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プリンス・ザ・リッパー

スランプ気味でした~。


「ふぃ~~」


 俺はため息を零す。


 涼風ミウのライブは無事に終了して、参加者はそれぞれの時間を過ごしている。


 ライブの目玉ともいえる彼女は未だに多くの人達に囲まれていた。


 護衛は警護科の人達がやってくれているので、俺は会場の隅っこにいる。


 ダメガネが目で何か語っていたが、そこはスルーしておいていいだろう。


 スカートを揺らしながら砂原がこっちにやってくる。


「これをどうぞ」


 彼女の手の中にはグラスが二つ、中に入っているのはオレンジジュース。


「喉が渇いているだろうと思いまして」


「悪い、助かった」


 グラスを受け取って口に流す。


 カラカラに乾いていた喉に冷えていたドリンクはほどよかった。


「それにしても、驚きましたよ」


 砂原は信じられないという顔をしている。


「相馬さんが超有名なアイドルさんと知り合いだなんて」


「まー、色々あるんだ」


 本当は身に覚えが無いなんて口が裂けてもいえない。


 てか、俺はあの子とどこで知り合ったんだろうか?


 疑問を抱きつつも人に囲まれている涼風ミウを見る。


 テレビで見たことがある著名人と話をしながら笑顔を浮かべていた。


 ダメだ、まるで思い出せない。


「ふ~」


「ん?」


 隣から変な声が聞こえたぞ。


「砂原、さん?」


「なんれすか」


「いや、顔が近いんだけど」


「そんにゃことありませんよ」


「口調がおかしいぞ」


「ナイトさんは酷いです」


 頬を赤くして砂原は俺を見上げる。


 ただ、目が据わっていた。


「酷い?」


「そうです、私に相談も無く、一人でこしょこしょとうごき回って~。大切なひにょなんですから、たよってほしいですぅ」


「って、お前が飲んでるの酒じゃないか!?」


 砂原が手に持っているグラスを奪い取って嗅ぐとアルコールの香りが漂ってくる。


 俺の飲んだグラスはオレンジジュースだったのに、何で砂原の酒なんだ!?


 戸惑っている間に砂原はどんどん近づいてくる。


「落ち着け、落ち着いて欲しいんだ。砂原さんよ」


「さおり」


「はい?」


「ナイトさんと知り合って、四ヶ月です!そりょそりょ名前で呼んでもいいと思うのです!えぇ、絶対にそうあるべきなんです」


 断言された!?


