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平穏は遠ざかる?


 午前中の授業が終わり、俺は体を伸ばす。


 ゴキバキィと体の骨から変な音が聞こえた。


「うーん、普通だ」


 誤解のないようにいっておくが、骨の音がおかしいのが普通というわけじゃない。普通の毎日を送れていることに俺は嬉しい。


 授業は相変わらず自習しかないけれど、静かなことはとてもありがたい。


 どこかで生活している妹も平穏を味わっていることを願う。


「いい加減にして下さい烏丸さん!」


「うるせぇ~。何をしようとワッチの勝手じゃ!」


「教科書は共有なんですよ!?ナイフでずたずたにしていいものではありません」


 静かな・・・・。


「暇なんだから仕方ないじゃろ!あれから楽しいことがちーっともないんじゃ、こんなんじゃ、暴れている方がまだまだまし・・・・あー、つまらん!」


「その手を止めてください!あー!次は私が使うのに」


 静かな。


「フン!ヴィッチに渡すくらいならワッチがずたずたにしてやる」


「嫌がらせにも程があります!」


「・・・・」


 静かな時間が欲しいです。先生。


 俺の目の前で何度目かわからない乱闘が繰り広げられている。


 喧嘩というには些か度が過ぎていた。


 なぜなら、手が飛ぶだけで机が飛び、ガラスが割れている。


 これを喧嘩で済ますには無理がありすぎた。


 今にも能力を発動させて、暴れだすのではないかと冷や汗が体を伝う。


 本音を言えば、すぐにでも逃げ出したい。


 だがしかし、教師からクラス委員長(三日前)を任命されてしまったことから逃げることが出来なかった。


 どこにいるかわからない妹よ、兄の周りは常に危険が一杯です。


「「あ!?」」


「ぐおえらぁあ!」


 後頭部に硬いものが当たって、俺の意識は闇に落ちた。


 あれ、こんなことばっかりじゃね?

















「キミはあれかな?医務室の住人か妖精になりたいんだろう」


「違います」


 王国学院の医務室、担当の中谷先生が呆れたような視線を向ける。


「だとすれば、ド」


「それ以上はいわせるかぁ!」


「うるさいなぁ、医務室では静かに!」


「・・・・理不尽だ」


 目の前で足を組み替えつつ、中谷先生は書類に目を通す。


 メガネの向こうの冷たい瞳がせわしなく動いていた。


「確かならキミがこの部屋に運ばれてきて、今月で五回目だよ?先月だけでも八回という普通ではありえない記録をたたき出している。サボリ学生でもここまでのことはしないよ」


