表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/39

スタート

 学院長からの突然の日程変更、それは能力者である生徒だけでなく、予定を調整していた教師陣にも衝撃を与えた。


 準備をしていた一年生はあたふたしながらどうすればいいか指示を求めて職員室へ向かう。


 予定の調整をしていた教師は変更に驚き、対策を練ろうとしたときに一年生がおしかけてきたことで混乱する。


 そして、順番が変更されて初手で模擬戦が決定した俺達二年生組みは一言で済ますなら慌てていた。


 初日はのんびりと観戦を決め込んでいた者がほとんどらしく、廊下をせわしなく動いている。


 使用する服や模造武器の調整などを前日に済ませようと考えていたのだろう。なんとも準備の遅い連中だ。


 突然の変更に戸惑っているのはB~Eクラスの能力者連中ばかり、Aクラスは既に準備を終えているのか慌てている様子は無い。


 そして、俺達Fクラスはというと。


「予定がはやまったなぁ」


「わっちとしれは嬉しいことだ」


 教室でくつろいでいた。


 模擬戦開始は今日の正午きっかり。


「それにしてもここの能力者達はぬるすぎる。わっちなら五十回はヤれている自信がある!」


「自信満々にいうことじゃないから」


 ケタケタ笑う烏丸に呆れながら俺はデバイスを起動させてメッセージボックスを見る。



 受信履歴:0。



 表示されている文字をみて、ため息を零す。


 あれから一度も俺は砂原と会っていない。


 部屋へ押しかけることはよくないとドクターストップがかかった。


 担当の医師が判断したのか、砂原が頼んだのかはわからない。


「余所見している場合じゃねぇよ」


 烏丸がくしゃくしゃに丸めた紙を投げる。大きく外れて床へ向かう。


 それを片手でキャッチして、ゴミ箱に捨てた。


「これから先はヤるかヤられるか、ワッチらが生き残るかアイツらがくたばるかのどっちかなんだぜい」


「わかってる」


「ならいいけどー」


「・・・・そろそろ着替えないといけないな」


 設置されている時計は十一時になった。


 集合場所の迷路へ行く前に着替えるべく俺達はひとまず別れる。

















「勝算はどれくらいあるのかな?」


 更衣室で着替えを済ませて扉を開けた俺の前に見知らぬ人が立っていた。


「・・・・?」


 両腕を組んでこちらをみていた相手は学院の制服を着ている。


 ただし、その制服はところどころ改造が施されていた。上着は袖口がなく、マントのように体を包み込み、ズボンには一本の白いラインが施されていた。


 長い髪を後ろでひとまとめ、メガネの奥の瞳は俺を観察しているのか鋭い。


 誰だ、コイツ?


 いきなり問われたことで俺は動きを止めていた。


「きみはスキルカーストというものの本質を理解しているようで、理解していない」


「本質?」


「本質、本質だよ。きみも学院にきて、何度か経験しただろう?Aクラスの生徒が他クラスの生徒を能力で相手を傷つけること、物を奪うなどなどの横暴。それを黙認する教師達、スキルカーストというのはね。日常に当たり前のように浸透してしまっているものなのだよ」


「そうかい」


「つれない反応だね。まぁ、外からきて日が浅い人間からすれば当然のことなんだろう。だが、外から来たものが好き勝手して許されるほど、ここは甘いところではない」


 メガネはビシッと指を突きつける。


「それをきみはこの模擬戦・・・・カーニヴァルで思い知らされることになる」


「・・・・忠告どーも」


 面倒な相手に絡まれたなと思って、俺は横を通り過ぎる。


 どいつもこいつも、そんなにスキルカーストとやらが大事なのかねぇ。


「おっと、勘違いしてもらっては困るな」


 カチャリ、と後頭部に硬いものがあたる。


「私は別にスキルカーストを擁護する人間ではない。逆に壊そうと目論んでいる人間でもない。常に中立として物事をみているだけだ」


「中立がこんなことしていいのか?」


「自分で中立と謳っているけど。何も進展が無いのは嫌いなんだ。スキルカーストが浸透して、ただ当たり前にそれを受け入れている連中、まるで生きた屍だ。つまらない、つまらなすぎる。しかし、そこへ新しい風が吹く。スキルカーストへ疑問を抱き、当たり前を壊そうとする者。面白いじゃないか!」


