EP 9
兵站総監の権力と『断罪のネクタイ剣』。最強ホワイト・チームの完璧なる害虫駆除
ズゴォォォォンッ!!
ポポロ村の広場に、全長4メートルを超える鋼鉄の『殺戮魔導ゴーレム』が地響きを立てて降り立った。
違法な魔力ブースターを積んだその機体は、赤い単眼を不気味に光らせ、圧倒的な暴力の気配を周囲に撒き散らしている。
「ハハハハハッ! やれ! その生意気な事務官も、ふざけたジャージの小娘も、まとめてミンチにしてやれェェッ!」
お賽銭箱型掃除機によって全財産を吸い尽くされ、みすぼらしい穴あき下着姿になったドルゴが、狂ったように叫ぶ。
その周囲では、武装した十数人の傭兵たちが下卑た笑いを浮かべ、武器を構えてジリジリと桜たちを包囲し始めていた。
だが、絶体絶命に思えるその状況下で。
桜の前に立ち塞がった黒い背広の男――ギルバート・ヴォルフ特務大佐は、微塵の焦りも見せずに、冷たく銀縁眼鏡を押し上げた。
「……私の補佐官と、この村の平和な日常を脅かす害虫ども。一匹残らず、ここで駆除にしてやろう」
「大佐……!」
桜がその広い背中を見上げると、ギルバートの背後で、銀色の尻尾が「俺に任せておけ」と言わんばかりに力強く揺れた。
その時、桜の隣で、ピンクの芋ジャージを着たリーザが両手を胸の前で組んだ。
「大佐! 私も微力ながら、バフ(応援)をかけますわ!」
リーザは深く息を吸い込み、エメラルドグリーンの瞳を輝かせて、持ち歌のフレーズをアカペラで高らかに歌い上げた。
『今夜も私の為に星が降る (ひかって!ひかって!)
全部手に入れるわ (強欲!)
夢も金貨も輝くもの (どっちも好きー!)』
リーザの歌声から放たれた黄金のオーラが、ギルバートの体に吸い込まれていく。
瞬間、ギルバートの全身を包む『闘気』が、何倍にも膨れ上がってプラチナの輝きを放ち始めた。
「……ほう。凄まじいな、これが人魚姫の歌の力か。体が羽のように軽く、闘気が無限に湧き上がってくる」
ギルバートは自身の手のひらを見つめ、フッと好戦的な笑みを浮かべた。
「ハッ! 歌で少しばかり闘気が上がったところで、鋼鉄の魔導ゴーレムに勝てるわけがねえ! 踏み潰せ!」
ドルゴが叫び、ゴーレムが巨大な鋼の腕を振り上げた。
しかし、ギルバートは動かない。
彼はゆっくりと、首元で緩めたネクタイに手をかけたまま、無情な声で告げた。
「ドルゴ。貴様は一つ、大きな勘違いをしている。……私を、ただ前線で暴れるだけの脳筋の武官だと思っているのか?」
「……あ?」
ギルバートは冷酷な金色の瞳で、下着姿の男を見下ろした。
「私はルナミス帝国軍・特務大佐にして、『兵站管理部』の総監でもある。……天木殿。事前の手配通りに」
「はい、大佐」
桜は小脇に抱えていた魔導端末を開き、エンターキーをターンッ! と軽快に叩いた。
「今この瞬間をもって、貴方の商会『ダーク・プロモーション』は、帝国軍のブラックリストに登録されました」
桜の透き通る声が、広場に響く。
「な、なんだと……?」
「大佐の権限により、帝国内のすべての街道、港、空路において、貴方の商会の物資輸送は『無期限の全面禁止』となります。さらに、帝国銀行を通じた取引も全凍結。……つまり、貴方の会社は今日この秒から、パン切れ一つ運べない完全な『倒産』状態になったということです」
「なっ……!? そ、そんな権限が、一介の軍人に……!?」
ドルゴが絶望に顔を歪める。
「兵站(物流)を制する者は、世界を制す。……我が最強の補佐官(桜)が構築した完璧なネットワークを敵に回して、貴様が生き残れる道など、この世界のどこにも存在しない」
ギルバートは宣告を終えると同時に、首元のネクタイをシュッ! と引き抜いた。
上質なシルクのネクタイに、リーザのバフで限界突破したプラチナの『闘気』が注ぎ込まれる。
柔らかい布地が、一瞬にして名刀の如き鋭さと硬度を持つ『断罪のネクタイ剣』へと変化した。
「ガァァァァッ!!」
魔導ゴーレムが、ギルバートを粉砕すべく、丸太のような鋼の腕を振り下ろす。
直撃すれば、地面ごとクレーターになるほどの威力。
だが、ギルバートは一切の予備動作なく、ただ静かに一歩を踏み込んだ。
「――『月下狼牙・一閃』」
閃光。
ギルバートの姿がブレたかと思うと、彼の体はすでにゴーレムの背後へとすり抜けていた。
ピシッ……。
数秒の静寂の後。
巨大な鋼鉄のゴーレムの胴体に、斜めに真っ直ぐな亀裂が走った。
そして、ズズンッ……! という重い音と共に、上半身と下半身が完全に真っ二つにズレて滑り落ち、機能停止の黒煙を上げて地面に崩れ落ちたのだ。
「ヒィィッ!?」
「ゴ、ゴーレムが一撃で……!? ば、化け物だァァッ!」
雇われていた傭兵たちが、あまりの光景に戦意を喪失し、武器を放り出して蜘蛛の子を散らすように逃げ出そうとした。
「あっ、逃がしませんよ! 私の村を荒らした落とし前は、きっちり払ってもらいます!」
その時、上空から元気な声が降ってきた。
村長のキャルルである。彼女は兎族の驚異的な脚力で十メートル以上も跳躍し、月を背にして空中に留まっていた。
彼女の足元、タローマン製の特注安全靴(鋼板入り)に、紫電の魔力がバチバチと音を立てて収束していく。
「お仕置きの時間です! 『月影流・流星脚』!!」
ドガガガガガッ!!
