プロローグ
俺は、生きているのか――。
それとも、生きていると感じているだけなのか。
潰れたマメが裂けたのだろう。
珊瑚を削って作られた粗末なツルハシの柄を握る両手から、真っ赤な血がぽたり、ぽたりと冷たい岩床へ落ちていく。
だが、不思議と痛みはなかった。
痛みに慣れたのか。
それとも、もっと別の何かを失ってしまったのか。
「おい! 新人! ぼーっとすんな!」
薄暗い坑道の中に、よく通る女性の声が響いた。
顔を上げる。
そこには汗まみれの顔をしかめた千萩さんが立っていた。
「おっ? 血が出てるじゃんか。大丈夫か?」
千萩さんは自分のTシャツの襟元で額の汗をぬぐいながら、俺の手を取った。
荒れた手だった。
俺と同じように、この坑道で毎日ツルハシを振るっている証拠だ。
「大丈夫です、千萩さん。痛くないっす」
「そうか。なら、もう少し掘ったら休憩にすっか」
短い黒髪を揺らしながら千萩さんは振り返る。
その背中を見上げ、大きく息を吸った。
そして、もう一度ツルハシを振り上げる。
カキィン――。
甲高い音が坑道内に響き渡った。
その音に合わせるように、天井から吊り下げられた光クラゲたちがゆらゆらと揺れる。
淡く青白い光が岩肌を照らし、血に濡れた俺の手をぼんやりと浮かび上がらせた。
ここへ来て、どれくらい経ったのだろう。
もう思い出せない。
ただ一つだけ分かることがある。
俺は今、奴隷だ。




