クルトゥーラ城への突撃とブルーノの戦い
お昼過ぎに街外れ――本来はここが城塞都市であった時には中心地であった、旧市街に聳え立つ、複数の尖塔を持った旧王城――クルトゥーラ城へと私たちはたどり着きました。
「討ち入りって夜間に夜陰に乗じて行うもんでないにゃか?」
堂々と真昼間に敵陣に乗り込む行為に、シャトンが途中で買ってきた蕎麦のガレットを頬張りながら、小首を傾げます。
ちなみに蕎麦はリビティム皇国全土で割と広く食べられている穀物で、小麦や大麦、燕麦が豊富に収穫できるグラウィオール帝国やデア=アミティア連合王国あたりでは、『貧乏人の麦』と呼ばれて、間違っても貴族や富裕層が口にするものではありません。
私的には『蕎麦』となれば『蕎麦切り』を普及させたいところですが、生憎といまだに蒸した米から麹を生み出すことに成功していないので――麹自体は自然発生するのですが、ほぼ全部がアフラトキシン(強力な発がん性毒素)がある毒性株で、地球の日本で味噌や醤油を作るのに使われる麹菌は、何百年も品種改良した結果、無毒で毒を作らない安全な変異株が偶発的に生まれ、それを培養したものだそうですので、コッペリアでも「こればっかりは何十世代も時間をかけないと無理ですね」ということで――現在は試行錯誤段階です。そうそう都合よくはいかないものですわね。
「それは”討ち入り”と言うよりも、夜陰に乗じた闇討ちですわね」
「クララ様がそんなコセコセ行動するわけないでしょう。やるなら真正面から、邪魔な障害物を蹴破って相手が逃げる間もなく、グーパンで泣いて謝っても原形を留めないほど殴り飛ばします!」
「それは押し込み強盗ですわ!!」
シャトンにしてもコッペリアにしても私を何だと思っているのかしら?
「……でも、実際、いまから乗り込むんですよね?」
微妙に腰の引けた態度でエレンが目の前の武骨な門扉とお城を指さします。
「ええ、それはまあ……当初は偵察だけの予定でしたけれど、こうまであからさまに誘われては。――えーと、こういうのを『威力偵察』とか『虎穴に入らずんば虎子を得ず』と言うのではないかしら?」
「いや~、そういう武闘派な思考と直結した行動力は、少なくとも〈聖女〉のもんじゃないと思うにゃ」
綺麗にガレットを食べきったシャトンが、指を舐めながらそう言い切りました。
なぜか反射的に首肯する面々。――と、ルークが私の咎める視線に気づいて、わざとらしく咳払いをして居住まいを正して、
「現在は、名目上は現国王であるコッラード・オーランシュ辺境伯は行方不明で、息子たちは跡目争いで対立――実際は全滅しましたけど、まだ情報は届いていないので、母親である側室たちが実家を頼りに圧力をかけている状況で、このクルトゥーラに残っているのは、他国の王女であった正室のシモネッタ妃だけということになっているようです」
おそらくはオーランシュに潜入している、帝国の間諜から報告を受けた内容を、開けっ放しで警備兵すらいないクルトゥーラ城の正門前で開陳するのでした。
「見事に指揮系統も軍部もバラバラですわね。そして、これ見よがしに開放された正門とか、誰がどう見ても罠ですわね。――まあ、罠なら罠で蹴破るだけですが」
私の宣言に、『やっぱり武闘派だ……』という無言の声が聞こえた気が……。
◇ ◆ ◇ ◆
城内の廊下は、松明の炎が揺らめく薄暗い石造りの通路でした。私たちが閑散とした階段を上りきったところで、待ち構えていたのは正規部隊ではなく、場違いな山賊モドキ――おそらくはクルトゥーラの裏社会を牛耳る盗賊騎士と、傭兵たちの混成軍であろう十人ほどの集団です。
最初に飛び出してきたのは、盗賊騎士と呼ばれる連中でしょう。
元は貴族の落ちこぼれや破落戸の騎士で、甲冑はまともな騎士のものよりずっと粗末。錆びた鎖帷子に古びた胸板を重ね、肘や膝の守りは革の当て布だけ。兜は半面だけの安物で、顔の下半分がむき出しになっている者もいます。
