特別編「天河ゆらかは“義姉”アヤセちゃんとの初夢を見るんです!」
短編扱いだったものを、旧作として統合いたしました。
なお、執筆はココロるり子です。
年の瀬が近づく12月の最後の日。相変わらず忙しいお母さん、お義父さんと一緒に家で食事をすることは少ない。彩世ちゃんがキッチンカウンター据付のテーブルに夕食をならべてくれている。
トマトとモッツァレラチーズをお花のように飾ったカプレーゼ。蒸した野菜のバーニャカウダー。鯛とキノコの香草焼き。十六穀米のおにぎり。そしてデザートには、彩世ちゃん特性のカスタードプディング。
彩世ちゃんが新しく買ってくれたルル・フルレーラ社の食器セット。白色と茶色とクリーム色に赤と緑のアクセントが華やかで、ただでさえ美味しい料理をさらに引き立ててくれる。
『いただきます』シンクロいただきます、をして、料理はきれいに完食。
食器を流し台まで運ぶと、彩世ちゃんが「ごくろうさま」「たすかるわ」「ありがとね」と笑いかけてくれるから、あたしははりきっちゃうの。
片づけをおえた彩世ちゃんはエプロンを外しながら、背後からあたしの両肩に手を置いた。背中がぞくっとしたけど、いやだからじゃない。
ふれてくれたことが、恥ずかしいけどうれしい。
「ゆらかちゃん、おふろ、一緒にはいりましょうか」
※※※
あわ立てた牛乳石鹸を手でとり、もこもこのひつじみたいに、あわだらけにされて、いつもよりも丁寧に、彩世ちゃんは、あたしのからだを洗ってくれた。
ほかほかしたからだは、お湯にはいって、もっとあったかくなって。
彩世ちゃんのからだが、うしろから、抱いてくれていて、ぼぉーとする。
もっと、つよく、ぎゅっとしてほしい。
「ゆらかちゃん」彩世ちゃんが、耳元でささやいた。みみたぶをなめられて、胸元をなでられて、あまい声で、なんども名前を呼んでくれる。
ぬれたままの彩世ちゃんの手が、あたしのあごから、くびの下へ。
あたしはへんな声をだして、もぞもぞとカラダをくねらせる。
「ふふ・・・かわいい」
あたま、ぼんやりとしてる。
お湯がいつもよりも、あついから、かな?
「ずっとね、いえなかったんだけど、わたしね・・・ゆらかちゃん、と」
彩世ちゃんにひきよせられ、体勢が入れかわって、きれいなくちびるが、あたしのくちびるに向かいあって、
「あやせ、ちゃ・・・」
「ゆらかちゃんに、一度でいいからコスプレをしてもらいたいの」
ぽんっ!
あたしは、ベッドにねそべっていた。おとなが3~4人は横になれるサイズで、かたちは丸い。絹のシーツにレースのふちどり。天上にはカガミ。
カガミには、あろうことか、エプロンドレス姿の、あたしが、おどろいた顔でアタシを見ていた。
いまのいままで、おふろに入っていたのに、どうして?
どうして、あたし、こんな、め、めめ、メイドさんの服着てるの!?
「ゆらかちゃん、それはね・・・ゆらかちゃんは、わたしだけのかわいいメイドさんになったからよ」
艶のある黒いドレスの、彩世ちゃんはイジワルそうに笑って、あたしをベッドにおしたおした。
まさに、彩世おじょうさまだ。
「きゃ」
「ふふ・・・いいわよ、ゆらかちゃん。もっと、きかせて、ゆらかの、こえを」
エプロンドレスの胸もとを、彩世おじょうさまの手がまさぐる。なんにもない、あたしの平野をさらうように。
「おじょうさま、おやめになっ・・・」
「おだまりなさい、ゆらか。メイドのものは、主人のもの。あなたのカラダは、髪の毛の一本まで、わたしのものよ」
キス、キス、キス。彩世おじょうさまの、執拗で、上手なキス。
あたしは、うれしくて、はずかしいけど、いとしくて、からだのチカラがぬけていく。
「あやせ、ちゃ・・・ん」
「あら、ゆらか。“おじょうさま”を忘れていてよ」
する――、する――。
抵抗もできなくて、あたしの貧相な姿がむきだされて、おじょうさまに押し抱かれる。
「いっしょに、たのしみましょうね、ゆらか。わたしの、たいせつな、ゆらか」
あやせ、ちゃんっ!
※※※
「あやせ、ちゃんっ!」
おきあがったら、そこは、見慣れた、あたしの部屋で、いつものパジャマを着ていた。
カーテンのすきまから、まだ暗い、外がみえた。枕もとのスマホで時間を確認すると、まだ朝の5時すこしくらい。
「なんだ、ゆめ、か」
あたりまえ。あんなおかしなことって、ぜったいにないんだから。
彩世ちゃんが、かわいいとか言ってくれたり、抱きしめてくれたり・・・、
『――わたしの、たいせつな、ゆらか――』
つごうのいい、ゆめだ。
あ、でも、今日は1月1日、元旦だ。
1年のはじまりで、冬休みも、もうちょっとで終わる、おりかえし地点の日。
「はつゆめ、か・・・」
つぶやいてみると、ゆめの中の彩世ちゃんの姿がおもいだされた。
あんなの、彩世ちゃんとはぜんぜん違ってたけど、あたしは、呼び捨てにされても、うれしかった。
へやのドアをあけて、廊下にでると、きっと現実の彩世ちゃんがもう起きてて、お雑煮をつくっている匂いがするんだろうな。
「彩世ちゃん・・・だいすき」
こえを限りなくちいさくし、あたしはいとしい人のなまえを、祈る。
おもいが叶わないことはいい。
すきなひとが、どうか、幸せでいられる、1年でありますように・・・。