第98話 感動話に大泣きしていた妾は、突然の来客に心躍る
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ヴェルグの話を食い入るように聞いていたダレットとシェンルゥは、話が終わる頃には滝のように涙を流していた。
「ゲンガー、あやつはそんな悩みを抱えておったのか」
「ああ、拙はなんて罪深いのでしょう。 ゲンガー様の辛さに気がつくことが叶わなかっただなんて」
「あいつぁーその日から精霊術の腕をぐんぐん上げやがってな。 それ以降は自分からこの家を出て国中を駆け回って、気がついた頃にはダナシィの妖精王と協力して魔獣共を蹴散らし始めてやがった」
「さすがはゲンガー様です」
「どうもあいつは頭の回転がはえーみてーでな。 今まで個々人で戦ってた妖精たちを取りまとめ、集団戦術とかいうよく分からねー戦い方を産み出したんだぜ!」
「なるほど、道理であやつを見た妖精たちが嬉しそうにしておったわけじゃ」
ヴェルグの話によると、ゲンガーは妖精たちにヘイト要因と攻撃要員と明確な役割を用意した上に、魔獣たちの弱点となる部分を分析。 さらに効率よく倒すための手段を考え出し、妖精たちに伝えて狩りを効率良く行えるように変えていった。
最前線で戦うゲンガーはすぐに妖精たちから頼りにされ、魔獣討伐の主軸として活躍し始めることができるようになったのだ。
しかし、それと同時にゲンガーはこのままではいけないと思い始めていたらしい。
「魔獣の目撃情報が増えてきた頃、あの坊主は助っ人を呼びに行くとか言ってこの国からでて行っちまってな」
「釣れないやつじゃのう、正直に手を貸せと言えば、妾も一肌脱いだものを」
「拙は思います。 心優しい方ですので、我々に気を使ってくれていたのでしょう!」
「素直に助けを求められない性格なだけではないかの? ほれ、あやつ童の記憶を書き込んでおるし」
シェンルゥが腕を組んでふんぞり返っていると、家の扉が遠慮がちに叩かれる。
「ごめんくださーい」
「お? この声は!」
扉越しに聞こえた声に過敏に反応したシェンルゥは、ウキウキした歩調で入口へ駆けていき、家主に許可を得ずに勝手に扉を開いてしまう。
「よく来たのう童!」
「何でお前が出てくるんだよ」
シェンルゥが勢いよく扉を開けると、驚いたような顔で硬直してしまうティメル。
「ダレットが治癒を終わらせるまで暇だったからのう、おじいちゃんから話を聞いておったのじゃ」
「は、おじいちゃん? ……言っとくが、ヴェルグの年齢は行っても百才未満だぞ? つまりオメーのほうがババアだ」
「ひっぱたくぞ童」
三日ぶりに顔を合わして早々、口論になりかけるティメルとシェンルゥ。
そんな二人の後ろから、無愛想な表情のまま現れたヴェルグは、興味深げな顔でティメルの観察を始めた。
「オメーが坊主の言っていた魔術師か」
「あ? 生ヴェルグさんじゃん。 思ったより老けてんな」
「ふっ、坊主にそっくりじゃねえか」
「そりゃーな、あいつは俺の記憶を書き込んでるとっておきのやつだ。 双子の弟みたいなもんだぜ?」
迷いなく双子の弟だと言い始めるティメルの言葉を聞き、ヴェルグは安心したように微笑む。 いつも無愛想なヴェルグが朗らかな笑みを浮かべたことで、ティメルは驚愕していた。
「え? ヴェルグさんが笑った、だと?」
「いやぁ、わりぃなティメルとやら。 やっぱおめーさんは、俺が思った通りのやつだと思ったら……安心しちまってな」
「あれ? なんかこのヴェルグさんめっちゃ喋るけど? もしかして別人?」
困惑するティメルを見て、シェンルゥはニマニマしながらヴェルグの横顔を凝視する。
なぜか嬉しそうに笑いだすシェンルゥへ細目を向けたティメルは、訝しむように口をすぼめていた。
「なんか、俺変なこと言ったか?」
「いやいや、おいらはお前に会えて良かったと思ったぜ」
「そうじゃのう、さすがは童じゃのう」
「え、なんなのお前ら、何だその生暖かい目は」
三人の間に生暖かな空気感が漂い始めたタイミングで、部屋の奥からもうひつとの足音が聞こえてくる。
「教皇様? そう言えばどうしてこちらに? メイハオ様やカイム様と共にグレイトブリテンの攻略に向かったのでは?」
やや遅れて顔を出したダレットの声に反応したティメルは、思い出したようにポンと手を打った。
「ああ、そうそう。 グレイトブリテンはもう廃ダンジョンにしたからよ、どうせだったらヴェルグさんの治療しながらダンジョンの再構成始めようと思って呼びに来たんだ」
サラッととんでもないことを言いだしたティメルを前に、ヴェルグたちは空いた口が塞がらなくなったのだった。