マントはかつての家紋を剥ぎ取った跡が残り、代わりに血や泥で汚れた布切れを羽織り、武器は長剣やメイスが多く、手慣れた様子で短剣を腰に二本差し、片手には小型のバックラー盾。目つきはギラギラと貪欲で、まるで獲物を前にした野犬のようでした。
「へっ、女とガキどもか! 金になる身体だぜ!」
先頭の盗賊騎士が下品に笑いながら斬りかかってきました。ですがルークの長剣が一閃――鎖帷子の隙間を突かれ、男は喉を押さえて石床に崩れ落ちました。
続いて湧いて出るのは傭兵たち。こちらは見た目からしてもっと雑多で、統一感の欠片もありません。
モリオンヘルムを被った者、東方の影響を受けたラメラーアーマーを着込んだ者、さらには北の蛮族風に毛皮を肩に掛けた大男まで。武器もバラバラで、ポールアックス、フレイル、クロスボウ、両手剣と何でもあり。甲冑は戦場で拾った寄せ集めが多く、色も形もバラバラです。赤い羽根飾りを付けた者もいれば、顔に古傷だらけの者もいます。
「囲め! 囲んで一気に潰せ!」
誰かが叫びましたが、連携はまるで取れていません。一人が突っ込んできて仲間が横から割り込み、互いに邪魔し合う要領の悪さ。
クロスボウの矢が放たれるが、慌てたせいで天井に当たって石屑を散らすだけ。
狭い廊下でコッペリアが愛用のモーニングスターを無造作に横薙ぎに振るうと、三人が団子になってまとめて吹き飛ばされ、壁に叩きつけられて動かなくなりました。
あっという間に一掃しましたけれど、そのドタバタ騒ぎを聞いて、廊下の角からまた新しい波が押し寄せてきます。盗賊騎士は素早さを活かして背後を取ろうとし、傭兵は力任せに正面から突っ込んできますが、所詮は烏合の衆。装備は見栄えはするが継ぎ接ぎだらけで、動きも雑。ルークやブルーノ、コッペリア、シャトンによる信頼と経験に裏打ちされた連携の前に、次々と倒れていきます。
「まだ来るのか……本当に足止めだけが目的らしいな」
ルークが苦笑しながら剣を振るうたび、松明の炎が赤く揺れ、倒れた盗賊騎士の安兜がカランと音を立てて転がります。その傍ら、私は致命傷を負った者に最低限の『治癒』をかけて、なるべく死人が出ないように加減するのでした。
偽善だとは重々承知していますが、彼らを最終的に裁くのは、私人ではなくきちんと司法の手に委ねるべきだというのが、私とこの場の仲間たちの一致した見解だからです。
ともあれまるで時代劇の悪党どもが、主人公の前で名乗りを上げる間もなく次々と斬り捨てられていくような――そんな光景が、クルトゥーラ城の薄暗い廊下で延々と繰り返されるのでした。
「門が開いていたので、あからさまな罠かと思いきや、いるのは山賊モドキの騎士崩れと傭兵ばかりとは、侮られてるのか!?」
何度目かの散発的な襲撃を撃退した私たちが、廊下の先にさらに進んで三階に達したところで、ひとしきりぼやいていたブルーノ目掛けて、どこからともなく漆黒の短剣が飛んできました。
「「危ないっ!!」」
「――おっ……と?」
咄嗟に叫んだ私とエレンの警告よりも先に、きっちり反応してみせたブルーノが短剣をはじき返します。
「――っと。どうやらここらへんが、俺の出番みたいだな」
いくらも行かないうちに、ブルーノが立ち止まって分岐した廊下の一本先を睥睨しました。厳しい目で見る先には、他の連中とは毛色の違った黒づくめの集団。
「オーランシュ辺境伯の誇る特務機関……要するに汚れ仕事専門の部隊『黒鳥』ですにゃ」
横目でそれを見ながら、シャトンが周りに言い聞かせるように独り言ちます。
それを聞いても表情はそのままに、けれど身にまとう雰囲気は鋭さを増しブルーノが一歩踏み出しました。
「ちょっ、あの数をアンタが一人で相手する気!? 無茶よ!」
冒険者ランクが上がった記念に有り金叩いて帝都で買ったという、武骨な軍用剣――無銘の量産品ですが、私とコッペリアとが後から手を加えて『強化』と『対人不殺』(殺さないギリギリのラインで相手を生かす)の付与魔術を施してあり、その際に『月影』という銘を付けたらしいですが――をスラリと引き抜くブルーノの背中に向かって、エレンが慌てて止めに入ります。