空中から放たれた目にも止まらぬ連続蹴りが、逃げようとした傭兵たちの後頭部や背中に次々とクリーンヒットする。
「あべっ!」「ひでぶっ!?」という悲鳴と共に、傭兵たちは次々と白目を剥いて地面に突っ伏した。
そして、キャルルの最後の一撃の矛先は。
全財産を失い、会社を倒産させられ、最強のゴーレムを破壊されて腰を抜かしている、下着姿のドルゴに向けられた。
「とどめぇぇーッ!!」
ズドォォォォンッ!!!
キャルルの容姿端麗な蹴りが、ドルゴの顎にクリティカルヒット。
「アッバーーーーッ!?」
ドルゴの体は、まるでボールのようにポポロ村の夜空高くへと打ち上げられ、キラーン☆と星になって彼方へと消えていった。
「ふぅ! 綺麗に決まりましたね!」
キャルルがふわりと着地し、Vサインを掲げる。
「す、すごいですわ……! 桜様のロジック、大佐の権力と剣術、そしてキャルルちゃんの物理蹴り……! 完璧なコンビネーションですの!」
リーザが目を輝かせて拍手喝采を送った。
桜も、魔導端末を閉じながらホッと息をついた。
知略と権力で敵の社会的な退路を完全に断ち切り、圧倒的な武力で制圧する。
誰も怪我をせず、村の財産も守り抜いた、完璧な『害虫駆除』の完了である。
「……大佐。お疲れ様でした。見事な太刀筋ですね」
桜が歩み寄って微笑むと、ギルバートはネクタイ剣の闘気を解き、再びシュッと首元に巻き直して形を整えた。
「あなたの完璧な書類整理があったからこそだ。……怪我はないか、桜」
「はい。あなたが守ってくれたから」
ギルバートの金色の瞳が、桜を安堵の目で見つめる。
そして、彼の頭頂部にある銀色の耳が、桜からの「あなたが守ってくれた」という言葉に反応して、ピコピコと嬉しそうに揺れ始めた。
「だーかーらー、大佐。クールな顔してても、耳と尻尾で全部バレバレなんですよ?」
キャルルがニヤニヤしながら指摘すると、ギルバートはハッとして、慌てて咳払いをした。
「こ、これは、戦闘による興奮状態が尾を引いているだけであって……決して、桜からの称賛に人狼の心が満たされているわけでは……っ」
「あはは、そういうことにしておきます」
桜はくすくすと笑いながら、彼の大きな背中をポンポンと叩いた。
「さぁ、迷惑な客も帰ったことですし、私たちは宿に戻ってゆっくり休みましょう。明日には、帝都の憲兵隊に彼らの引き渡し手続きをしないといけませんからね」
「そうですね! 運動したらお腹が空きましたわ! 夜食に茹で卵を食べますの!」
「リーザちゃん、今日は私が特製のオムライスを作ってあげますからね」
「本当ですか!? キャルルちゃん大好きですのぉぉ!」
賑やかに笑い合いながら、ポポロ村の宿屋へと歩き出すキャルルとリーザ。
桜もそれに続こうとしたが、ふと、隣を歩くギルバートが、少しだけ足取りを緩めていることに気がついた。
見上げると、彼の横顔はどこか優しく、そして……少しだけ、熱を帯びているように見えた。
「大佐……?」
「……桜」
ギルバートが、低く甘い声で彼女の名前を呼ぶ。
星の瞬く夜空の下。
悪党を完全に排除し、村に平穏を取り戻した最強の『ホワイト・チーム』。
だが、この夜の本当の甘い時間は、これから始まろうとしていた。
読んでいただきありがとうございます。
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