 メガネの声に力が篭る。


「変なヤツだ」


「そういわれたのははじめてだ。やはり面白い」


「男に好かれても嬉しくないね」


「少し、話がずれてしまった・・・・さて、これからきみがやることは無謀、不可能といえるくらいの難易度だ。それでもやるのかな?」


「何のことだか・・・・俺は気に入らないヤツをぶっ飛ばす。それだけだ」


「今はそれでいいとも、私としても中立、観客としての立場を崩すつもりは無いからね・・まぁ、今回はきみの行動と覚悟が見たいからこその接触だ・・・・おっと、そろそろ時間のようだね。失礼するよ」


 後頭部につきつけられたものが離れる。


 ソレと同時に近くにいたメガネが離れていく音が聞こえてきた。


「あ、そうそう」


 何かを思い出したようにメガネが声をかける。


「きみの頭へつきつけていたもの、よくできた模造拳銃だから」


「っ!」


 何か言ってやろうと振り返ると、誰も居なかった。









 おちょくられた!!















 地団駄を負みたい衝動にかられた。


























「始まるんだな、楽しみだぞ」


「そう思っているのはきっとお前だけだ」


 迷路の入り口から数百メートル離れた場所、そこで俺と烏丸は待機している。


 うきうきと遠足前の子どもみたいにはっちゃけっている。腰につけているサバイバルナイフがじゃらじゃらと音を立てていた。


 離れた場所では他クラスの参加者の姿もみえた。


 彼らは遠巻きでこちらを見ている。


 そこで、奇妙な違和感が過ぎる。


 根拠は無い。


 無いけれど、骨が喉に突き刺さっているみたいに気になる。


「ん、どした?」


「いや、なんでもない・・・・」


 気のせい、か?


 後ろ髪をひかれるような気持ち悪さを残しつつ、俺は開始時間までに確認をすませる。


 投擲用のナイフ。


 仕込みワイヤー、


 通信端末、


 そのほかの仕込みのチェック。


 最後に投擲用のナイフをくるくると回転させてホルダーにしまう。


「しっかし、驚いたぞ。おみゃーにそんな特技があったとわ」


「俺も驚きだよ」


 綺麗にホルダーへ入ったことへ驚く。


 記憶が確かなら、俺は物を投げることが得意だったことはない。


 紙くずすらゴミ箱に入ったことが無いのだ。それが、投擲用ナイフに関してはあっさりと習得できた。


 スポンジが水を吸収するかのように、元から俺がその技術を知っていた――。


「お、はじまるみたいだぜ~」


 隣の烏丸がにしししと笑う。


 設置スクリーンに色々と面倒を引き起こしてくれた学園長の顔が映る。


「さてさて、晴天で絶好の模擬戦日和ですねぇ。さて、長い話は嫌われてしまうからそろそろはじめようか。くれぐれも死者を出さないようにね。問題が発生したら治安維持局に身柄を引き渡さないといけないので。さぁさぁ、 みんな!切磋琢磨して自らの力を証明してくれたまえ、では一日目スタート!」