ブルーノは止まらずに親指を力強く立て、不敵に笑うのでした。もちろんその表情は見えていません。ですが、その場にいた全員に伝わりました。
無言で頷く一同(エレンは除外)。
ついでとばかりに、コッペリアがポケットから何やら髑髏マークのついた小瓶を取り出して、ブルーノに向かって放り投げました。
「ほれ、せめものワタシからの餞別です。飲めば神経伝達速度+反射速度増加、筋瞬間最大出力+爆発力を最大で通常の五倍までブースト、乳酸耐性一〇倍、血中酸素運搬能力を上げ、痛覚・疲労感の八〇〜九〇%を遮断する〈超強化薬〉です」
後ろ向きのまま勘だけでそれ――中身は液体で、一見すると地球の健康ドリンクのようにしか見えない――を片手で受け取るブルーノ。
「ああん?」
「要するに反射神経や筋力、耐久、持続力などを上げる薬です。これでスットコドッコイの馬の骨でも、冒険者ランクでいうA級くらいには底上げできるでしょう」
十五歳という年齢の割にそこそこ高ランクな冒険者であり、なおかつバルトロメイの薫陶を受けているブルーノです。薬の補助を受ければ、一国の特赦部隊が相手でも、限定された空間で『対人』という制約があるのならば、逆にそれなりに戦えるという事でしょう。
ただし――。
「……強化薬って、副作用とかないだろうな?」
コッペリア謹製の錬金術で作られた薬に大いなる不信感を抱いているらしいブルーノが、ちらりと掌の中の小瓶を一瞥しました。
「んなもん、あるに決まってるじゃないですか」
「あるのかよ!?」
「当ったり前ですよ。そんだけ直接体に作用する薬ですよ。逆に反動がない方がおかしいってもんでしょうが?」
「いや、そうだろうけど……」
わかるけど、それでもなお釈然としないという顔のブルーノに向かって、コッペリアが自明の理という風に尋ね返します。
「ああ、命の危険はないので心配しなくても大丈夫です。効果はスープが冷める程度の時間ですが、副作用の方は、六〜十二時間はアドレナリン切れで廃人状態になるのと、三~五日全身筋肉痛と横紋筋融解症でベッドから起き上がれない状態なるくらいで……。ああ、あとは腎臓・肝臓の数値が一時的にヤバくなりますが、一巡週でほぼ回復します。そうそう、セロトニン枯渇で、二~三日うつ状態になるかも知れませんが、山猿なら問題ないでしょう」
「全然“大丈夫”じゃない!」
そんなブルーノの背中に向かって、コッペリアが軽く鼻を鳴らして一言。
「文句あっても、どっちしろ飲むんでしょう?」
「……まあ、な」
選択の余地はない、とばかりに苦々しく肯定しつつ、その場で瓶の蓋を開けて一気飲みするブルーノ。
特に感想を言うことなく、ジリジリと彼我の距離を縮めてくる『黒鳥』に向かって空瓶を放り投げ、同時に体をずらすことで音もなく飛んできた投擲用両刃短剣を空中で弾き飛ばしました。
同時に反撃も忘れません。クルクルと弾かれて舞う投擲用両刃短剣の一本を、左手で掴むや否や最前の敵目掛けて、お返しとばかり投げ返す。
飛燕のようなその速度に反応できずに、大きく姿勢を崩したところへ、ブルーノが神速で飛び込んで行って、刺突――と見せかけて跳躍。壁→天井→真下へと三次元的な動きで、『月影』を脳天目掛けて振り下ろしました。
「がっ……?!」
信じられん、とばかりに白目を剥いてその場に昏倒する『黒鳥』の一人。
「なるほど、確かに効くなぁ」
コッペリアの〈超強化薬〉がこの超人的な動きを可能にしているのでしょう。また狭い廊下で戦うことがブルーノにとって利点と化しているようです。
私たちを背後に守る形で、ここは通さなんとばかりに廊下の中央で仁王立ちしながら、とりあえず目に見える人数を数えて値踏みするブルーノ。
「一人、二人、三人……っと――たくさん」
隙を突いて、仕掛けてきた敵の攻撃を半歩下がっていなすブルーノ。
真っ黒な刀身の短剣は、黒妖精族の暗殺者がよく使うという光を吸収するという闇妖鉄製でしょう。滅多に出回らないそれを、これだけ揃えられたのは、さすがは音に聞こえた武の名門であるオーランシュ辺境伯家と感心するべきでしょうか?
