第1話 イケメンに転生した俺は、自分の顔に酔いしれる
脳内は常にファンタジー! niicoV所属、Virtualライバーの永福でございます。
カクヨムで大人気だった作品を、とうとう小説家になろう様で投稿していくことにしました!
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「誰だこのイケメンは」
八才の誕生日を迎えた俺は、いつもと変わらない朝。 姿鏡を見ながらそんな事を呟いた。
黒紫の短い髪は、毛先を遊ばせておりイケメンオーラを全開に出している。 マジマジと鏡を見ているせいか、元々ツリ目気味な三白眼は極悪人のような目つきだ。
夜空のような紺色の瞳は、奈落の底を覗いているような不思議な印象を覚える。 八才の割には身長も割と高めで、人を小馬鹿にしたような顔つき。
色んな角度から自分の顔を観察してみるが、やはり俺好みのイケメンである。
勘違いしないでほしいのだが、俺はナルシストではない。
ではなんでこんな事を考えていたのか。 それは他でもない、鏡に写っている俺の顔に、見覚えがないからである。
いいや、見覚えはあるかもしれない……むしろ見覚えあるな。
「この顔、ティメル君じゃね?」
ティメル君とは、俺が楽しんでいたゲームのキャラクターだ。
マジシャンズ・フロンティア……通称マジフロに登場するキャラクター、ティメル・シャプール君。
それを実感した瞬間、顔が青ざめてしまう。
「いやいや、そりゃあないっしょ?」
なにを隠そうこのティメル君、悪役貴族なのである。
このゲームはいくつかのストーリー分岐があるのだが、どのルートでも必ず通過するターニングポイントがある。
それは、闇落ちしたティメルくんが中ボスとして登場するくだりである。
俺はどうやら、闇落ち予定の中ボスに転生してしまったらしい。
八才の誕生日を迎えたこの日、前世の記憶を思い出したのかなんだかは知らないが、どちらにせよ俺は今、マズイことになっている。
「俺が今八才ということは、後四年ぐらい経ったら闇落ちしてバットエンドじゃないか」
状況を理解した瞬間、再度顔を青ざめさせる。
まずいまずい、転生したというのに闇落ちして主人公たちに倒されるなどたまったもんじゃない。
どうにかして闇落ちだけは回避しなくてはいけないのだが、俺が育ったシャプール公爵家は、問題だらけの極悪貴族なのである。
俺がバットエンドを回避するためには、この極悪貴族であるシャプール家が、これからするであろう悪事を阻止しなくてはならない。
「いいや待て待て、俺には原作知識というチートがあるではないか」
誰もいない自室で、一人ブツクサとつぶやき今後の方策を考え始める。 そうして思考を巡らせている事で、ティメルくんが経験した八年間の思い出が鮮明に思い出されていく。
そして、違和感を覚えた。
「あれ? この子もしかして、意外にも努力家だったのか?」
思い出したのは、このゲームのメインステージであるナボニドゥス魔術大学校に入学するにあたり、ティメルくんが五才のときから必死に学んできた魔術の知識である。
そう、このゲームは平民の主人公君が、ナボニドゥス魔術大学校で生活していくうえで、この国ジュムフーリヤ帝国の英雄とされる魔導士に至るまでの物語である。
その過程でこの俺、ティメルくんは闇落ちして主人公たちにバチボコにはっ倒されて死亡してしまうというわけだ。
俺のゲーム知識によると、ティメルくんはナボニドゥス魔術大学校で主人公と同じ年に入学した首席魔術師だ。
公爵の息子という権力を鼻にかけ、事あるごとに主人公に意地悪をしたり、嫌味を言ったり、可愛い同級生を権力に傘かけて我が物にしようとする。 そしてそれを主人公に阻止されると駄々っ子のように喚き散らす。
わかり易いほど小物感を満載に詰め込んだ悪役貴族だった。 顔以外はとんでもないロクでナシという印象を持っていたが……
いざこの子になってみて分かったことは、エグいほど魔術の勉強をしていたということ。
「なんだよティメルくん、この子意外にも努力家だったのか?」
ここに来て新たな事実が発覚し、度肝を抜かれているこの俺だが、鏡を見ながら驚いていたら部屋が控えめにノックされる。
「ティメル様、朝食の準備が整いました」
「あ、はい! 今行きます」
「……え? あ、かしこまりました」
今声をかけてきたのは世話役のメイドだとティメル君の記憶から判明した。 だが、ただ返事をしただけなのにメイドさんは困惑している。
