第6話 尻尾を巻いて逃げた俺は、棚から牡丹餅な結果に驚く
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麒麟さんに嫌がらせをした俺は、何事もなく地上へと出ることができた。
無事に窮地を脱したとは言っても、あの廃ダンジョンは住処にするにはいい場所だった。 廃ダンジョンなわけだから誰も近づかないだろうし、位置的にも関所付近ということで物好きくらいしか近ずかない。
立地条件的に引きこもりには嬉しいことしか無い。 そんなわけで、どうにかして麒麟さんを本格的に討伐してあの場所に戻りたい。
となると、どの魔術を使って麒麟さんを倒せばいいのだろうか、ひちまず俺が今覚えてる魔術をおさらいしなければ。
そんな事を思いながら、魔術大全をペラペラとめくっていくと……
「あらら? なんかページ数が増えてる?」
なぜか知らないが900ページ前半の魔術を少しだけ使えるようになっていた。
「なにこれどゆこと? もしかしてさっきの創水で麒麟さん溺死した感じ?」
この世界に来てから大量のモンスターを狩り、手探りで鍛錬してきた。 ゲームと違いこの世界では次のレベルに必要な経験値も分からなければ、今自分が何レベルくらいなのかは魔術大全の埋まり具合で予想するしか無い。
そんな魔術大全が数ページ埋まったのだ。 先程の戦闘で麒麟さんは水没したおかげと考えるのは難しくない。
「ってことは、もう麒麟さん倒したってことでいいんだよな?」
相手は高難易度コンテンツだったため、正面から戦うにはどうすればいいかと頭を悩ませていたのだが、どうやら杞憂に終わったようだ。
そうと決まったらさっさと戻って先程作った拠点を修理しなければ!
「俺もとうとう900ページ代の魔術を使用できるようになったか! にっしっしっしっし、麒麟さん様々だな」
適当に穴を掘って出てきてしまっていたため、廃ダンジョンの入口から離れてしまった俺は、浮遊の魔術を使用して空から入口を探す。
俺は方向音痴ではないため、なんとなく入口の場所を覚えているし、なんならこのあたりはゲーム時代に探索したことがある。
出てきた時点で大体どのあたりにいるのかは予想がつけられた。 だから空から探せばすぐに入口は見つかるのも当然。
「よしよし、遠慮なく放水したから水没してないか心配だったが、一回層は無事みたいだな」
ダンジョンの入口を注意深く観察し、慎重に中へと進んでいく。
意外にもダンジョン内は水浸しになっていなかったため、入った時同様順調にダンジョンの奥まで進むことができた。
そうしてたどり着いた九階層最奥部。
「うげー、最終回層はもう湖になっちまってるな」
九回層の最奥部にある階段に到着した時点で水が溢れていた。 これじゃあ最終回層はすでに地下水脈になっているだろう。
間違いなく換えを用意していないテントは使えなくなってしまった。 しばらくは地べたに寝るハメになるのか。
明日目が覚めたら体中バキバキになるのだろうと予想し、億劫になっていると、目の前の水たまりにぶくぶくと気泡が立ち始めた。
まさかと思い、魔術大全を開く。
もし麒麟さんがまだ生きていたとしたら、俺は今使える魔術の中でも最強格の攻撃魔術を使って挨拶してやろう。
数秒間警戒しながら水没していた下り階段を凝視していると、きれいな刺繍が施されたチャイナドレスを纏った女性がプカプカ浮いてきた。
「え? なんで人がいるの?」
戸惑いながら駆け寄ると、意識を失っているのだろうか? 女性はうつ伏せの状態で背中を水面に出し、ピクリとも動かない。
慌てて襟首を引っ張り、陸に上げて頬をペシペシ叩こ……うとして硬直する。
「なぜ、この女の子には角がはえている?」
額からは捻れた一本角が生えており、顔の作りも異常に整っている。
まるで小国の姫のような見た目をしているのだが、残念なことに角がはえていた時点でオチが読めてしまった。
俺はオタクだからな。 こういう設定のラノベ小説もたくさん読んでいる。
まあここはあくまで現実世界だからもしかしたら違うかも知れないが、念の為ゆっくりと立ち上がり、チャイナドレスの女性から距離を取る。
「よーし、トドメ刺しとくか」
そうして800ページ後半に記されている高火力魔術のカスディム文字を構成して……
「待たぬかたわけが! 妾はもう戦う意思など無いわ!」
チャイナドレスの女性は勢いよく上半身を起こし、魔術を構成し始めた俺を慌てて止めに入ったのだった。
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とまあ紆余曲折あり、溺死寸前だった麒麟さんを仕方がなく救出してあげたわけだが。
「お、おのれ人間め! 卑怯な手を使いおって!」
「助けてやったのにそれかよ。 また水没させるぞちくしょう」
「それはやめよ。 本気で死ぬかと思ったのだ」
顔を青ざめさせる麒麟さん。
「って言うか、なんで人の姿になってるんです?」
「なぜだと? 貴様が妾を屈服させたからに決まっておろうが!」
「屈服て……言い回し考えてくれよ」
そもそも麒麟さんはなぜ突然現れたのだろうか?
