修羅と金糞 第四話
「アナンヤさんはそんなことさえ教えていなかったのか……。
ぼくも子どもの頃に両親を亡くしてから大変だった。君も大変だ。これから君はぼくをただ『お義兄さん』と呼び続ければ良いだけという間柄ではもうないからね。
ぼくはロセッティというんだ。パトリツィオ・ロセッティ。みんなは親しみを込めてリッツと呼ぶよ。君はリッツ義兄さんと呼んでおくれよ」
ガリバルディはロセッティという男の話を聞いている途中、机の上に乗せていた足を組み替えた。
フェリシアンは「ロセッティさんのご両親は昔に亡くなられたのですか」とぽつりと囁くように言うと、ロセッティは刹那、しまった、と言うような顔をした。
「それはいいさ。前を向いて生きれば心配ないさ。それよりもだ。君はどうするんだい? 払ってくれるのはぼくも分かったけど、どういう形で支払いをするつもりなんだい?」
「いえ、払いませんが」
フェリシアンは気が弱く、世間では(都合の)いい人として扱われていても、愚か者ではない。どれほど理不尽なことを言われても、ここで流れに押されて「はい、分かりました」とは言わないのだ。
ロセッティという男の言いたいことは分かった。だが、なぜ自分がこの男の家の代金を払わなければいけないのか。何故そう言う思考に至ったのか、理解が出来なかった。
払うわけ無いことなど分かっているだろう。フェリシアンは疲れ始めた。
こんなくだらないことで会社を休んでまで首都に来たのか。真冬の夜に降る雨で出来た冷たい水たまりに突き落とされたような虚しさを味わった。
「いやいや、ぼくはそれで向こうと話を付けてきているんだ。
あとは君がどういう形で支払っていくかを報告して、この紙にサインしてくれるだけでいいんだよ。
もしかして、管理の状態とか、そう言うのが心配なのかい?
権利証とかはぼくの方でしっかり管理していくから、そこは心配ないよ。君もアナンヤさんとは関わることはないだろうね。大丈夫」
「それはつまり、僕にあなたの家を買えということですよね?」
ロセッティは膝を浮かせて「あっはは」と笑い声を上げた。
「いやいや、何を言っているんだい。おかしいな。あっははは。君はとてもユニークだね。
君のお姉さんとぼくが買った家のお金を払うだけって言うことだ。
君はアナンヤさんの弟だから、支払いの義務があるっていうことだけをぼくは言いたいんだい。分かるかい? さて」
ロセッティは鞄から書類を持ち出した。