ああ、なるほど理解した。
ティメル君はわがままが服を着たようなキャラクターだったため、返事の仕方を間違えていたらしい。
だがしかし、これから起きるであろうバットエンドを回避していくためには、このわがままで偉そうなティメル君のムーブは改め、謙虚で堅実に生活をしていかなければならないだろう。
これはその第一歩だ。 そう誓い、俺は部屋を後にする。
ふっふっふ、原作知識がある俺にとって、バットエンド回避なんて朝飯前だ。 今以上に魔術の勉強をして徳を積み、努力無双して最強になって、これから起きるであろう事件を片っ端から阻止していけばいいだけなのだから。
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「シャプール公爵家の末弟、ティメル・シャプールは、国外追放の刑に処す」
そう、思っていたこともありました。
前世の記憶が戻ってからあれやこれやと時は過ぎ、四年が経過した。
十才でナボニドゥス魔術学校に入学し、原作知識を元に数々の事件を阻止しようと、ひたすらに活動し続けた。
なのに今俺は、シャプール公爵家の愚父や愚兄二人と共に拘束され、皇帝の眼の前に突き出されている。
原作通りに、ターニングポイントであるシャプール家断罪イベントに直行しております。
この四年間、もちろん努力したさ。
魔術の勉強もたくさんして、これから起きるであろう父上や兄上達の悪事を暴こうと、様々な活動をしてきたつもりだった。
なのにシャプール家というだけで周りからは疎まれ、数々の誹謗中傷を受け、どんなに徳の高いことをしても誰も支持してくれなかったのだ。 仲間が一人もできなかった。
「どうせなにか悪いこと企んでいるのでしょう?」
「なにを根拠にそんな事件が起きると言っている?」
「自作自演で事件を解決し、自分の評価を上げようとしているだけだろ?」
とまあ必死に周りに助けを求めても、門前払いだった。
そりゃあ俺の言い回しも悪かったかもしれない、頭が悪いからいい伝え方が思いつかなかったのも悪いと思う。
けど偉そうな態度は改めたし、謙虚に生きてきたつもりだった。
にも関わらずシャプール家は俺の認知を超えるほどの悪事を働いていたようで、一人で阻止するのには限界があったのだ。
聞くところによると、市民の間でもシャプール家の黒い噂は広まっており、証拠がないだけで断罪されていない極悪貴族だという認識が強かった。
そりゃあシャプール家はクソみたいな悪事を働いていたさ。
上げればきりがないほどに悪いことばかりしていて、そのくせ証拠はきっちりともみ消す徹底ぶり。 悪知恵を働かせることにおいて、右に出るものはいないだろう。
どんなに魔術の勉強をしていたとしても、俺一人の力には限界がある。 なので、父上や兄上達の悪逆非道なおこないを阻止することに失敗していき、どんどん追い詰められていった。
そうして今に至る。
「貴族の名に泥を塗った、その愚か者どもを我が前から疾く失せさせよ!」
「おのれ皇帝サヴァシュ! 貴様絶対に許さんぞ!」
「地獄に落ちろ!」
「嫌だぁ! 死にたくないよぉ! 助けて父上!」
罵詈雑言を上げている父上や、二人の兄上の後ろをトボトボ歩かされる俺。
俺以外は全員打首の刑だった。 俺はまだ十二才で未成年だったから国外追放という刑に収まったわけだ。
ちなみにこの国の成人は十五才という設定。
ゲームシナリオでは、唯一国外追放されていたティメル君が、主人公たちへの恨みをつのらせて闇落ちし、中ボスとして出現する。
だからこの刑に対して怒りを募らせるのはマズイ。 マズイと分かってはいるのだが……
「あいつら、マジ許さねー」
俺の話をまともに聞いてくれなかった人間どもに対して、怒りがふつふつと湧き上がる。
原作知識がある俺にとって、この負の感情が募るのは非常にマズイことだということは分かっている。
一番悪いのは上手に立ち回れなかった自分だということももちろん理解している。 リアル異世界転生でテンションが上がり調子にも乗っていたのだろう。
必死に頑張ったつもりになってただけで、もっといろんな手段があっただろうことも重々承知してるさ。
けれど、ムカつくものはムカつくのだ!
「もう人間なんて、だいっきらいだ!」
マジフロの世界でティメル君が闇落ちした理由が、分かった気がした瞬間だった。
こうして俺は、バットエンド回避に失敗し、死亡ルートへ王手をかけてしまったのである。




