死霊と腐敗エリア2
「よよよ……よく来たな」
頂上から飛び降り、ガラはドクタの目の前に来る。
骨だけの存在のガラ。それが顎をかくかく動かし、肩を揺らしている。しかも腕が八本あり、普通の人が見れば失神しそうな光景で冒険者ならその存在に圧倒され、高ランク冒険者で名を知る人物なら恐慌しそうな光景だが、ドクタは平然としていた。
「初めましてドクタと申します」
「かかか……面白い人間だな。ななな…何万と屠ってきたが、そんな反応は初めてだわ……私の名はガラという」
「そうなんですか。私には関係ありません。宜しくお願いします」
ドクタにとってみれば、人が過去に何万人殺されようが言った通り関係は無い。目の前で傷ついていれば治すが、積極的に関わりたくない。そういう位置関係だ。
思いがけないドクタの反応。それはガラには新鮮で、愉快そうに全身を揺らす。
ガラにとって人間は暇をもて遊ぶ余興に過ぎない。この骨の山も、コアが無くなったスケルトンの残骸はあるが大半は人間の骨で、その全てが、ガラが戦って勝ったものの、なれの果てだった。
ガラにとって戦いとは唯一満たされるものだった。骨しかないガラは食事をしても味覚は無く、物に触っても、熱い冷たいといった触覚は無く、ついでに嗅覚もない。
知識では知っている。冒険者の腕を斬れば苦悶の声で顔を顰め、溶ける池や底なし沼に落ちればのたうち回り、食事の時は何かしらの表情が出る。
いつしかそういうのを見ているうちに、人に憧れるようになった。
人と同じ様に血肉を貪り、人と同じ様に眠り、人の武器を持ち、人と戯れてみた。
だが思ったような結果は得られず、しいて言うなら武器を持ったことにより戦闘能力が飛躍的に向上したのみ。ガラは次にどうすればいいのか考えた。
何十年何百年と月日は経過し、ようやく……。
「何の真似でしょうか」
差し出されたのは手ではなく真ん中左に持っていた剣。
眉間すれすれに突きつけられ、ドクタは表情を変えずに問う。
「かかか……やはり面白い」
ガラは殺す気で突きつけたわけじゃない。反応を楽しむため。ほんの余興だ。だが、ガラの悪い癖が始まった。
ややや……やりたい。でも我慢だ我慢。ででで……でもやりたい。
本来の目的とは違うが、ドクタが強者だと感じたガラは、戦闘したくてうずうずしていた。
殺してしまったら、あの計画も成功しなくなる。そう自身に問いかけても一度思ってしまうとどうにもならない。
だから何とか押さえ込んでいる今のうちにドクタに相談する事にした。
「どどど…どうしよう。やりたくてやりたくてうずうずする。これを止めるすべはあるか」
「分かりました。何とかします」
そう言ってドクタはガラを包み込むように沈静魔法をかける。興奮状態の者は冷静に話し合いができず、聞きたい事も聞けない場合が多い。
だからまずは落ち着かせるため、そういう方法をとった。
もうそろそろ大丈夫だな。好戦的な気配は消え、ガラの動作からドクタはそう判断したが、又なると面倒なので、常時少量の沈静魔法をかける事にした。
「すすす……すまない。煩わせてしまった。本題に入ろう」
少し間をおいて、ガラはドクタと目を合わせる。
「たたた……頼みたい事。それは……」
それを聞いたドクタの表情は、珍しく眉間に皺を寄せ、難問に挑戦する様な難しそうな表情だった。




