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 オズワルド視点→アリシア視点




 帰国後、俺たちは宰相が事件に関与していた証拠を徹底的に探し始めた。日夜問わず情報を集め、証拠を探し続けたが、宰相の関与を示す明確な証拠は見つからなかった。


「くそっ!」


 焦りから、感情的に力強く机を叩いてしまう。



 帰国前、捕えた賊の顔を一人ずつ確認していくと、確かに宰相と瓜二つの男がいた。俺たちは驚きを隠せなかった。こんなにも似ている人間がいるとは思わなかったからだ。


 犯罪組織がノールの港で検査を受けずに出港許可証を入手した方法はわかった。宰相に似た男は、宰相のふりをして検査を回避したのだ。


 宰相は確実にこの件に関わっている。しかし、彼は少女たちを誘拐した実行犯ではない。誘拐の真犯人はグロッサ王国の人間だ。


 宰相は誘拐した少女たちをグロッサ王国へ出国させるため、密出国に協力していたのだ。

 利益は少ないがリスクも少ないというわけだ。


 だが、これは推測に過ぎない。アリシアの証言だけでは宰相を追い詰めることが出来ない。何か宰相と繋がる物的証拠があれば……。


 明日は王城で大規模な夜会が開催される。この夜会までに何としてでも証拠を掴みたいが……。


 頭の中は焦りと怒りが交錯していた。




 ***




 夜会当日、悔しさと不甲斐なさを募らせながらも、俺は会場に立っていた。


 俺たちは宰相が事件に関わっていた確実な証拠を見つけることが出来なかった。



 夜会会場は華やかで、多くの貴族たちが集まっている。

 俺がアリシアをエスコートして会場に入ると、周囲の人々は驚きの表情を浮かべ騒めいた。


 俺がアリシアの腰をグッと強く引き寄せると、彼女は恥ずかしさに顔を赤く染めた。


 可愛い……。アリシアが無事であったことに、心から安堵する。


「オ、オズワルド様、あの、もう少し離れて……」

「アリシアが誰のものであるのか周囲に示す必要があるだろ?」


 アリシアの小さな抵抗に構うことなく、俺はそう言って周囲に目を向けた。アリシアは気づいていないが、周囲の男たちは熱い視線をアリシアに向けている。


 普段のアリシアは控えめな格好をしていたから地味に見えていただけで、ドレスアップしたアリシアは本来の美しさが際立っていた。


 周りの男たちを牽制するため、俺はさらに彼女を抱き寄せ、彼女の髪にキスをした。






 アルがテイラー男爵令嬢をエスコートして、会場に姿を現すと、場内はそれまで以上に騒めいた。テイラー男爵令嬢は俺たちを見てニヤニヤしながら、握った手の親指を上に向けて立てている。


 アルの趣味を本気で疑う……。


「イザベラ様、お綺麗だわ……」

「アリシアの方が綺麗だよ」

「オ、オズワルド様ったら……」


 アリシアは赤くなった顔をさらに赤く染めた。





 そうしていると会場に宰相が現れた。俺たちは平静を装い、彼を注視した。


 宰相は通常と変わらず平然としている。


 そのとき、宰相の後ろに立っていた彼の妻を見て、アリシアが息をのんだ。アリシアは俺の腕を握りながら、震える声で言った。


「オズワルド様、あのネックレス……! 宰相夫人が身につけているネックレスは、わたしの母の形見です。わたしが攫われたときに奪われた、パライバトルマリンのネックレスです……!」

「何だって……!?」


 宰相の妻がアリシアから奪われた宝石を身につけている。それこそ、宰相が事件に関わっていた何よりの証拠だ!


