レティシアの片思い 1話
パラレルです。本編の設定ですが
生前の記憶がなく、魔力のないルーン公爵令嬢として育った設定です。
殿下とリオに見初められずに平穏な子供時代を送ったレティシアの話です。
リオに過保護に守られていないためターナー伯爵家には一人で修行に行っています。
エイベルとレティシアの関係は本編より良好です。
第2話からリオ編とエイベル編に別れます。
リオ編が終わってからエイベル編は更新します。
リオ視点
俺は異様に従妹に好かれている。
背中に馴染みの衝撃が。
「レティシア、そろそろお前も歳頃なんだよ。控えないと」
「リオ兄様にだけですわ。お邪魔でした?」
腰に抱きついて、悲しげに潤んだ瞳で見つめる我が従妹様は確かに可愛い。怒られると思ってるな。仕方がないから頭を撫でてやるとにっこり笑う。
頭を撫でられるの好きだよな。
「離れて。歩きずらい」
レティシアの腕が離れた。
「ごめんなさい」
「どうした?」
「リオ兄様が見えたので嬉しくて、失礼しますわ」
レティシアは踵を返して去っていった。
「本当にお前のこと好きだよな」
レティシアが俺に懐いているのは有名だ。
サイラスもこの光景を見慣れてるから驚かない。
「刷り込みだよ。幼い頃から面倒見てたから」
「あんなに好かれてなんとも思わないの?」
「可愛いよ。大事な妹みたいなものだからな」
「なぁ、もしレティシア嬢が他の奴を好きになったらどうすんのる?」
「シアを安心して任せられるマトモな男なら構わないよ。」
「ビアードとか?」
「あいつは駄目だ。頼りにならない」
「殿下?」
「シアに王妃は無理だ」
「誰ならいいんだよ!?」
「さぁな。公爵令嬢だから」
レティシアもわかっている。
お互いに公爵家だ。公爵の選んだ奴と婚姻するだけ。
思い合った恋人同士が親を説得することもあるけど、レティシアは家の利を優先する。
俺のことを好きというけどその気持ちは恋愛じゃない。ルーン公爵家は教育が厳しいから、俺にしか甘えてこなかった。
子供が親に求める愛情を勘違いしてるだけだ。
俺の従妹は外面は完璧なのに内面は幼いからな。
俺には時々甘やかして健やかな成長を見守るしかできない。
レティシア視点
「ルーン嬢、マールなんてやめませんか?あの男は陰湿ですよ」
廊下で呼びかけられる声に立ち止まります。
またですわ。
私のリオへの片想いは有名です。
諦めることをすすめる殿方がたくさんいます。
皆様、リオのことを勘違いしています。
「リオは陰湿じゃないです。優しくて誠実ですわ」
「騙されてるんですよ。つれないあんなやつなんて忘れましょう?」
「お気遣いありがとうございます。」
面倒ですが無視するわけにもいきません。
「レティシア?」
聞き慣れた声に振り向く。
「エイベル?」
「彼女を借りても?」
「どうぞ、ビアード様」
「レティシア、行くよ」
「ええ。」
エイベルは私の兄弟子です。
エイベルはターナー伯爵家で知り合いそれからお世話になってます。
よく絡まれてるのを見かけると助けてくれます。
実直で曲がったことが嫌いの貴族らしくない自慢のお兄様です。
エイベルと一緒に歩きます。
せっかくだからエイベルの部屋までついていこう。
「大丈夫だったか?」
「うん。ありがとう」
「よく絡まれるよな」
「まあね。私の叶わぬ恋は有名ですから。エイベルはどっちに賭けてるの?」
エイベルの部屋にはよく来ます。
茶器を置かせてもらってます。
勝手知ったる部屋です。二人分のお茶をいれます。
書類を広げるエイベルにお茶をだして、自分はいつものソファに腰掛けます。
おいしい。
「どっちにも賭けてないよ。するわけないだろ」
「さすが次期ビアード公爵。」
「お前の恋の成就にかけて欲しかった?」
「まさか。私、叶わないほうに賭けてますもの」
「当事者のお前もやってるのか!?」
「セリアに頼みましたわ」
「諦める気になったのか?」
「まさか。期限のぎりぎりまで粘りますわ」
「期限?」
「お父様は私の成人までに想い人を落とせたら婚姻していいそうですわ。もし見つからなかったらお父様の選んだ縁談を受けますわ。
