修羅と金糞 第六話
「なに? 何か用?」と何年も連絡を取っていなかったと言う事実を吹き飛ばすようなアナンヤの無関心な返事に、フェリシアンは憤りや絶望よりも若干の安堵を覚えていた。
「ね、姉さん、ちょ、ちょっと聞きたいことがあるんだが」
「さっさと言って。アタシ時間無いんだけど」
「ロセッティっという男が会いに来たんだけど、誰だ?」
アナンヤは「ああ」と高い声を上げた。
「言わなかったっけ? アタシの前の前の男」
フェリシアンはその男が両親のために夫婦でローンを組んだと話していたと伝えた。
しかし、アナンヤの話は違っていた。
事実婚が認められる場合は、婚姻の意思を持って同一の住所に戸籍が在り、尚且つ生計も同一である場合だ。
実際には親のためにローンを組んだときには既に別居しており、アナンヤ側に婚姻の意思はなくなっていた。
アナンヤの住民票は、未だにあの母親の古民家カフェにあり、男の方は別だった。さらに生計も同一ではなかったために事実婚とは認められることなく無効となったのだ。
ロセッティはやがて結婚して金が入ると思い込んで、庶民では買えないようなとんでもなく高いものを買ったらしい。
どちらもフェリシアンは信用できなかった。だが、どちらかと言えば彼にとって姉の証言を信じる方が自分が困ることはないと思い、姉の言葉を信じた。
「か、買ったものの金が払えないって」
「そりゃそうでしょ。ロセッティとかいうのは、アタシと付き合いだしたら急に仕事辞めたし、金ないんでしょ」
「その金を払えと、い、言ってきているんだけど」
「は? 誰に?」
「僕に。関係ないから姉さん何とかしてくれないか?」
「はぁぁぁ!?」受話器越しのアナンヤの怒鳴り声に耳が痛くなり、受話器を耳から離した。
「なんで結婚してもいない男の面倒を私が見なきゃいけないわけ?」
「姉さんが関わりのあった男だろう。な、何とかして貰いたいんだけど」
「いや、知らないわよ。そっちで勝手にやってよ。
アタシはもうとっくの昔に他人なんだから、なんで弟のところに絡みに来た他人にわざわざ会いに行かなきゃいけないの? アタシはアンタと違って忙しいから。じゃあね。
それでもう連絡してこないで、ウザいから」
アナンヤは取り合うことはなかった。フェリシアンは心のどこかでそれは予感していた。
困ることには困るのだが、フェリシアンにはどうしようもない。放っておくことにした。
翌日の早朝の鉄道で海辺の街に戻り、午後から工場の仕事に戻った。
しかし、それで終わらなかったのだ。
ローンが払えなくなった四番目の男は興信所を使いフェリシアンの身元を探らせた。海辺の街にあるフェリシアンの職場に現れて金をせびるようになったのだ。
毎日ガリバルディメタルインダストリーの鉄工所のゲート前に顔を出し、「借金を払ってくれ、フェルシアン! 途轍もない額だぞ! これは君の一族の借金だ! 借金を払ってくれ! 借金! 借金! フェルシアン・ガリマール! 借金払え! 借金! 借金! フェルシアン・ガリマール、借金払え! 借金、借金!」とわざとらしく周囲に聞こえるような大声で呼びかけてるようになったのだ。
鉄工所にはガリバルディ・メタル・インダストリーから連絡が行っており、警備員がその都度追い払っていた。
だが、ついに実力行使に出てくる日が訪れたのだ。




