クリスマス2
「ち、ち、千香ちゃん!なんだか葵先輩が壊れて……。それで、それでっ!」
飛び込んだ扉の奥では、ベッドの横でくつろいでいる千香ちゃんの姿。
「いらっしゃい、未希。まあ落ち着きなさい」
「で、でも……。色々なんだかいっぱいで、グルグルだよ!」
「はい、はい」
大混乱で、言葉や思考がまとまらない。
今の私の気分的には、地球が半分になって、空から火星が落ちてきているくらいの衝撃を受けてるよ。
なのに千香ちゃんはなんでもないように私を見ると、自分の横を叩いた。
「ほら、ここに座りなさい」
「うん」
千香ちゃんの隣に腰を下ろせば、千香ちゃんの香りが漂ってくる。
いつもなら、幸せ!ってなるけど、今はそんな幸せの欠片にすら手を伸ばす余裕がない。
「手を出して」
「え?う、うん。分かったよ」
言われた通りに手を出せば、千香ちゃんが私の手の上に千香ちゃんの手を重ねた。
しかも、しっかり指を絡ませている!
これって、世に言う恋人繋ぎだ!
「ち、千香ちゃん?!」
「兄さんが何を言ったのか大体想像つくわ。今すぐ答える必要もないと思うし、兄さんもすぐに答えてもらえるなんて思ってないでしょう」
「へ?」
混乱してたせいで今まで気が付かなかったけど、千香ちゃんがとっても優しい顔をして私を見据えている。
しかも、私が千香ちゃんの瞳を覗き込んだら、ニッコリ笑みを深めて私の体を抱き寄せる。
ど、ど、どうしよう。
千香ちゃんが、あの千香ちゃんが。甘々モードで自分から私に接してくれてる!
う、嬉し過ぎるよ……。
そして、照れるー!
「わたしは兄さんも好きだから未希が兄さんを選んでくれたら嬉しいけど。未希が自分で考えて出した答えなら何も言わないわ」
千香ちゃんが子供をあやすように、私の背中を軽くポンポンと叩く。
「どんな答えを出しても、未希はわたしから離れては行かないものね」
「千香ちゃんから離れるなんて選択肢はないよ!」
「そうよね」
ただの事実を確認するように、千香ちゃんの言葉の中には問いかける響きはない。
私も千香ちゃんが私から離れちゃうなんて思ったことないよ。一生一緒にいて、大親友なんだよ。
……千香ちゃんも私のこと捨てないでいてくれるよね?そうだよね?
離れたら、私泣いちゃうよ?
「今夜は手を繋いで寝ましょう?話も色々聞いてあげるわ。といっても、しっかり考えるのは後日でいいと思うけどね」
「え、手を?!千香ちゃんいつもなら寝る時はダメって言うのに」
「今日だけ、特別よ」
「ありがとう!」
えへへ。嬉しいなー!
千香ちゃんが手を繋いだまま横で寝てもいいって言ってくれたよ。
何にも代えがたい、素晴らしいクリスマスプレゼントである。
「あっ!それなら早く寝る準備しよう?」
「まだ夕方よ?」
「千香ちゃんと長くくっついていたいの!」
「しょうがないわね。ならあと少しゆっくりしてから、準備を始めるわよ」
やれやれと肩を竦ながらも、千香ちゃんは笑う。
拒否されないってことは、良いってことだよね?
千香ちゃんとどんなお喋りをしようかな?
学校のこととか、お菓子のこと?最近テレビで特集されてたお店の話題もいいかもしれない!
今夜は千香ちゃんといっぱいお喋りしながら、手をニギニギして過ごすんだ。
想像したら、それだけで楽しくなってきたよ!
……。何か忘れている気がする。
むむむ。でも思い出せない、なんだっけ?