 学園長の顔が消えて、スクリーンに「START!」という文字が表示される。


「烏丸!」


 駆け出そうとした烏丸の腕を引き寄せ、後ろに跳ぶ。


「にょほ!?」


 奇声を漏らして地面を転がる。


 周囲を土煙に包まれて視界が奪われた。


「な、なんだよ!?」


「どうやら」


 漂う火薬の匂いに俺は顔をしかめる。


 土煙で周囲を確認できないけれど、数は五人以上いるだろう。


 座り込んでいた烏丸だが、状況をさっちすると、懐からサバイバルナイフを抜き出す。


「烏丸、能力で何人伏せられる?」


「お前、バカにしてんのきゃ」


 不適に笑う彼女はナイフを逆手に構える。


 俺は咄嗟に手で視界を隠す。


 強烈な風が吹き荒れた。


 土煙が逆巻く中で外からくぐもった声が聞こえてくる。


 続いて、ドサササッと音が響く。


 長い煙がようやく晴れると地面へ突っ伏している生徒の姿があった。


「ちぃ、竜巻起こしたが刃がついていないナイフじゃ、意味ないな。しとめ損ねたぜ」


「物騒なこといってんじゃない。こいつら・・・・Eクラスだな」


 気絶している連中、会話したことはないが全校集会で顔を見たことがあるやつらばかりだ。


「開始早々にワッチらを狙ってくるとはいい度胸だの」


「うーん」


「なんじゃ、変な声だして」


「いや記憶が確かならEクラスの連中と距離が開いていたはずなんだが、どうやってこんなに詰められたんだ?」


「そんなの能力を使えば簡単だろ」


「考えられる限り、そうかもしれないだろうけれど・・・・」


 なんだろうな。


 奥歯にモノが挟まったみたいに気持ち悪い。


 奇妙な感覚を味わいながら俺と烏丸は迷宮へ急ぎ足で向かう。
















 迷路の幅は思っていた以上に狭く、二人横に並べばぎゅうぎゅうになってしまった。


「これは一列に並ぶしかないな」


「あまりお勧めできねぇけど、前後に並べばいい的になるぜ」


「仕方ないだろ?迷路の破壊はルール違反になる。他に手がないんだ」


「面倒だ。どうせならざっくりと切り刻んでやりあいたい~」


 薬物患者みたいな物騒なことを言う烏丸を横に俺は端末を起動させる。


 端末の画面にインストールされた迷路の図面が表示された。


「さて、俺達のいる場所がここだから、次の角を左・・・・」


「見つけたぞ!」


「撃てぇ!うてぇ!」


 角を曲がろうとした途端、反対方向からやってきた集団が叫ぶ。


 来た道を戻り、飛んで来た火球が壁にぶつかり弾ける。


「さて、どうしょう」


「ヤるぜ!ヤるぜ!」


「あ、こら」


 聞かず、烏丸は迷路の壁を踏み台にして跳びまわる。


 ゴムボールのように曲がり角へ姿が消えた。


 遅れて響く阿鼻叫喚。


 俺はその一歩先へ踏み出す勇気が無い。


 みたらとんでもないことになる気がする。


「いいぞ~」


 間延びした声に俺は覚悟を決めて曲がった。


 そこに広がるのはとんでもない地獄、というわけではなく、壁にもたれている敵対クラスの連中、よくみると全員気絶している。


 死んでいないだけマシだろうか。


「本当に歯ごたえの無い連中ばかりだぜ。これなら捜査官とヤる方が何百倍もマシ、あーぁ、今から潰しに」


「やめんか、おそろしい」


 ゴキゴキと首を鳴らす烏丸の後頭部を殴り、俺は倒れている連中の懐を探る。


 ピースはなし、別働隊みたいなものか。


 倒れている連中から視線を外す。


「静かだな」


「あん?」


 俺達が歩いている通路の外、そこでは各クラスによってピースの争奪が起こっているはずだというのに遠くから爆発音や悲鳴が轟くということが一切無い。


 まるで、争っていないみたいに静かすぎる。


 ドクンドクン、と嫌な鼓動が俺の中で打ち鳴らされた。


「おい、次はどこへ向かうんだ」


「左・・・・データどおりなら、大きな空間があるはず」


「ふぅん」


 聞いているのかいないのかわからない返事をした。


 大分、浮かれてきていないか?


 先を歩く烏丸を心配しつつ、大きな空間へ出る。


 瞬間、巨大な石柱が視界一杯に投擲された。













「お、おい、いくらなんでもこれはやりすぎじゃないか?」


「じゃあ他にどんな手段があるっていうんだ。お前があいつらへ進言できるわけじゃないだろ」


 田本はクラスメイトの井口堂の指摘に黙る。


 目の前には井口堂の能力で投擲された大量の石柱が地面へ突き刺さっている。


 カーニヴァル開催前、田本達Eクラスは他のクラスからある指令が下された。本来ならば勝利を勝ち取る為に敵対する相手からの命令など無視すればいい。だが、この学院にはスキルカーストという巨大な存在が立ちはだかっており、無碍にすればカーニヴァル終了後、否、カーニヴァル中、いつもどおりの生活など送ることが出来ない。


