遮っていた。

 とにかくスロテナントを目指す。そこで一泊させてもらい、明日また海岸沿いを東に進んでまた次の大陸を目指すのがこれからの予定だ。ライナルトに渡してもらった地図を頼りに歩き出した。

 しかし日が暮れてきても、一向にドワーフの集落は見つからなかった。何度も地図を確認しながら進んだはずなのだが、いつの間にか元の場所に逆戻りを繰り返していた。


「なにこれ?地図が間違ってるのかな?」

「いや、それよりも・・・これが神隠しというやつじゃないか?」

「噂になってたあれか・・・」


 どうやら里が消えたらしい。本当に神隠しがあったとは驚きである。


「どうする?もう暗くなってきたよ」

「仕方ない。野宿するか」

「ウソだろ!何のためにスロテナントに寄ったのか、分かんないじゃないか!」


 がっかりだが仕方ない。私たちはこの日は野宿をすることになった。せっかく集落が近くにあるはずなのに、残念である。

 次の日は朝早く起きるとまずはアイベックスたちから分けてもらった食料で朝ごはんを食べた。ライナルトには見つからないようこっそりともらってきたのだが、彼らは大丈夫だろうか?


「それじゃ、ラースラッドに向けて出発しますか!」

「待ってよナイト。火の後始末とかちゃんと手伝ってからにして!」


 野宿の片付けも終了し、東へと向かうことになった。その東の沿岸にも一応船の乗り付け場があるようだ。そちらを目指して進んでいく。ちょっと肌寒くて、いまだ霧も深い。


「道は合ってるかな?こうも霧が深いと何も見えなくて困っちゃう」

「問題ないとは思うが・・・」


 少し魔物の狩りもしながら道を進むと、濃い霧の先にゆらゆらと光が見えた。


「何だろう、あれ・・・?」

「松明か?」


 近づいてみると、それは松明だった。乗り付け場に着いたらしく、桟橋の手前に明かりが灯されていた。そして、そこには見たことのある人物が立っていた。


「おいでませぇ。お待ちしてましたよぉ」

「ジークベルト!」


 そこにいたのはインキュバスの魔族ジークベルトだった。

 怠そうに柵に寄りかかり、手をヒラヒラと靡かせ彼は笑顔で出迎えてきた。私はゾンネンブルーメでの出来事を思い出して杖に手をかける。


「いやいや、マーガレット。警戒しないで。今回はブルクハルト様からの命令でお迎えに来ただけだから。何にもしないよ」

「はぁ!?お迎え!?」

「そうそう、キミらが来るから迎えに行けって言われちゃって。やっとこ魔族領に戻ってきたばっかなのに、人使いが荒いよねぇ」


 ジークベルトはケラケラ笑うと私からイザークへと視線を移した。


「てなわけで、イザークさんも止めてくださいよ?さすがにあんたに攻撃されたら俺もきつい」


 返事はしないが特に攻撃態勢に入らないイザークを見て、ジークベルトは柵から背を離し近づいてきた。


「どうせここを渡ってラースラッドに入る予定だろ。ここの管理してんのは魔族だから、俺がいれば余計な手間もなくすんなりと入れるわけ。どうよ、むしろありがたいでしょ?」


 ジークベルトが視線でさすほうに目を向けると、桟橋の手前に小屋があった。そこの受付のようなところに髭の生えたカエルが座っていて、胡散臭そうにこちらを眺めていた。

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