「したくしてやっているわけではありません」


「不本意だといいたいんだね?全く、ゆとり世代は」


「何です?それ」


「・・・・」


「痛い!?いきなり頭を殴らなくても」


「シャラーップ!これでも私は」


「・・・・私は?」


「この注射、味わってみる」


「前振りも無くどす黒い液体が入ったものがでてきたぁ!」


 注射器を構えた中谷先生から俺は距離を開ける。


 新未来病院から出向してきた学者らしくそれまでは何かの研究をやっていたらしい。


 研究の内容はわからないが、聞いたことの無い薬品や単語がでてくるから相当凄いんだろう。


 性格はすっごい変人だと接してわかったけど。


「まぁいいや、目立った外傷も内出血もないから教室へ戻って良いよ~。少しは平穏を満喫しなさいよ」


「わかっております」


 そんなことは俺が一番わかっている。


 叫びたい衝動を堪えて、頭を下げ医務室を後にした。


「ねぇ」


「うん、間違いない。Aクラスを突破して優勝したFクラスの一人よ」


「あの人だろ?大した能力も無いのにふんぞりかえっている奴」」


「図々しいよな、強い能力を持っているわけでもない雑魚のFクラスが」


 教室がある塔へ足を踏み入れると、ひそひそとささやく声が耳に届いた。


 興味津々というものから批判的交じりものが突き刺さる。


 聞こえてくる言葉を無視という形で廊下を歩き続ける。


 視線は付きまとう。


 ストーカーにつけねらわれている被害者の気持ちってこんなものなんだな、俺は好きな人が出来ても絶対、後を追いかけたりしないぞ。


 離れた会話が段々と大きくなる。


 誇張された内容が聞こえて、うんざりしてきた。


 やれ、誰もが想像し得ない能力を持っているだの、裏で手を回して茶番をしているだけというくだらないものばかり。


「平穏が欲しい」


 肩をすくめて、俺は静かに呟いた。


 カーニヴァル、能力者による大会を俺達Fクラスが優勝という結果を叩き込んだ熱は未だ冷めることを知らない。


 後で保存されていた映像を見せてもらったがあれは無双という言葉がとても似合った。


 肉眼で見ることがなくて本当に良かった。


 優勝したFクラスは一躍有名となり、色々なことがあった。まずは他クラスからの接触がなくなったこと。


 前々から接触なんてなかったに等しかったが優勝後はぴたりとなくなった。宣戦布告したDクラスは俺達の姿を見ると蜘蛛の子を散らすように逃げていく。


 まぁ、あれは自業自得のようなものだから仕方ないが怪物を見るような目は本当にやめて欲しい。


 良いことがあったといえば食堂で俺に絡んできた金髪野郎すら俺の前へ姿を見せなくなった。


 教育的指導を受けなくなったのは本当に良いことだ。


 ただし、砂原と烏丸の喧嘩によって保健室へ運ばれることがとても多くなっていることが納得できない。


「あ、あの」


 あいつらはどうして俺を間に挟んで喧嘩をするのだろう。喧嘩するんなら他所でやって欲しい。


「す、すいません」


 そもそも、喧嘩の切欠が低すぎる。やれ好き嫌いをするな、モノは大切にしろ、時間は守れ、親子がするような揉め事から能力による喧嘩へ発展、最初は抵抗を感じていた砂原も最近はその様子を見せないから毒されている。


「俺の周りにまともな奴はいないのかぁ!?」


「きゃっ!」


「・・・・ん?」


 叫んだ拍子に小さな悲鳴が聞こえた。


 俺はぐるんと振り返る。


 尻餅をついていたのは小さな女の子、ボブショートの髪の先は癖っ毛なのかところどころ跳ねている。親しき人間の中に該当する子はいない。


「えっと」


「あ、み、見えている!?」


「は?」


「す、すいません!私、ユーリ・小宮山といいます!」


「相馬ナイトだ。えっと、悪い。後ろにいるの気づかなくて」


「いえ!大丈夫です・・・・みえなかったはずだし」


「ん?」


「な、なんでもありません」


「そっか、まぁ・・・・怪我が無いみたいだし、俺は教室に」


「ま、待ってください!」


 ガシッ、と俺の手が掴まれる。


 相手は目の前にいる小宮山さんだ。


「そ、その、相馬先輩にお話、し、したいことが」


『烏丸さん!何でついてくるんですか!?』


『うるせー、おみゃーが行く先にアイツがいるんだ。ワッチはアイツへ用がある』


「げっ」


 遠くから聞こえてくるのは砂原と烏丸の二人。


 一緒にいるということは喧嘩発展の兆しあり!?


「あぁ、悪いんだけど、小宮山さんとやら、俺は用事がありましてね?できたら、お話は後にしてもらいたいなぁ」


「い、今しかチャンスは無いんです。これを逃したらいつ話すことが出来るか、わ、わ、わからないんです。無駄にするわけ、わけにはいかないんですぅ」


 よくわからんが小宮山さんは顔を真っ赤にしてぶつぶつ呟いている。


 口の動きが速すぎて何を言っているのかまるでわからん。


 ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ!?


