アマゾネスパワー!メイクアーップ!
「どぉ~お♪ エブリンちゃん、ワタシって本当に天才だと思わない~♪」
「まさに。至芸の持ち主とはマダムのことですわね」
「いやああああっ♪ 情報蜘蛛のエブリンちゃんに褒められるなんてっ♪ ワタシってなんて幸せなのかしら~っ♪」
黄色い声と青い声できゃいきゃ言っている女子達(?)を前に、私は鏡の前で絶句していた。
朝イチでマダムの元を訪れ、それから早数時間。
お腹が空いたよう、背中と胸がくっついちまうよう、と嘆く私にエブリンが「元々さほどお変わりないですが」と残酷な一言を告げたのがつい先ほどのこと。
そして今、鏡の女王が持ってても不思議じゃ無いゴージャスでオリエンタルな全身鏡の前で、私はムンクの叫びを表現していた。
「ナニコレ○百景……」
もしもこの世に神の手が存在するならば。
それはまさしくこのマダム・アマゾアナの御手ではなかろうかと思う。
それ程、ここにいる自分は見違えていた。
長い亜麻色の髪は波打つ稲穂のように緩く巻かれ、巻きゴテ嬢方のプライドが垣間見える。
眉はカットで長さが均等になり優しいアーチを描き、メインパーツである瞳は楊枝何本乗りますか? なほど長さを強化された睫がぐるっと囲んでいた。
肌はパテで埋めたように毛穴もできもの痕も存在を消し、かつ薄化粧に見えるというミラクルが起きている。
唇はぷっくりした柘榴の粒を後付けしたみたいにうるるんでつやっつやだ。唇シワどこ消えた。
いやもうコレ詐欺とかのレベル超えてない? 犯罪じゃない?
元の世界にあった『顔半分だけメイク』とかでこれやったらトリックアートみたいになるよ絶対。
そりゃマスカラとか肌白粉とかこの世界にもあるのは知ってたし、私自身使ってはいるけども。
あれだ。メイクって顔がキャンバスなんだわ。
すっごいなこれ。
「ちょ、ちょっと別人過ぎない……? むしろ誰か判別出来なくない……?」
「何を仰ってるんですかお嬢様。今日びのご令嬢はこの程度すっぴんと変わりませんわよ。それに、お嬢様のお顔立ちにはなんら変化御座いません。いくらマダムの神の手でも土台までは変えられませんわ」
「そうヨ~♪ リイナちゃんってば相変わらず自己評価が地底まで掘り下がってるんだから♪ 貴女がそれ言っちゃったらそこらの女なんてみーんなぺんぺん草になっちゃうわよう♪ それに、ワタシの信条はその子本来の魅力を引き出すことなのよ? 面の皮だけ厚くするメイクなんて邪道だもの~♪」
「ぺんぺん草て……とりあえず、自分がお化粧映えする顔だってことはわかったわ」
前から思ってたけど、マダムって本当に顔もどぎついけど言葉もどぎつい……エブリンと良い勝負だ。
自分の変化具合にひとまず納得した私は、次にマダムが用意してくれたドレスの方を観察した。
淡い菫色がグラデーションになっているAラインのシルクドレスだ。
胸の方が色濃く、足下にいくにつれ薄いレースがふんだんにあしらわれている。
手刺繍で繊細な花模様と真珠がいくつもちりばめられていて、メートルのお値段が恐ろしそうなシロモノだ。
外出用だからシルエットはすっきりしていて上品だけど、一目で一級品とわかるところはやはりマダムのセンスだろう。
「あのー、マダム? このドレス、凄く可愛くて綺麗で大好きなんだけど、その、ちょっとうなじとか、妙に空きすぎてませんかね……?」
「ええ~?」
だいぶ、かなり、控えめに尋ねると、マダムが赤い唇をキング○ンビーみたいな三日月にした。だいぶ恐い。
「なぁに言ってるのよリイナちゃんってば。人妻はうなじで見せるのがジョーシキでしょお~?」
なんだその非常識な常識は。
とつい突っ込みそうになったが我慢する。だって後ろでエブリン頷いてるし。
二対一では分が悪すぎる。
やっぱお色気作戦なんかい、という文句は飲み込んで、私は女傑二人に促されるまま、ドレスと揃いのヒール(今度は七センチ!安心!)を履いていざアルシュタッド商会へと向かったのでした。
白いレースハンカチ片手に「健闘を祈るわぁ~♪」とかやってるマダムに頭を下げ、道中の馬車でエブリンに「大丈夫ですわお嬢様。今のお嬢様を見れば、クラッド様は腰も足も色々抜かします」とか言われつつ。
ほんまかいな。
それってドン引いてって意味じゃ無いんですかという台詞を再び飲み込んで―――