その一撃を躱した刹那、その一見無防備な左側面からフェイント気味に突き入れられた短剣に対して、素手による掌底突きによるカウンターで殴り飛ばす。
「行きますよ」
「で、でも――」
迷うエレンの背中を押して、私たちは別な分岐を選び、クルトゥーラ城の奥へと歩みを進めます。
後ろ髪を引かれる想いで、何度もブルーノの方を振り返るエレンを促して、私たちはその場を後にするのでした。
◇ ◆ ◇ ◆
一見すると、動きやすい薄手の装備を纏っているだけに見える『黒鳥』部隊の連中だが、さすがは特殊部隊だけあって、見た目どうりの軽装ではなく、滅多に出回らない高位魔物の素材をふんだんに使った、『皮鎧の重さと伸縮性に加えて、高鋼鉄並みの硬度がある』装備を前にして、ブルーノは早々に斬撃を放棄して、徹底的に関節と頭部狙いの戦術に変え、相手の意識を刈り取ることに専念する方針へ変えた。
「――破っ!!」
ブラントミュラー家の家令・ロイドから教わった奥義・振電。
剣を打ち込んだ瞬間、柄の部分に掌底をぶち当てることで、梃子の原理と振動を増幅させた相乗効果で、装備を突き抜け内臓に直接、ダメージを与える技である。
また一人、気絶して倒れた。
だが、所詮は見よう見まねで、なおかつ薬の力で半ば無理やり行使している技。
さらに敵のスーツの性能も伊達ではない。反動によって、限界を超えたブルーノの左手の骨が砕けた感触があった。
「前にセラヴィに砕かれた手か。そういえば治してくれたジルが『一度確定された事象を無理やりなかったことにしたものなので、しばらくは無理しないように』とか言ってたな」
まあ、いま無理しなきゃ、いつするんだって話だから、仕方がない。
周りを見れば、残っている『黒鳥』は半数ほどだろうか。
「俺って結構やればできるタイプだったんだなぁ。周りが凄すぎて自覚なかったけど……」
呟きつつ、『いざという時に備えて』と、ジルがお守り代わりに持たせてくれた、特製の霊薬の最後の一本を飲み干す。途端に、全身の細かな傷が癒され活力が復活するのを実感した。
とはいえ砕けた左腕はさすがに即座に治るまではいかず、また、コッペリアの薬の効果が切れてきたのか、体中に鈍痛と倦怠感が鉛のようにまとわりついている。動きもワンテンポ遅れる感じで、どうにもやり辛い。
だがそれがどうした。まだ自分は自分の足で立っている。しっかりと背筋を伸ばして、愛剣を構えて前を向いている!
(ジルたちはセラヴィをどうにかできただろうか?)
