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九月の舟  作者: すのへ
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スイカ

 文次先生は物理と地学を教える、わが校きってのぐうたら教師である。遅刻の常習犯で朝礼どころか一時間めの授業に間にあったためしがない。夕飯にビールの茶漬けを食うほどの無類のビール好きで、こんもりと腹が出ている。風呂には学校の宿直のときぐらいしか入らない。だから長い髪からよくフケが落ちる。高校までは神童と呼ばれたが、大学に入っていっそう磨きがかかって行きすぎて、とうとうこんなになったっていう噂だ。

 その文次先生と沖野さんができている! まさか。そんなことが。

「あれえ、どうしたの鵜飼くん。なにショック受けてんの。あ、そうか。鵜飼くんも沖野さん好きなんだ」

「な!ななななにをばかなことを」

「あっはっは当たり。そんなに赤くなってるもん。バレバレだよ」

 ぼくはむっとして顔をそらした。沖野さんに引かれていたのはたしかだ。しかし、それは恋愛感情なんかではなかったはずだ。でも、このショックはなんだ。

 考えてみれば、沖野さんはきつい性格だが、ぱっと見はきりっとした美人でモテて当然である。つき合っている相手がいてもおかしくはない。だが、その相手がよりによって文次先生というのは聞き捨てならない。いや待て待て。そんなの無責任なうわさにすぎないさ。ありえない話だ。でもほんとうだとしたら許せない。なんであんなダメ教師と。めらめらと燃える怒りが火となって体を走る。

「鵜飼くん。妬いちゃだめ。忘れることだよ。わかるけど。でも人はそれぞれ、好きずきだもんね。わたしがなぐさめてあげるよ鵜飼くんっ」

 由倉さんは背伸びしてぼくの肩をポンとたたいた。

「おい、あそこ。あれ、頼んでみよう」

 笹安がリヤカーを止めた。いいかげん歩きつかれてもいたのでいいタイミングだ。その家は川の手前にあった。生け垣の内側に板や柱の廃材が置いてある。笹安はすたすたとなかへ入って大きな声で呼びかける。

「こんにちは。だれかいませんかあ」

 一瞬の静寂に川の流れる音が忍びこむ。耳を澄ましていると人の気配がした。

「はあいぃ。なんでしょか」

 ほっかむりしたおばあさんが母屋の横あいから出てきた。笹安が来意を告げ、廃材をわけてほしいと頼む。

「あれま、あんなもんでよかったら、いくらでも持って行きなさい。片づくで助かるわ」

 富士谷がリヤカーを引っぱってきて、廃材を積み込む。やがて荷台が満杯になり、お礼を言って帰ろうとすると、いつのまにか由倉さんの姿がない。トイレでも借りているのだろうと待っていると、母屋からおばあさんとともに現れた。ふたりが両手に持った大きなお盆にはスイカがのっている。

「まあまあ、ちょっと休んでいきなさい。こんな遠いところまでよく来たねえ。ゆっくりするといいよ」

 ぼくたちはさっそく縁側にすわってスイカにかぶりついた。おばあさんはぼくの注文にも快く応じ、皆と一緒に写真に収まってくれた。

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