リオの卒業式のパートナーに選ばれなかったら、お父様に縁談をお任せしますわ。隣国の貴族が有力候補ですわ」
「珍しく弱気だな」
「リオの周りには美しく聡明な令嬢がたくさんいますもの。せめて同い年なら違ったかな」
エイベルの手が振ってきます。乱暴な手つきで頭を撫でられます。
「納得いくまで頑張れよ。どうにもならなかったら俺が娶ってやるよ」
「私がビアード公爵夫人ですか?」
「お前ならできるだろ?」
「軍略と兵法に自信がありません。あと魔力がありません」
「指揮は俺がとるよ。ちゃんと優秀な奴も屋敷に残す。俺がいない間は屋敷の管理をして大人しく家にいればいい」
「それならできますわ。ちゃんと待ってたら帰ってきてくれますか?」
「当たり前だろ。ただ俺は社交が苦手だから任せるよ」
エイベル不器用ですものね。貴族の化かし合いは苦手みたいです。
嫡男なのによくこんなにまっすぐ育ってますよね。
笑いがこみあげてきました。
「社交と家臣の引き抜きはお任せください」
「心強いな。前向きだな。」
「エイベルと一緒なら気楽ですもの。まぁ愛人くらいは認めますけど、別邸にしてくださいね。権力は私が上ということを教育してくだされば構いませんわ。あと愛人の子供に継承権がないことも。エイベルの私財で養ってあげてくださいませね。両公爵家の財産は愛人には与えませんわ」
「相変わらずだな。」
「本気ですの?私に惚れてないのに一緒にお父様を説得してくれますか?」
「俺はお前がマールと一緒になるのが一番だけど、隣国に嫁いで不遇な目にあうのも見過ごせないからな」
「エイベルは優しいですね。エイベルのファンから選ばないの?」
「無理。俺は自分を好いてくれるやつは選ばないよ。いざって時は妻より殿下を優先する。」
「エイベルらしいですわね。もちろん家に不利ならいつでも切り捨ててくれて構いません。」
「お前のそうゆう所が夫人に欲しいんだよ。家より自分を選んでほしいってすがられるのは困るし、出陣のたびに嘆かれても迷惑だ。」
嫌そうな顔に笑ってしまいます。
エイベル優しいから困るだろうな。単純だから女性のそういう駆け引きに翻弄されそうですわね。
「どうしても恋すると気持ちが優先してしまいますものね。」
「レティシアは我慢できるだろ?」
「もちろん。もしリオと結婚してリオが一人で外国に赴任になれば笑顔で見送りますわ。一度は一緒に行っていいか聞くかもしれませんが。仕事と家の利の邪魔はしません。ただ愛人は認めません」
「さすがルーン公爵令嬢。なぁ婚約のことマールには話さないのか?」
「ええ。話しませんわ。同情で婚姻していただきたいわけではないですから。リオには誰よりも幸せになってほしいですから」
「惚れこんでるな。泣き言は聞いてやるから納得いくまで頑張れよ」
「ありがとうございます。」
いざとなればエイベルが娶ってくれるそうです。
知らない貴族に嫁ぐよりも気楽ですわ。
でもまだタイムリミットまで時間があるので頑張りましょう。
そろそろ寮に戻りましょう。
玄関に向かうと、リオがいますわ。
抱きつきます。
「シア!?」
久々に呼ばれましたわ。
最近は昔のようにシアとは呼んでくれません。寂しいですが仕方ありませんわ。
「お疲れ様です。お仕事終わりですか?」
「淑女は突然抱きついてこないよ。」
リオから離れて礼をとります。
「ごきげんよう。リオ兄様。お会いできで光栄ですわ」
「ちゃんとできるなら、やって」
「時と場合をわきまえていますわ」
ため息ですわね。言ってもきかないって諦めてる時の顔ですわ。
この方はどうすれば私を好きになってくれるんでしょう。
「送るから帰ろう?」
「いいんですか?」
「もう暗いからな。レティシアも年頃だから危ないだろ」
「ありがとうございます。」
リオが一緒にいてくれるのは奇跡ですわ。
全然落ちない従兄への悩みはつきませんがそれは後です。
幸せの時間を満喫するほうが大事ですわ。
優しいリオの言葉に甘えて一緒に歩き出します。
一緒に歩くのはいつぶりでしょうか。
幸せですわ。寮までの道のりがもう少し長ければいいのに残念ですわ。




