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英雄遺産のエーヴィッヒ  作者: 大浣熊猫
老いた勇者の幕は下り
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逃れられぬもの 第一話

 フェリシアンの新たな家は、海辺の街から全速力で車を走らせて八時間の距離にある地方都市の郊外にあった。

 郊外とはいうが、さらにその市街地から三時間はかかる。


 勇者ドナシアンが全盛期だった頃に既に汽車は存在していたが、線路は現代のように広大な範囲にはまだ引かれていなかった。

 鉄道は魔王軍などによる線路などの破壊がされなくなってから、バイク・スチール、バイク・ボイル、バイク・マイニングやバイク・フエルインクなど、バイク財閥の一連の企業によって急成長を遂げ、今や世界中を網の目のように隙間なく走っている。

 バイク・マジケム・サイエンスの研究により魔力のエネルギー効率が改善され、汽車も動力は蒸気から魔導に代わり昔の何倍もの速度を出せるようになった。

 世界は確実に狭くなったのだ。


 フェリシアンの新たな家から一番近い地方都市も、勇者のいた時代には隙間風の吹く宿とうらぶれたいかがわしいパブの二軒と数軒の貧相な民家、それから幾度も戦場にされて踏み荒らされた広大な農地しかない小さな宿場町に過ぎなかった。

 しかし、戦後に数年以内に街道に沿うようにレールを敷設していくとバイク財閥が発表すると住民たちは反対することなく飛びつくように賛成し、鉄道を歓迎した。

 地域住民の反応がよかったために宿場町には駅が作られた。

 さらに丁度街道の合流地点であったその宿場町にはもう一本の路線が引かれて、人の往来は街道時代の何百、何千倍にも増加し目を見張る速度で発展していった。科学と魔法の技術発展による建物の高層化の波にもすぐに順応して横にも縦にも伸びていった。

 今では首都ほどではないものの、世界に名だたる都市の一つとなっている。


 最近では、バイク財閥当主が新たな支線を風光明媚なフェリシアンの屋敷の近くまで計画しているという案を提示したという噂や財閥の地質調査員が来ているのを実際に見たという噂が流れ、フェリシアンの屋敷の地価もじわじわと上昇していた。


 しかし、フェリシアンは一人で住むには広すぎる屋敷も、管理するには広大過ぎるほどの土地も、まったく売ろうとしなかった。

 つり上がる値段が頭打ちになるまで温めているわけではなく、彼はただひっそりと暮らしたかったのだ。


 屋敷なり土地なりを売ってしまえば、かなりの金額を手にすることが出来る。

 しかし、受け継いだ遺産は8分の1とは言え、人間が一生のうちに働いて稼げる金額の数倍はあったため売っても変わりは無いのだ。

 フェリシアンは遊び方を知らず、酒も飲まず、女性とも話せばその度にアルフォードの後ろ姿がちらついたので興味が無かった。

 趣味らしい趣味も庭木の管理くらいしかない。お金の使い道をよく知らないのだ。それ故に孤独に生き続けていた。

 孤独に寂しさを感じることはあったが、その寂しさが嫌いではなかった。人への恋しさを産み出すが、それに突き動かされて人混みに戻るもそこで生まれる葛藤を抱いてまた孤独に戻るという思考を繰り返させる、その寂しさというものにある種の愛情を抱いていた。


 そのまま十年ほど静かにひっそりと暮らしていた。

 隣近所もいるにはいるが、車で二十分ほど走らせなければ辿り着くことが出来ない。必然的に関わりは薄くなる。

 しかし、十年という歳月は短いものではなく細々としたものでも地域との関わりはあり、繋がりは皆無ではなかった。

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