 逸る気持ちを抑えながら、宰相に不審がられないよう、俺は会場奥の壇上へ向かい、ヘンリーに報告した。

 ヘンリーは深く頷き、深刻な表情で側近たちに指示を出し、彼は静かに国王陛下のもとへ報告に向かった。


 陛下が会場に現れると、ざわめいていた会場が一瞬で静まり返った。人々の視線は、一斉に陛下に向けられた。


「皆、今宵はよく集まってくれた。開会宣言に先立ち、王太子が発言をする」


 その言葉に、会場には静寂とともに張り詰めた空気が漂った。ヘンリーは宰相に近づき、ゆっくりと言葉を述べた。


「宰相、そのネックレスは、()()()()()()()()()()()()()()()ヘルミット伯爵令嬢が、()()()()()()()()際に賊に奪われた物だ。パライバトルマリンは希少性が高く、我が国ではヘルミット伯爵家のみが所有している。何故それを夫人が身に着けている?」

「こ、これが、ヘルミット伯爵家の……!?」


 ヘンリーの発言に、会場の人々は驚きを隠せなかった。目を見張り、息をのみ、誰もが宰相に疑惑の視線を向けていた。


「ヘルミット伯爵令嬢。これは、亡きヘルミット伯爵夫人のネックレスで間違いないか?」


 ヘンリーがアリシアに確認の言葉を投げかけると、アリシアは頷き、真剣な表情で答えた。


「はい、間違いありません。これは亡き母のネックレスです。我が家の持つ宝石鑑定登録証を確認していただければはっきりします」


 アリシアがそう言うと、宰相は殺意の込もった視線をヘンリーとアリシアに向けた。俺はアリシアの前に立ち、彼女を自分の背後に隠した。



 宰相の動きに警戒したが、彼は目を瞑り、諦めたように「ここまでか……」と小さくつぶやいた。


 ヘンリーは深く息を吸い込み、会場に響き渡るように宣言した。


「これにより、宰相が事件に関与していた証拠が確定した!! 宰相は逮捕され、裁判にかけられることとなる!! アリシア・ヘルミット伯爵令嬢、イザベラ・テイラー男爵令嬢、捜査への協力に感謝する」


 アリシアとテイラー男爵令嬢は淑女の礼をとり、会場内には彼女たちを賞賛する大きな拍手が響き渡った。


「オズワルド様、わたくし、オズワルド様のお役に立てましたか?」


 アリシアが安堵の表情を浮かべ俺を見つめてそう言った。


 アリシア……、俺の幸運の女神。


 俺はアリシアと出会えたことを神に、そして俺たちの婚約を結んでくれた互いの父親たちに感謝した。


 俺はアリシアを抱き寄せ、彼女の髪に顔をうずめた。


「アリシア、愛してる」


 俺のその声は周囲に響き、その場にいた令嬢たちは「きゃぁ」と興奮の声をあげた。


「オズワルド様、わたくしもあなたを愛しています」


 そう答えたアリシアに、俺は深いキスをした。






 その後、宰相の妻からネックレスが回収され、ヘルミット伯爵家所有のパライバトルマリンであることが確認された。


 宰相は、彼の父が平民の愛人に生ませた双子の一人で、正妻との間に子供ができなかった彼の父は、双子のうちの一人を引き取ったそうだ。

 宰相はピクスを訪れた際に、偶然双子の兄弟の存在を知り、計画を思いついたということだった。




 ***




 アリシア視点




「オ、オズワルド様、あ、あの何故、このような……?」


 わたしは今、オズワルド様とお茶会をしている……。グレイヘイブン侯爵家のオズワルド様の自室のオズワルド様の膝の上で……。


「距離をおきたくないんだ」


 オズワルド様はあの日とは反対の言葉を言い、わたしの腰に回した腕に力を入れた。

 彼はあの日のことをとても気にしていて、今後は曖昧な表現はしないと誓ったというのだけれど……。


「オズワルド様、大丈夫ですから、その……」

「アリシア!!」

「きゃぁ!」


 オズワルド様はわたしを抱き上げ、スタスタと隣の部屋へ入った。


 え……? ここってオズワルド様の寝室じゃ……。


「オ、オズワルド様。じ、侍従やメイドが……」

「とっくに下がらせた」


 いつの間に!?


 オズワルド様はわたしをベッドにそっと下ろし、わたしに覆い被さった。


「オ、オズワルド様。あ、あの……!」

「言っただろ? 距離をおきたくないんだ」

「オズワルド様、待っ……」

「待たない」






 ——おわり——







 おまけ


 カイン「うちの国にもいるよね。残念な貴族令嬢」

 ユリウス「残念な宰相補佐官もな」

 ヘンリー「残念な近衛騎士もだろ」

 「「「はぁ……………………」」」



 ***



 多くの作品の中から、この作品を読んでいただき、ありがとうございました。


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