 しかも、逃げられないように腕をつかまれる。


 桜色の唇、赤くなった頬、潤みを含んだ瞳で見つめられるだけで心臓がバクバクと音を鳴らす。


「だからぁ、ナイトさん、私のことをな・・・・な、ま、え・・・・」


「・・・・砂原?」


「すぅ・・・・すぅ・・・・すぅ」


 定期的な寝息、


 おそるおそる下を見ると天使の寝顔を浮かべている砂原の姿があった。


「・・・・」


 虚脱感で座り込みそうになる。


 なんなんだ、これ。


 漫画みたいな展開にため息が零れた。


「誰かに頼んで」


「相馬さん」


「うぉっ!?」


 真後ろから聞こえた声に驚いて振り返る。


 誰もいない。


「こっち、です」


 視線をさらに下へ、


 小柄な少女がいた。


「小宮山さん?」


「は、はい」


「どうやってここへ」


「私も招待状を持っています。あの、その人」


「あぁ、間違えてお酒飲んだらしくてさ。部屋に戻さないと」


「・・・・手伝います」


「いやいいよ、小宮山さんはパーティーを」


「一人でいてもつまらない、一緒にいる」


「え?」


「何でもありません」


 俺はぎょっとした表情を浮かべているだろう。


 一瞬、ほんの一瞬だが俺の中を何かが駆け抜けた。


 それは恐怖か、嫌悪感かわからない。


 何でそんな感情を抱いたのか、俺は目の前の少女を見る。


「ど、どうしました?」


 びくびくと震えている少女、


 俺は奇妙な感覚に包まれながら砂原を抱えて会場を抜け出す。


 その後ろをトテトテと小宮山さんがついてくる。


 砂原を抱えてホテルの廊下を歩いていると前方から警護科の一人が歩いてきた。


 横切ろうとしたところで、眼前に腕が突き出される。


「・・・・?」


「どぉもぉ、自己紹介がまだでしたよねぇ?」


 黒いスーツを着て髪を染めたどこかチャライ、というか軽い雰囲気の少年が笑みを浮かべている。


「警護科に出張している王国学院の相良っていいます~。よろしく先輩ィ」


「・・・・一応、王国学院二年の相馬ナイトです、失礼、急いでいる」


「まァてよ」


 横切ろうとするが手をどける気配が無い。


「実はさ、一度、アンタと話してみたかったんだよなぁ、箱庭ナンバーワン捜査官っていわれていたんだろ?どれだけ強いのかみてみたいと思うんだよ」


「それはもう過去の話だ。俺は捜査官じゃない」


「ご謙遜をぉ~、一号管理官が特例措置でアンタを捜査官に戻したってきいたんですけどぉ?」


「仲間が休んでいるので、先を急いでいる。通してくれ」


 ニタニタと笑みを浮かべたままの少年を押しのける。


 瞬間、喉元に冷たい感触が当たった。


「勘違いすんなよ」


 ナイフを喉元に突きつけて、相良が好戦的な笑みを浮かべている。


「お前が最強だったのは既に過去の話だ。今はもう最強じゃないんだ。偉そうに出来ると思ったら大間違いだ」


「それをいうためだけにきたのか?」


「当たり前だろ?お前みたいな遺物がふんぞりかえっていられる日は終わりだ」



「・・・・話がそれだけなら失礼させてもらう」


「つまんね、これが最強の能力者かよ。期待外れもいいところだ」


「・・・・」


 しらねぇよ。


 これ以上の厄介ごとはごめんな俺は相良の話を聞くつもりは無い。


 砂原を抱えなおして部屋へ向かう。


「悪いな、小宮山さん、手伝わせちゃって」


「き、き、気にしないでください。わ、私がやりたくてやったこと、です、から」


 謝罪すると両手を振る。


 それだけの仕草なのに愛らしさが感じた。


「そ、相馬さんは、強いんですよね?」


「・・・・」


「あ、あ、あの?」


「俺は、強くないさ」


「え?」


「なーんてな、さぁて、パーティーに戻るかね、小宮山さんはどうする?」


「わ、私は、へ、部屋でや、休みます」


「そっか、まぁ、無理はしないでくれ。何かあったら俺のデバイスに連絡くれ」


「はい!」


 顔を赤らめた、恥ずかしいんだろう。


 そんな彼女と別れて会場へ向かった。


「・・・・よぉ」


「安倍か」


 会場の入り口で待っていたのは安倍だった。


 そういえば、このホテルへ入ってから一度も姿を見ていなかったな。


「涼風ミウの護衛は順調のようだな」


「そうみえるか?」


 涼風ミウを囲むようにして警護科の連中がいる。


 はっきりいって、周りの空気が重たい。


 護衛として警戒させるのは大事だけれど、関係の無い人達まで警戒させたら問題がある。


「警護科の連中は手柄が欲しくて焦っているからな」


「手柄だ?」


「あいつら、前の警護でミスってるからな。プリンス・ザ・リッパーの御蔭でな」


「ふぅん・・・・ん?」


 プリンス・ザ・リッパー?


 言葉の意味を理解する前に安倍がため息を漏らす。


「お前も不運だよな。あんな厄介なのに目をつけられるとわ」


「ン・・・・俺、あったか?」


「さっき絡まれていただろ!?」


「もしかして、さっきの厨二染みたヤツか」


「お前から視たらそうみえるのかよ。こっちはヒヤヒヤした」


 安倍は後半の言葉を咳き込む形で飲み込む。


 聞き取れなかったからなんともいえない。


 なんていったのだろうか?


「ところでプリンス・ザ・リッパーって、なんだ」


 日本語でいうなら切り裂き王子になる。


 だが、王子って。


「王族なのか?」


「ちげぇよ、嫌味だ。王族でもないのに偉そうな態度を取っていることから誰かがそう呼び始めたのが切欠ときいている」


 何だろう。


 どこへいっても嫌なヤツとか嫉妬とかそういうのはあるんだ。


 大人になっても本局勤務だけはしたくない。


「何言ってんだ。てめぇは既に本局の捜査官だろーが」


「シャラップ!!」


 安倍の余計な突っ込みを拳という形で黙らせる。


 ヤツの末路だ。


 眠っている砂原を背負ったまま、ダッシュで部屋へ向かう。


 安倍の追撃から逃げる為・・・・というのは建前で、本音を吐き出すと背中の砂原の吐息が首筋にかかって変な気分になるのだ。













 その間に烏丸たちがとんでもないことになっていたなんて知る由もなかった。

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