1、出会い
なんでこんなことになっちゃったんだろ……。
運悪すぎる。
あーあ、わたし捕まっちゃうのかな。
―――その日は高校二年に進級した春の日。
暖かい日差しが気持ちよく、いい感じのクラスメイトたちといい距離感でいけたから、ほんとに良い日だなー! なんて呑気に思ってたのにな。
学校が終わったバイトの帰り、全然知らないお客さんに待ち伏せされて腕掴まれて、怖くて振り払おうとしたんだけど草むらに連れ込まれて、のしかかられて首絞められて、体まさぐられてあーこのままやられるのかな……死ぬのかな……なんて諦めるわけもなく、やられるなら先にやっちまえ!! と思って拾った石で思いっきり頭殴ったら、たぶんこいつ死んだ?
どうしよう殺しちゃったのかな。
あーあ、わたし捕まっちゃうのかな。こんなやつ殺しちゃって人生終わるとか最悪すぎる……。
逃げようかな……まだ生きてるかなー? 心臓? 調べたかって? えー、やだよ触りたくないきもいし。
なんか連れ込む感じとかが手馴れてたから、こいつ常習犯じゃね……?
はぁ? きもすぎ。死ねばいい、あ、でもわたしが殺人犯になるのはちょっとなー、困るわぁ。どうしよ。
匿名で通報して逃げる? うーん、でも治ったらまたやりそうだし逆恨みしてきそうだしなー。逆にとどめさす……? 池とかあれば落としちゃう? うーん、それだとガチの殺人だしなー。さすがに……。
こんなやつのせいで犯罪者になりたくないよなー。
っていう感じで色々、悩んでたんだけど、なんかもう悩んでるどころじゃないや。
だってさー、なんかさー、死神がいるんだもん。
うん、死神。ここに。
背中くらいまであるつややかな黒い髪に赤い目、白い肌に鮮やかな血の色のようなふっくらとした唇、かわいらしさと妖艶さが混ざったような容姿。
そしてフードのある黒いローブ、フードの縁にレースと、ローブの裾も短めでレースが縁取りされている。かわいい。膝丈の編み上げブーツに鎌も持ってる。……ただ、鎌は全然大きくなくて草刈り鎌みたいな小ささのを持ってる。
自分で言うのもなんだけど、わたしもかなりかわいい方ですけどね? スカウトとか日常的にされますけどね? そのわたしが見てもかなりの上位だ。
まあうちは父親と離婚した母親がかなりのあれなので、スカウトに家に来た人がびびって逃げるんだよね。
『なんでこいつばっかり!! いつもいつもいつもいつもこいつに会わせると男は全員こいつになびきやがって!! 色目ばっかり使ってるんじゃねえよ!! ご当主様にまで!!』
色目なんて使ってないし。だって? わたしかわいいし? というか客観的に見て美人だし?
てかなんか本家の人が言うには曾お祖母さんにそっくりらしいし。その曾お祖母さん、写真見るとほんとに美人さんなんだよね。だからか分家なのにわたしに対して腰が低いんだよねー。よくわからんけどオヒイサマって呼ばれてる。
髪をインナーカラーにしようが、全然構わないらしい。曾お祖母さんも戦前生まれにしては身長高かったらしいし、わたしも二重のはっきりした顔立ちにはっきりした目元にクッキリした二重瞼にパッチリと開いた目。バランスの良い鼻に自然に口角の上がったぷっくりした唇。これは、甘くなっても仕方ないだろね。うんうん。自画自賛!!
まあね? 高校卒業したら絶対出ていくけどね……! それでバイト頑張ってるんだけどねー。てかまたなんかあったら今度は本家に逃げる予定。……たぶん、本家に言ったらあの人が放逐されて、もっとおかしくなるだろうからなー。
あーあ。やな人のこと思い出しちゃったな。
で、これ絶対死神でしょ?
どう見てもそうだよね?
