失われた英雄
「相馬さん」
「今度は何でしょうか?砂原さん」
「気のせいだと嬉しいんですけど、この部屋、とても広いんです」
「そうだね」
「それと、ベッドが三つあるのは私の目がおかしいんでしょうか?」
「安心しろ、砂原さんの目はちゃんと正常に機能しているから、俺にもベッドが三つあるようにみえるし」
涼風ミウ護衛の為、俺達は宛がわれた部屋にやってきたわけなんだが、どういうわけか男女同室だった。
いやいやいや!?これはないだろ。
どうして男女別室になっていないの!?なんとかは同衾せずという言葉があるでしょ。
さらにいうとこの部屋、かなり豪華な素材が使われている気がするんだけど!
高価な壷とか置かれているし。
「アイドルってのは儲かるんじゃの~」
ぽんぽんとベッドの上で跳ねている烏丸に俺達は何も言えない。
別世界というのはこういうときに使うのだろうなぁ。
「とにかく、仁科さんへ相談してくるわ」
「私もいきます」
「いや、砂原さんは烏丸を見張っといてくれない?」
烏丸を放置していたらこの部屋の何か壊すかもしれない。
そんな予感があった。
「烏丸さんはそこまで子どもじゃないと思いますけど」
同じことを考えていたのか砂原さんは苦笑している。
甘い、甘いぞ。
「じゃあ、壷をボールにしているあれを子どもじゃないとするならなんだ?」
「烏丸さぁあん!!」
砂原の叫びが響く。
高価な壷(多分)を天井に向かって投げている烏丸の姿がそこにあった。
無邪気だよなぁ、あれで戦闘狂じゃなかったら人気でるだろう。
「じゃ、任せたから」
厄介ごとを押し付けて、俺は部屋から出て行く。
出て行くときにものすごい音が聞こえた、気のせいだろう。
そう思いたい。
ゴミ一つ無い廊下を歩きながら俺は警護責任者の仁科さんを探していた。
涼風ミウのいるフロアは全て警護の為、貸し切られているため怪しい人物がいればすぐに取り押さえられる。
エレベーターで涼風ミウのいるフロアから降りると黒服の人達が姿を見せるが身分証を提示することで元の位置に戻った。
「(警護科、箱庭における都市防衛と違い要人警護に視点が置かれている、所属している人間すべてが対人戦のエキスパートというところ、能力者相手でも大立ち回りできるっていう話だけど、動きに無駄が無いなぁ)」
張り詰めた空気が漂う中、目的地の部屋へたどり着く。
「おや、キミは」
ノックしようとしたところで反対側の廊下から仁科さんが姿を現す。
「涼風ミウさんへ何か用事かな?」
「あぁ、いえ、実は」
「困るねぇ、勝手なことをされては」
事情を説明しようとしたところで気づいた。
仁科さんのメガネの奥、その視線はドロドロした感情が渦巻いている。
「捜査官が独自行動権を有しているからと好き勝手動かれてはこちらの統率に支障をきたす。困る、それは非常に困るんです」
――部屋で大人しくしていろ。
迷惑だといってはいないが仁科の目はそう語っていた。
「だったら俺が文句を言いにこないよう対策をしっかりやっておいてほしいな」
「なんだと?」
「あぁ、失礼、理解してもらえなかったみたいだ。完璧な統率になってねぇってことだよ、ダメガネ」
「貴様ぁ!」
ちょっと突いただけで崩れ落ちる仮面、仁科という男の底の浅さが露見する。どうやら捜査官、いや、能力者に対して差別的な感情がある。
だから俺達を一緒の部屋にして、監視、もしくは関わらせないよう企んだんだろう。
でも、穴だらけだ。
男女同衾にしたら色々と問題になる。一応、常識人がいれば抗議しに来るなどということを想定していない。
結論、仁科という人間は信用できない。信頼を抱く価値もなし、名前もダメガネでいいや。
「何の騒ぎ?」
オートロックの扉が開いて、そこから涼風ミウが顔を覗かせる。
「これはこれは涼風ミウ様、気にしないでください」
慌てて笑顔を取り繕う。
半眼でダメガネをみていた彼女は俺がいることに気づくと笑みを浮かべる。
あ、これは嫌な――。
「彼と話があるから」
「うぉ」
「なっ!?」
何か言う前に部屋へ押し込まれる。
「涼風ミウ様!そんな奴を」
「アンタは私の護衛なんでしょ?護衛以外のことで口出しされるいわれは無い」
ぴしゃりと仁科の鼻先でドアを閉めた。
防音性なので扉の向こうで何を言っていようと聞こえない。
あれ、俺、ヤバくね?