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廃ダンジョンになってしまったグレイトブリテンに戻ってきたティメル達。
「本当にもぬけの殻だな」
「こりゃーおったまげた」
巨大迷路のようになっていたグレイトブリテンはもぬけの殻になっており、ドーム状の巨大すぎる空間には、瓦礫の山しか積み重なっていない。
ここを攻略したティメルたちは妖精王アウベルに報告に向かい、せっかくだからと美味しいお菓子をご馳走してもらった。 妖精の国には美味しいはちみつがたくさんあるだけではなく、果物や野菜なども非常に甘味が凝縮された作物が大量に取れる。
甘いものが大好きな妖精たちの中には、砂糖菓子を作るのを得意とするお菓子職人も複数いるため、この国には非常に美味なデザートがたくさんあるのだ。
妖精王に案内されてとっても美味しいお菓子を食べた後、ティメルは「結局観光って何すればいいのかわからない」などと言う陰キャらしいことを言い出した。 そうして何をするか考えた挙げ句、どうせならグレイトブリテンを整備したほうが楽しいのではないかと思い立ち、すぐさまヴェルグの家までやってきてしまったらしい。
「そんなわけで、ヴェルグさんはゲンガーと一緒にこのダンジョンの整備手伝ってくれね?」
「おいおいティメルとやら、突然そんなこと言われてもな。 おいらぁ自分の家に道具やらなんやらを置いてきちまったぞ」
「ふはは、いいのかそんな事言って」
ティメルは得意げな表情を浮かべながら異空間収納を発動させ、異空間の中から巨大な木箱を取り出した。
木箱の中には紫銀色の鉱石が大量に入っており、それを見た瞬間ヴェルグは目の色が変わってしまう。
「ぬぁ、なんじゃこりゃあ!」
「アダマンタイトだ。 ちなみに、ここに出したのは俺が持っているアダマンタイトの一割にも満たない」
「んな、これで……一割に満たないだと?」
「つい最近アダマンタートルをぶっ倒してたからな」
「あ、アダマンタートルだとっ!」
目が飛び出んばかりに驚くヴェルグを見て、得意げに鼻を鳴らすティメル。
先日、突然現れたアダマンタートルを倒したティメルは、その報酬としてアダマンタイトを妖精王から貰い受けていたのだ。 鉱石を好むのは鍛冶妖精くらいのため、花妖精であるアウベルたちからすると特段貴重なものではなかったらしい。
いかにも得意げなティメルの様子を横から見ていたシェンルゥは、呆れたように肩を竦めていた。
「お主ら、三日かそこらしか経っておらんと言うのに何をしておったんじゃ?」
「メイハオ、頑張った」
「ちっちっち、お菓子美味しかったんだっち。 また食べに行きたいんだっち」
「なんじゃ、詳しく話さんかカイムよ! お菓子とはなんじゃ!」
「さっき妖精王にお礼として奢ってもらったんだっち」
「なんで妾を誘わんのじゃたわけ!」
「理不尽なんだっち、シェン姉は少年の方に着いてこなかったのが悪いんだっち!」
頭を抱えてうずくまるシェンルゥはさておき、瓦礫でいっぱいになった広大な空間を総覧して苦笑いを浮かべるゲンガー。
「ここって、巨大迷宮だっただろ? 壁壊しても修復される設定だったはずだが?」
「修復した端からぶっ壊してたに決まってんだろ」
「もはや力技じゃねーか」
「そんなわけでヴェルグ君。 君はゲンガー君と協力してこのダンジョンをいい感じに整備する手伝いをしてもらいたいのだよ」
「そりゃあまあ、楽しそうではあるけどよぉ」
瓦礫まみれになっているダンジョンを見渡し、未だに驚愕しているヴェルグ。 そんなヴェルグに、ティメルは畳み掛けるように交渉を持ちかけた。
「手伝ってくれるのならば、こちらのアダマンタイトを大量に贈呈するのもやぶさかではない」
「うし、なにからすりゃーいい」
「え? ちょろすぎんだろオヤジ!」
「おん?」
一瞬にして籠絡されたヴェルグに、弾かれたようにツッコミを入れるゲンガーだったが、ティメルは困惑した顔でゲンガーを盗み見る。
ゲンガーが自然に発したであろうヴェルグの呼称に困惑した挙げ句、ティメルは近くにいたダレットに耳打ち。
「ねえ、今ゲンガーさん、ヴェルグくんをオヤジって呼んでなかった?」
「ええ、あの方々は尊き親子同然の関係なのです!」
「すまん、まったく意味分からん」
「詳しくは、拙の口からは申しません! ヴェルグ様からお聞きするのが良いかと思われます!」
「あら、そうなの?」
ティメルは浮かない顔をしながらも、仲良さそうに話し続けているヴェルグとゲンガーを遠目から見守っていた。