……でもね、めっちゃ怪しい見た目なのに、なんか変わってるかも。
『もう少し、はぁ、しったら、……冥界ッポイン……ト。あっと……すこし? まぁだかな……? まぁだ? もうちょっと?』
……ほら、変な歌歌ってるし……つかまじなにこの歌。ポンコツ感ありすぎだろ。かわいいのに。
死ぬの待ってるみたいだしまだ生きてるんだなー。ていうか、魂とればいいんじゃないの? 死神ってそういうんじゃないの? 何やってんだろ……気になりすぎる。
「ねえねえ、あなた死神でしょ……? 魂取らないの? ていうかこいつまだ生きてるならどっか違うところで死なないかな? わたし捕まりたくないの」
二度見された。きれいな二度見。
『あっ……あの? 見えて……? どっうどどしよ』
この子おもしろいかも。
「ねえ、なんとか出来ない? あなた死神さんだよねぇ?」
『あの、あの。わたし、見える?』
「うん、見えてるよ」
『あの、あの。人間さんでたまに、力がある人、できるの』
「力?」
『あの、この人、あの。……たくさん悪いことした赤い人、力ある人、なら、魂取れるの』
「そしたらどうなるの?」
『あの、あの。そしたら、ふわふわって、どっかいくの』
「うん、それで?」
『あの、それで、あの。どっかで死んじゃうの』
「……ふーん、じゃあ、魂取り出したらいいのか。どうやるの?」
『……あの、あの。……なんかこう、こうやって、こうしてた、のは、見た。けど、わからないの……』
「ふーん。こうやって? つかむ? おっ!? こう? ひねる? ん? ひねる? んん? こうかな? ねじる?」
『あ』
「あ」
『出来て、る』
「なんかできたっぽい、え、わたしすごくね? 千歳ちゃん天才ー!」
あ、待ち伏せ男がふわふわしながらどっかいった。ふわふわってほんとふわふわなんだ。
死神ちゃんがそわそわしながらわたしが取った魂とわたしの顔をかわるがわる見つめている。
『あの、その魂、あの。ほしい……。冥界ポイント、あつめてるの』
「冥界ポイント? 説明してくれたらあげるよ」
『あの、ポイント、あの。冥界の王様、集めてるの』
「うん」
『あの、あの。いっぱいで、見習いから、あがるの。見習い、魂取れないの。待つの』
「うんうん、じゃあ今は見習いさんなんだね? あ、だから歌いながら待ってたんだね」
死神ちゃんは頷いた。
『あの、あの。人間さん、いいことあるの』
「そうなんだ?」
『あの、うん、あの。魂をとれる、力のある人、ポイント交換、できるの』
「え、えっ、ポイント交換? 人間のお金になるのかな? ……どうやって?」
『あの、冥界の王様、あの。「誰でもいいからさっさとやってくれたら休暇取れるのに」って』
「うん????」
『あの、あの! 冥界アプリ、ポイント交換』
「うんうん。冥界アプリ……急にリアルになったな……あ、それはわたしも使えるの?」
『あの、力のある人間さんなら、あの。これ触る』
「あ、スマホ? え、アプリあるの? どれ? 触る? ええ…? ……え、ある。まじだ」
『あの、魂を、あの』
「ああ、うん。説明してくれたもんね。ありがとう、はいどうぞ」
死神ちゃんは顔をぱぁぁっと輝かせると魂を自分のスマホに吸い込ませた。
「へぇぇ。ポイントでお金もだけどスキル? も取れるんだ。へえええ、透明になれる。とか、テレポートとか、壁抜け……? これって魂取るためのスキルなのかな? ふーん、……なんかおもしろそう」
『あのっ! ポイント! いっぱい! あの! ポイント、初めて!!』
「死神ちゃん、名前は何ていうの? わたしが協力してあげる」
『……あの、あの。協力……? 名前??? ない??? ない』
「うん、悪い人がわかるんでしょ? その死神ちゃんが言う悪い人の魂とってあげる。悪い人なんかいなくなればいいじゃん? で、ポイント半分こしようよ」
名前がまだないみたいだから付けた。アーノちゃん。
「よし、あなたはアーノちゃんね。わたしは木原千歳、千歳って呼んでね」
『アーノ、アーノ、アーノ! チトエ?「チトセ」トトセ「チトセ、あー、チトセでもトトセでもトセでもなんでもいいよ」トセ。トセ!』
アーノ、アーノ、トセ、トセ、と言いながらくるくる踊り始めたアーノちゃんを見ながら、
いっぱいポイント貯めたら王様の好感度が良くなるかもしれないしー。そしたらアーノちゃんも見習いじゃなく死神になれるしー。お金は貰えるしー。悪い人はいなくなるしー! お金は貰えるしー!
いいことばっかりじゃん。
それにアーノちゃん、『悪いことした悪い人だから、力ある人間さんなら魂取れるの』って言ってたから、悪い人じゃなかったら取れないってことだもんね。ならいいじゃん!!