「あぁ、話っていうのは」
「せっかちね」
指先で俺の口を止められる。
ニコニコと涼風ミウは笑っていた。
「紅茶を用意するから少し待ってもらえるかしら」
「それくらい、自分で」
「大事な話があるのよ。邪魔者もいないし」
座るように促されて俺は椅子に腰掛ける。
とても柔らかい素材で気持ち良い。
このまま眠ってしまいそうだ。
「お待たせ」
机に紅茶の入ったカップが置かれる。
「あ、どうも」
カップの紅茶はほどよい温度で素人の俺にはわからないが、おいしい。
「おいしいな」
「・・・・昔と同じだ」
「え?」
「なんでもないわ。さて、話を始めようかしら」
「さっきもいっていたけれど、大事な話というのは」
「ファントムについてよ」
「あの黒ずくめがいっていた奴か・・・・眉唾物なんだろ」
ファントム、ボックスシティ創設に関わったといわれる始まりの七元素の一人とされている。
能力と終焉具の二つを完璧に使いこなせたという超越者、だが、そんな存在はありえない。
上記の二つはどうあっても人間の体に馴染むことが無い。
人が宿す能力は個人によって強弱が激しければ、戦闘的なものからそうでないもの、多種多様なもの。
そして、終焉具は――
「いいえ、違うわ」
思考を遮るように涼風ミウの声が響く。
顔を上げると真剣な目と会う。
「始まりの七元素は眉唾物じゃない、箱庭の上が秘匿しているに過ぎない本当に存在しているのよ。彼らは」
「どうして、断言できる・・・・」
「アンタは何で否定できるの?存在が眉唾物だから否定する、それとも認めたくないから信じない。どちらかしら?」
指摘に言葉を詰まらせる。
はっきりいうと眉唾物だと信じていることが強い。
超越者、そんな恐ろしい存在がいるなら世界はとっくの昔に滅んでいる。
いや、違う。
俺は、存在を認めたくないだけ・・・・かもしれない。
「ま、この話はどうでもいいわ」
「・・・・は!?」
「私が伝えるのはファントムについて、正確に言えば、眉唾物とされているファントムについての話よ。私を狙っている奴が何でファントムを名乗るのか知りたくはない?」
「それは」
――知りたい。
ウプランドが何故、ファントムを名乗ることに拘るのか。
どうして、俺なのか、
見当が付かない。
「顔に出やすい男ね、ま、いいわ。元々話しておかないといけないって思っていたし」
「失礼だな」
涼風ミウ、俺のことを知っているみたいだけれど、本当にズバズバ物事いってくるよなぁ。
「アンタがいったのよ。自分に本音でぶつかれって」
「・・・・はい?」
「本当に覚えていないみたいね。むかつく左腕ね」
忌々しげに左腕へ視線を向ける。
俺の左腕、終焉具を知っていることからどこかで会ったんだろうな。
でも、思い出せない。
「まぁいいわ。ファントムについてだけど」
髪をかきあげて、涼風ミウが話し始める。
「ファントム、本来はブラックファントムらしいんだけど、彼は恐怖の対象として君臨していたらしいわ」
「恐怖の対象?」
「箱庭を狙う者、有害な連中を始末していたことから敵対者から恐怖されたらしいわ。何より恐れられたのは終焉具の力、現存する兵器すべてを無にした」
「まぁ、そうだろうな」
「だから英雄とも言われている」
終焉具は過去に誰が、どうやって作ったのかわからない古代具の上位、本気を出せば現在の兵力で勝てるものは存在しない。
恐怖の対象と見られるのは当然だろう。
「英雄ねぇ」
敵に恐怖され、味方からは英雄視される。
大変な毎日だったんだろうなぁ。
俺はそういうのはごめんだわ。
「でも、彼は今いない」
「そういえば、何でだ?恐れられるほどの強さを持っていたから暗殺されたか」
「詳しいことは知らない、でも、どこかで今も生きていて、彼の終焉具も存在しているそうよ」
「ふぅん」
「失われた英雄の話はこれくらいにしておいて、今日の夜だけど、時間あるかしら?」
「涼風ミウの護衛以外に予定はなし」
「なら、時間はあるわね」
俺の皮肉は彼女に通用しない。
有無を言わせぬ態度に呆れているとずぃっと、距離を詰められる。
「それと、私のことは氷菓って呼んで、涼風ミウは仕事での名前、アンタとはプライベート込みの関係でいたいの」