 上位能力者へ逆らうことは危険だった。入学したての暗黙の了解を知らない者が抵抗し病院送りになったことなど少なくは無い。


――上位能力者の命令は絶対、逆らうものは死罪。


 いつの時代の暴君だと訴えたくなるが、それがこの学院の現状、そして最下位に近いEクラスもまた、その流れに抗うことはしない。


「で、でも、あれじゃ怪我を負っても」


「いい加減にしろ!悪いのはDクラスへ、上位のやつらへ宣戦布告なんて阿呆なことをしたあいつらが悪い。そもそも・・・・」


 表情を崩しながら井口堂は叫ぶ。


「あいつらは最下位クラスだ、上の連中に逆らってはダメだということを一個上の俺達が教えてやってんだ!いわば指導だよ。俺達は別に問題を起こしてなんかいない。だいたい、下は大人しく上に従うのが条件だ」


 俺達はそれを身に染みて理解しているんだからな。


 それは田本も心の底からわかっていることだった。


 Fクラスへ生徒が入るまでの間、上のクラスからこき使われてきたのは自分達Eクラスだ。


 一度、逆らったことにより暴力を受けたことは今でも記憶に刻み込まれている。


 自分達は苦しんだのに、彼らだけ苦しまないというのはおかしい。


 だからこそ、二人は今回の不意打ちを行うことに同意する。


 悪いのは彼らなのだと言い聞かせ、


「そう、だね」


「第一、ルールは相手を倒してピースを奪うことが条件だ。その際に能力を使うのは当然のことだ。指導をかねているんだから尚のこと必要だろ?なぁに死にかけたとしてもここは優秀な医者は施設が揃っているんだからそうそう、死にはしない。ほら、ピースを探しに逝くぞ」


「う、うん」


 半ば強引に田本は石柱の残骸へ向かう。


 白い煙があたりに漂っている中で、井口堂は標的がいた場所へ踏み出す。


 目の前の石柱がいきなり吹き飛んだ。


「なっ!?」


「井口堂!」


 驚く彼らの前で小柄な何かが転がり込んでくる。


「ぐぺっ!?」


 腹部に衝撃を受けて、田本は体をくの字に折り曲げた。


 激痛で周囲へ唾液を撒き散らして座り込む。


「くそっ!」


 井口堂が叫び、能力を発動させる。


 頭髪が伸びて襲撃者へ向かう。


 鞭みたいに振り下ろされる一撃、だが、それは当たることなく、代わりに首筋へ何かが直撃する。


 「ぶぐえっ」


 喉仏に直撃したものは投擲用のナイフ、一時的に息を止められた井口堂は苦悶の表情を浮かべる。


「てめぇでラストっと」


 背後に注意を向けていなかったことによりもう一人の襲撃者が首筋へ一撃を放つ。


 井口堂の視界が真っ黒に染まる。


 何が起こったのか、Eクラスの二人は最後まで気づくことなく失格となった。



















「おーい、片付いたぞ」


「ご苦労さん」


 石柱の残骸を蹴散らしながら俺は倒れている一人を床へ寝かせる。


 少しはなれたところでもう一人を烏丸が足蹴にしていた。


「Eクラスの連中か」


「全く、不意打ちするくらいなら正面からせめてこいっての、その方がとても楽しいんだから」


「楽しい楽しくないの問題じゃないだろ」


「いいや!そういう問題!」


 どこまでもこいつの戦闘狂のようなものは抜けないらしい。


 頬を膨らませて抗議する烏丸に俺はげんなりする。


「それにしても、こんな形で役に立つとは思わなかったぞ」


 咄嗟に展開したワイヤーをベルトへ押し戻す。


 こすれるような音を鳴らして戻るワイヤーはところどころ白い粉が付着している。


 しばらくして、巻きつけていたナイフが戻ってきた。


「さすがに折れるか」


「おみゃー、咄嗟とはいえ、投擲用のナイフにワイヤーを巻き付け、四方八方に投擲、小蜘蛛の巣みたいなものを作って振ってくる瓦礫から身を守るなんて芸当、わっちにはできんぞ」


「いや、俺も驚いている」


「やけに歯切れ悪い」


「まぁ・・・・な、俺のことよりお前の方だよ。なんで相手の位置がわかったんだよ」


 石柱で視界が奪われている中で烏丸は的確に相手の位置を掴み、無力化させた。


 元から奴らの居場所がわかっていたみたいな動きだ。


「おみゃー、そにゃーって知ってるか?」


「・・・・ソナーのことか」


「そうそれ、ワッチは風を自在に操ることが出来る。その中でワッチが作り出した風を放つことで、相手の位置を掴めることができるんじゃ、ミミズクのヤツが『風探知〈ウィンド・ソナー〉』とか命名していたな」