「根本的な疑問なんすけど、なんで突然出てきたんです?」
「なぜじゃと? 童が妾を召喚したからであろうが?」
「いやいや、召喚なんてしてませんよ。 俺が使おうとした魔術は転移の魔術です」
人の姿になった瞬間かなり有効的な麒麟さんに拍子抜けしてしまいそうだが、転移魔術を実験使用しようとしたら突然魔術陣が真紅に染まり、高難易度モンスターの麒麟さんが現れるという怪奇現象を目にしたのだ。
もはやホラーでしか無い。 転移魔術恐怖症になりそうだ。
「何を言っておる。 貴様もしかして魔術の構成を誤ったのではないか?」
「なんですと?」
俺は慌てて複製していた魔術陣を適当な岩に複写する。 その魔法陣をじっくり眺めていると……
「ほれここであろう、誤字があるではないか」
むすっと口を尖らせながら、麒麟さんがツンツンと魔術陣を指差す。
それに習い俺は慌てて魔術大全を開き、麒麟さんが指摘してくれたカスディム文字と、魔術大全に記載されているカスディム文字を見比べる。
「あ、ほんとだ」
どうやら今までゲームのシステム頼りなプレーイングだったため、手書きの魔術陣は誤字脱字が混ざってしまったようだ。
確かにこの世界で魔術を使う時は、魔術大全のカスディム文字をなぞって魔術を構成していた。
「貴様、まさか妾を召喚したのはたまたまではあるまいな?」
「え? いやぁ、そんなことはありませんけどー?」
「図星ではないかたわけ! 妾を間違えて召喚しただと? 何たる無礼!」
麒麟さんは先程までの殺気ブンブンな態度は見る影もなく、ぷりぷり怒りながら背中をベシベシ叩いて来た。
「そんな事言われても、勝手に来たのはそっちじゃないですか」
「それを貴様が言うか! 妾だって勝手に呼ばれてびっくりしたのだ!」
今度は脇腹に拳をめり込んでくる。 力加減はしてくれているみたいだが、いい加減痛い。
「ちょっと痛いんですが!」
「まったく、呼ばれ損ではないか!」
麒麟さんは盛大に溜息をつきながらぺたりと座る。
「とは言っても、負けてしまった以上妾は貴様と契約をしなければならない。 なぜよりにもよってこのような男に負けてしまったのだ……」
一人でぶつぶつよくわからないことを言い出す麒麟さん。 なんだか拍子抜けしてしまいそうだ。
それにしても麒麟さん、整った顔をしているな。
腰まで伸びた黄金の髪に同じ色のまつ毛や眉毛、白亜色の瞳に白磁のような肌。 体型もモデルさんのようで、まだ十二歳の俺より頭二つ分背も高い。
傾国の美女とはこういう女の子のことを言うのだろう。
そんな事思いながらじーっと麒麟さんをみていると……
「何をしている。 早く契約をせぬか!」
「え? 契約って何?」
「召喚魔術で呼ばれた魔獣は、負けたものと契約して忠誠を誓わなければならない」
「何その話、初耳なんですが?」
「はぁ? つくづく妾を愚弄するのが好きなのだな? なんという不遜な態度! 許せん!」
べしべし地面を叩く麒麟さん。 突然怒り出されても俺としてはまったくわけが分からない。
「そもそも契約ってどうするのさ」
「妾の角に記された法陣に触れ、名前をつけよ」
「それって遠慮できたりしない?」
「おのれ愚物め! わざわざ妾を呼んでおいて、その上正面から戦わず水攻めなどという卑怯な手で戦った挙げ句、間違えて呼んだだけなので帰ってくださいとでも言うつもりか!」
麒麟さんにまたしてもボコスカ叩かれる俺。 もういい加減やめてほしい。
「わかったわかった。 法陣に触れて名前つければいいのね? りょーかいりょーかい」
これ以上渋っても面倒そうなので仕方がないから言われたとおりにする。
不機嫌そうにしながらも額からはえていた角を向けてくる麒麟さん。 俺は仕方がなくその角に記されている法陣に指を添え……
予想以上に顔が近くてなんか照れくさい。
「名前つけろとか言われてもなー」
「変な名前をつければ、ただではおかぬぞ」
「麒麟さんじゃダメなの?」
「串刺しにするぞ貴様」
「何この子、契約する気ゼロじゃん」
圧力をかけてくる麒麟さんにドン引きしながらも、なんだかんだで名前どうしようか考えてしまう俺である。
麒麟さんは確か、中国の幻獣だし、俺が今いるこの場所も華ノ国という中華風の建物が目立つ国だ。
となればエモい名前をつけるとすれば……
「シェンルゥなんてどうだ?」
「ふむ、悪くない」
意外にも文句一つ言わずに了承してくれる麒麟さん改め、シェンルゥさん。
「名前の由来は神という単語と鹿という単語を無理やりつなげたもので……」
「わかっておるわこのたわけ! はやく契約を終わらせよ」
急かされたが何をすればいいかわからない。 と、思っていたら法陣に添えていた指から熱が吸われるような不思議な感覚に陥る。
熱が吸われる感覚に戸惑っていると、シェンルゥの体が真っ白に発光し始めてしまった。
何事かと思って慌てて下がってみると……
「法陣の形が……変わった?」
「これで契約成立であろう。 そうと決まれば話は早い、早速妾に食事を用意せよ」
契約早々、どちらが上の立場なのかがわかならなくなるのであった。