 廊下の角から砂原と烏丸の二人が姿を見せる。


 あ、俺の人生オワタ。


「おかしいですね?相馬さんの声が聞こえてきたと思ったんですけど」


「おみゃーの耳はかざりということだな」


「失礼ですね!ちゃんと機能しています。第一、烏丸さんも聞いたからこっちにきているわけで――」


 二人は通り過ぎていく。


 俺のことなど“みえて”いないみたいだ。


 彼女達がいなくなって、俺はぽつりと呟く。


 なんで?


「も、も、も、申し訳ありません!わ、私」


「とりあえず落ち着こうよ」


 人が多い廊下から空き教室へ移動する。


 前にも使った場所だが話しをするにはうってつけのようだ。


 サイズが大きい制服の袖をぶんぶんと揺らして彼女は謝罪する。


 授業が始まるが、まぁいいだろう。


「すいません」


「気にしてないよ。それより俺へ話があるんだろ?」


「あ、はい」


 きょろきょろと周囲を見てから小宮山さんはゆっくりと口を動かす。


「相馬先輩、あの、私の能力をう、しどうしにぇくにしゃさい」


 噛んだ。


「あうぅぅぅぅぅぅぅ」


 顔を真っ赤にして小宮山さんは俯く。


 よほど恥ずかしいのだろう。ぶんぶんと手を動かしている。


 小動物チックな可愛さといえばいいのか、ちょっとドキッとしてきた。


「とりあえず、落ち着こうよ」


「はいぃ」


「・・・・話を纏めると小宮山さんは俺に能力の指導をして欲しいってことだよね?」


「そうです」


「悪いけど、他を当たってくれないか?」


「え・・・・それは」


 絶望的な顔の彼女へ言い訳するように紡ぐ。


「どういう理由で能力指導を頼んだのかわかんないけど、俺指導はできない。そもそもライセンスを持っていないからキミの指導はできない」


「・・・・ライセンス?」


 そっからか。


「このシティにおいて能力者指導する場合、帝都本局から発行されるライセンスがないと基本的に教えちゃいけないんだよ」


「そんな・・・・どうしたら」


「あのさ、能力関係で何か悩みがあるんなら教師に」


 何かをいおうとした前で小宮山さんの姿が消える。


 あれ?


 瞬きを数回して、俺は目の前に手を伸ばす。


 もにゅ。


「ひゃう!?」


「ん?」


 調べる。


 けれど、誰も居ない。


 首をかしげながらも俺は手の中の感触を確かめるべくもう一度、動かそうとして。


「そ、そうにゃ」


 目の前に小宮山さんが姿を見せる。


 ただし、俺の手が彼女の胸を掴んでいた。


「うぉおおおおおおおおおおおお!?」


 慌てて手を離すと宙を浮き、土下座する。


「申し訳ありませんでしたぁ!」


「い、いえ!私の、能力が原因ですから」


「能力?」


「永遠のかくれんぼ《エンドレス・エンドレス》それが私の能力、周囲に擬態することが出来る付与系の能力です・・・・ただ、うまく制御できなくて興奮してしまったりすると・・・・」


「だから、姿がみえなくなったのか」


「はい・・・・」


「お、おい!?」


 ぽろぽろと小宮山さんは涙を零す。


 俺はどうすれば良いのかわからず戸惑う。


「私、の、能力が制御できるようになりたいんです。い、今のままじゃ、嫌なんです!」


 地面に座り込む。


 顔を俯いて泣いている彼女へ俺は。


「俺はライセンスを持っていないから、手取り足取りきみを指導するなんてことはできない」


「・・・・」


「けれど」


 膝をついて、小宮山さんと目線を合わせる。


「手伝うことはできる・・・・沢山の時間をとってあげることは出来ないけれど、それでもいいかい?」


「・・・・本当、ですか?」


「困っている人を見捨てるわけには行かないし・・・・まぁ、今回だけで」


「あ、ありがとうございまずぅ!」


 涙で顔をぬらして小宮山さんはぺこぺこと頭を下げる。


 この小さな少女との出会いが後々、俺を平穏から遠ざけるばかりか、さらなる厄介ごとを運び込んでくることになる。


 なんて、夢にも思っていなかった。



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