「お前・・・・俺の知っている中の規格外連中に仲間入りしそうだわ」


「やめろい、照れる」



「褒めてないし!」


 ふと、投擲して欠けたナイフを見る。


 石柱が落ちてきた瞬間、俺はナイフを投げていた。


 驚くくらい冷静にナイフにワイヤーを巻きつけての投擲、そんなに時間が掛かっていない。


 まるで、どうすれば助かるのかわかっていたみたいに体が動いた。


 欠けて使えないナイフを胸ポケットに仕舞う。


「今、どこらへん?」


「ようやく半分に到達するかしないかってとこだな」


「ピースは一つも手に入らず、邪魔ばっかりか・・・・いいねぇいいねぇ」


「何、笑っているんだよ」


 烏丸はおもちゃをもらった子どもみたいに笑う。


 その笑みに俺はどこか恐怖した。


 彼女の顔になぜか、無邪気な子どもの笑顔を連想させる。


「楽しいんだから笑っているんだ。ワッチは今、とても楽しい!」


 振り返り、飛来してきた鉄球を烏丸はナイフで叩き返す。


 鉄球は空へと舞い上がり、何かを砕いた。


「おい・・・・何か壊したぞ」


「そうみたいだの」


「他人事かよ」


 再び、ため息を零す。


 色々と前途多難な気がした。














 砂原沙織はスクリーンで相馬ナイトと烏丸憂のやり取りを見ていた。


 観客席からではなく、少し離れたところから眺めているのだが、人が怖い彼女からすれば外に出られたことすら奇跡に近い。


 先ほど、石柱が投擲されたときは息を呑んだ。


 だが、彼女の心配する相手、相馬ナイトは無傷、烏丸憂一人の手によって他のクラスの能力者は無力化されてしまう。


 強い。


 烏丸憂は少し前に戦った時よりも成長している。


――それに比べて、自分は何をやっているのだろう。


 石塚期成の襲撃、助かりたいという自分勝手な感情の嵐、それらを見てからというものの砂原は人間に恐怖していた。


 人の抱く感情そのものに怯えるようになった。


 話をしている相手がどんな感情〈きもち〉を抱いているのか考えたくない。


 石塚期成が引きこした事件は確実に砂原の心へ消えない傷を刻み付けていた。



 相手の考えることがわからない。



 自分のことをどう思っているのか?



 どのような感情〈きもち〉を自分は抱いているのか。



 考えただけでキリがないものを砂原は考え続けて、精神をすり減らしていた。



 砂原沙織はスクリーンがブラックアウトしたことで意識を現実に戻す。


「(私、何を考えているんだろう)」


 相手の感情など理解できるわけが無い。


 そんなことを考えるのは無駄だとわかっている。なのに延々とそのことで悩んでいる自分が居ることに砂原は呆れてしまう。


『スクリーン復帰まで十五分かかります。それまで不便をおかけしますこと、真に申し訳ありません』


 設置されているスピーカーから流れる内容に砂原は迷路へ視線を向ける。


 巨大な迷路の中で相馬ナイトと烏丸憂は他のクラスと戦っている。Fクラスの能力者は自分を含めて三人のみ、他のクラスは最低でも十人はいるはず、人数的に不利な状況だというのに、二人の脱落報告はまだない。


 迷路は中盤にすら差し掛かっていない、だというのにこの脱落者の数の多さはどういうことだろうか?


 上位クラスは傍観を決め込んでいるのか0に対して、下位クラスの脱落者が多すぎる。


 表示されている脱落者を砂原はデバイスを起動させて、照合する。


「脱落している人達、Cより下の能力者ばかりだ・・でも、なんで?」


 浮き上がる疑問を解消するには手がかりが少なすぎる。


「おや、こんなところにいましたか」


「え?」


 後ろから聞こえた声に砂原は振り返った。


「探しましたよ。我らが姫よ」




瞬間、彼女の視界が闇に染まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