思い出せないなら、ムリに思い出す必要はないかな。
今大事なのは、千香ちゃんと過ごすこの瞬間である。
「えへへー、千香ちゃん大好き」
あ、思わず心の声が漏れちゃった。
「わたしも好きよ。……だからまだ。譲らないわ」
「譲らないって何のこと?」
「未希は気にしないでいいわよ」
千香ちゃんが私に笑いかける。
つられて私も笑顔になって、幸せな気持ちが溢れてしまう。
このまったり、ゆったりした穏やかな空気。幸せな時間がいつまでも続くといいな。
まったりタイムを終え、葵先輩の顔を見て、忘れてた事実を思い出すのはしばらく後になってから。
葵先輩に答えを返すのは、もっとずっとずーっと後のこと。
けどまあ、それはまた別のお話。
これで一応ホントの本当に完結です。
長い間読んでくださった皆さん、本当にありがとうございました!
もしも可能なら、また別の作品でもお会いしましょう。
2017.02.14 追記
バレンタイン小話(↓ちょっと長いです、すみません)
《未希と林》
「橋本さん、見てよ。愛咲さんからチョコ貰ったんだ!僕、家族以外から貰ったのなんて人生初だよ」
「美鈴ちゃんからの、チョコ……だと!?寄越せ、それ!」
「ちょ、ちょっとやめてよ、橋本さん。掴みかかって来ないで」
「さっき美鈴ちゃんに会ったのに!私、小テストしか貰えなかった!なんでなのよー」
「僕に聞かないでよ。ていうかテスト貰ったんなら、それ頑張りなよ。この前もほぼ空白だったんでしょ?愛咲んさんが嘆いてたよ」
「ぐはっ……。それを言われると、心が痛い」
《未希と葵》
「未希、コレあげる」
「せ、先輩?!それにコレって?」
「本命チョコだよ」
「ええ?!」
「海外なら男の方から贈り物をする日だしね。俺の気持ちと一緒に受け取ってくれると嬉しいんだけどな」
「そ、そんな、困ります!私まだ返事だって考え中だし、もっと時間が欲しいっていうか……」
「確かに、あの日以来未希はちょっと余所余所しい時があるよね。でもこのチョコ、この前テレビで特集してた店の限定チョコだよ。未希、美味しそうって言ってたよね?」
「え、あのお店の?!」
「数量限定なんだって」
「限定チョコ……」
「店でいくつかチョコを試食させてもらったんだけど、多分この店のチョコは未希好みの味だよ。とても美味しかったし、未希もそう思ってくれると思うんだけどな」
「美味しいチョコッ!」
「貰ってくれるよね?」
「はい、ありがとうございます!いただきます」
「どうぞ。受け取ってくれて俺も嬉しいよ」
《未希と千香》
「昨日作ったやつよ。未希にあげるわ」
「わあ!チョコだね!昨日千香ちゃん、お家で作ってたよね」
「それよ。未希がつまみ食いしたそうに眺めてたチョコね」
「だって、美味しそうだったんだもん。作っている千香ちゃんの姿を見て、すごく気合入ってるなって思ってたんだ」
「昨日は食べさせなかったけど、今日なら食べていいわよ」
「嬉しい。こんなに綺麗にラッピングまでしてくれるなんて、私千香ちゃんに愛されてる!」
「そうね、はいはい」
「照れ隠しに、ちょっと冷たくしちゃう千香ちゃん、萌え……」
「あんまり言うと、取り上げるわよ」
「ご、ごめんなさい、取らないで。千香ちゃんのは一番最後に大切に食べるんだから」
「一番最後……?他にも誰かから貰ったの?」
「葵先輩だよ。限定チョコくれたんだ」
「へえ、兄さんから。……でも未希、最近なんだか押し切られてる気がするから兄さんと距離を置くつもり、ってこの前言ってなかったかしら?」
「ハッ!」
「見事に兄さんに押し切られて、いい様にされてるわね……。先週だってわたしの家のリビングで、わたしが目を離した隙に言いくるめられて未希ったら兄さんの膝の上に乗ってるし」
「そうだった。私、先輩と距離を取って返事を考える時間を作ろうと思ってたのに!物理的にも、精神的にも間をあけて冷静に考えようと思ってたのに。そう決意したはずだったのにー!なにやってるんだ、自分」
「兄さんと未希の関係はどうなるのかしら。とりあえず、兄さんが正式に返事をしてもらえるのはまだ先ね」