いまごろは自分のように頑張っているであろう友人たちを思うブルーノ。
セラヴィとは最後まで反りが合わなかったが、いま考えてみればもしかすると自分もああなっていたかもしれない合わせ鏡だったから、なおさら反発していたのかも知れないとも思う。
だけど自分はセラヴィみたいにはならなかった。なぜか? そんなものは決まっている――。
なぜか脳裏に浮かんだのは、途方もなく美しいジルの容貌ではなく、いつも口うるさい幼馴染の怒り顔だった。
この状況で自然と浮かんだ微笑に戸惑ったのか、『黒鳥』の攻撃が止み、森閑とした静寂が回廊に満ちる。
「コンスル冒険者ギルド支部所属」
そこへブルーノの朗々とした名乗りがこだまする。
「冒険者番号112番、C級冒険者ブルーノ……ブルーノ・レーヴィ!!」
いままであえて名乗らなかった、ファミリーネーム。
世間知らずの商家の娘だった母親を玩び、庶子ができたことを知って、わずかばかりの手切れ金とともに捨てた金貸しの実父のものでも、娘の醜聞を恐れて、魔獣に喰われてしまえとばかり、孫ごと西の開拓村に放逐した、母方の祖父のものでもない。
冒険者ギルドで一人前扱いされるC級。若くしてそこまで昇格した際に、コンスル冒険者ギルド支部長のエラルドが、ご祝儀代わりに新たに付けて、冒険者証に刻んでくれたそれを、ブルーノは威風堂々。あらゆるしがらみ断ち切って、全身全霊で吼えた。
「――ここを通りたきゃ、俺の屍を越えて行けっ!!」
裂帛の気迫とともに敵陣のただなかに突っ込んでいく。
防御など考えずに手当たり次第に愛剣・月影を振り回ず。本来は硬度的にも切れ味的にもワンランク上である闇妖鉄製の短剣や防具を前にして、いまだに剣がもっているのはジルとコッペリアが強化してくれたお陰である。
細かな刃こぼれこそしているものの、いまだ致命的な破損はなく、鈍器としての役割は十分に果たしてくれている。何だったら刃こぼれした部分がノコギリ状になっていて、凶器としての殺傷力は上がっているかも知れない(まあ『寸止め』の付与魔術が健在なら、死ぬほど痛いだけで済むだろうが)。
〈超強化薬〉の効果は、とっくに切れているはずだが、不思議と体は軽くて切られた傷の痛みも無視できる程度である。
浮かべている笑みが、知らず知らずに深くなっていた。
訓練された動きで、『黒鳥』が三人がかりで、同時に前後と左側から、双剣によるコンビネーション攻撃を仕掛けてきた。
完璧な必殺を期した六連撃。
瞬時に、ああ、これはどうしようもない。どうあがいても死ぬな、と理解した。
だが、口元の笑みは消えなかった。
殲滅することはできなかったけれど、敵の大半は倒した。時間を稼ぐこともできた。結果は足りなかったかも知れないけれど、自分としてはよくやった方だと思う。
後悔はない。十五年という短い人生だったけれど、その濃密さは普通の人間が、仮に百回人生をやり直したところで追いつかないほどスリリングで、奇跡のような出会いや冒険に継ぐ冒険の旅。思い返しても、面白おかしく充実した人生だった。
だから最後の最後まで付き合おうと頑張ったのだ。結局、最後までは付き合うことはできないようだけれど……まあいいか。俺なりに最後まで頑張ったんだから。
――悪いな……。
胸に浮かんだ面影――なぜか泣きそうになっていた――に向かって、ブルーノは小さく呟いた。
笑みはまだ消えなかった。
刹那、ブルーノの急所目掛けて、闇妖鉄製の短剣が一斉に振るわれる。
なお、問題の父の金貸し業と母方の商店は、『畏れ多くも聖女様の信任を得て、お傍に侍ることを許可された庶子(孫)を放逐した見る目のない連中』という噂というか……事実が、町全体どころか、およそ国中に喧伝され、あっという間に没落したそうである。
現在、父親の方は悪徳金貸しが破産した場合のコンボである、破産→財産没収→国外追放→暗黒大陸にある辺境植民地に、「償却労働」として送られ消息不明。
母方の祖父は完全に身ぐるみ剥がされたあと、救貧院への「自発的」終身入所(実際は家族が無理やり入れる)となったので、いまさらブルーノのおこぼれ狙いで付きまとう可能性はほぼないだろう。
「いや~、因果応報なんと違います? もともと真っ当な商売していて、家族や親戚、周囲から慕われていたら、下働きでもなんでも紹介してもらえたはずですからなあ」
原因と言うか、面白おかしく連中の所業を吹聴して回った、どこぞの行商人がそう言ってうそぶいていたとかいないとか。
※なお、実際のヨーロッパで商人や金貸しが破産した場合、大多数が自殺しました。一部は植民地での重労働や、ガレー船の漕ぎ手、あるいは親類縁者が金を立て替えてくれるまで収監といったところです。




