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魔紋のウル

帝国軍の中央では。


双偃月のベルンが、悠然と歩みを進めていた。


その左右では、クルドが張り巡らせた糸が兵士と軍馬の自由を奪い、乱れた戦場をさらに複雑なものへと変えている。


そして。


二人から大きく離れた最後方。


北砦を背負うようにして、ウルは立っていた。


傍らにあるのは、人の身長にも迫る巨大な複合魔導銃。


長大な銃身。


左右へ張り出した短い機構。


黒い装甲に覆われた姿は、荒野へ突き立てられた巨大な十字架を思わせる。


黒墓標。


グレイヴ・クロス。


ウルはその巨体を両手で支え、帝国軍の前線へ銃口を向けていた。


額からこめかみを覆うサークレット状の魔導装具には、淡い光が流れている。


そこから放たれる、目には見えない魔紋。


反射する魔力。


音。


空気の揺らぎ。


大地を伝う振動。


兵士の呼吸。


鎧の軋み。


武器を握る手の動き。


魔紋の届く範囲にあるものは、すべてウルの中で形を与えられていた。


ベルンの位置。


クルドの軌道。


倒木に阻まれた騎兵。


前へ押し出される歩兵。


弓を引き絞る兵士。


隊列を立て直そうと声を張り上げる指揮官。


そのすべてが、一つの巨大な狩場として映し出されている。


『ベルン。右へ三歩』


ウルの声が、耳元の装具を通じて届いた。


ベルンは理由を尋ねない。


正面から迫る長剣を左の双偃月で受け流しながら、一歩、二歩、三歩と右へ移動した。


その直後。


先ほどまでベルンが立っていた場所の奥で、帝国兵達が大盾を並べ始める。


盾兵の背後には長槍。


さらにその後ろでは弓兵が隊列を整えようとしていた。


崩れた戦線を立て直すための、小さな起点。


そこへ。


黒墓標の機関部が目を覚ました。


低く。


重い。


巨大な獣が喉の奥で唸るような機関音。


次の瞬間。


長い銃身から放たれた無数の弾丸が、密集した帝国兵達の中央を横薙ぎに走り抜けた。


最前列の盾が砕ける。


厚い木板と金属補強が弾け飛び、その背後にいた兵士の鎧へ弾丸が食い込んだ。


一人が倒れる。


その身体へ押されるように隣の兵士が体勢を崩し、槍兵と弓兵の列が重なった。


そこへ、残りの弾丸が容赦なく降り注ぐ。


鎧が穿たれ。


槍が折れ。


兵士達が互いの身体へ折り重なる。


形を取り戻しかけていた隊列は、完成する前に瓦解した。


「散れ!」


帝国の指揮官が叫ぶ。


「密集するな! 左右へ分かれろ!」


だが。


散開しようとした兵士達の進路には、倒木とクルドの糸が張り巡らされている。


自由に動ける場所は限られていた。


結果として。


兵士達は、別の狭い場所へ集まる。


ウルが黒墓標の銃口を僅かに動かした。


再び。


獣の唸り声が響く。


新たに生まれた人の塊が、弾丸の雨に呑み込まれた。


帝国兵達が倒れる。


その数は。


ベルンが一人ずつ斬り伏せる速度とも。


クルドが糸で拘束していく速度とも違っていた。


黒墓標が一度唸るたびに。


一つの集団が消える。


二度目には、別の部隊が崩れる。


三度目には、ベルンを囲もうとしていた兵士達の半数が地面へ倒れていた。


ウル自身は。


ほとんどその場から動いていない。


照準を変え。


必要な指示を出し。


必要な場所へ、必要なだけの弾丸を撃ち込んでいる。


それだけだった。


だが。


戦場から消えていく帝国兵の数は。


二人の戦果へ大きく差をつけていた。


『クルド。伏せろ』


「了解!」


倒木の上に立っていたクルドが、糸を引いて身体を低く沈めた。


その頭上を弾丸の群れが通過する。


クルドの背後から近づいていた帝国兵達が、構えていた盾ごと撃ち抜かれた。


弾丸はクルドの髪を揺らすほど近くを通ったが。


一発として、彼女の身体を掠めることはない。


「相変わらず、容赦ないなぁ」


『当たっていない』


「信じてるから避けたんだよ」


ウルは返答せず。


黒墓標の銃口を、僅かに上へ動かした。


弓兵達の前で。


一人の指揮官が剣を掲げている。


「狙え!」


号令を発する、その直前。


短い銃声が一度だけ響いた。


指揮官の額が撃ち抜かれる。


剣を掲げたまま。


その身体が後方へ倒れた。


続けて二発。


旗手。


伝令。


部隊を動かすために必要な人間だけが、正確に撃ち抜かれる。


指示を失った弓兵達は、弦を引き絞ったまま互いの顔を見た。


射つべきか。


退くべきか。


判断が定まらない。


その迷いを待つほど、ウルは寛容ではなかった。


黒墓標が再び唸る。


弓兵達のいた場所が、弾丸の雨に削り取られた。



その光景を。


ザルガンは青ざめた顔で見つめていた。


前方ではベルンが中央を切り開き。


その脇ではクルドが、騎兵と歩兵の動きを奪っている。


だが。


最も多くの兵を倒しているのは。


戦場の後方から、ほとんど動いていないウルだった。


「あれを止めなければ……」


黒墓標がある限り。


兵士達は集まることができない。


密集すれば面ごと撃ち抜かれ。


散開すれば、ベルンとクルドに各個撃破される。


指揮官を立てれば狙われる。


伝令を走らせても、目的地へ辿り着く前に撃ち抜かれる。


兵力が残っていたとしても。


軍として動くことができない。


ザルガンは唇を噛みながら、ウルの周囲を観察した。


彼女の背後には北砦。


正面には広い戦場。


右手には倒木が並び。


左手には、山から続く森が残されている。


黒墓標は強力だ。


だが。


長大な銃身を持つ巨大兵器であることに変わりはない。


森の木々を盾にして進めば。


正面から弾丸を浴びることなく、側面へ回り込める。


射手へ接近し。


巨大な銃を振るう間合いを奪う。


策そのものは、決して間違っていなかった。


ザルガンは近くにいた部下を手招きした。


「兵を三十名ほど選べ」


声を抑え。


ガルドスにも聞こえないよう、命令を伝える。


「森へ入れ」


「木々を盾にして迂回し、あの射手の側面へ回り込ませろ」


部下が森へ目を向けた。


「殿下へのご報告は?」


「必要ない」


ザルガンは正面を向いたまま答える。


「大声で指示を出せば、敵にも悟られる」


「正面へ意識を向けている今が好機だ」


選ばれた兵士達が。


混乱する味方の陰を使い、少しずつ森へ入っていく。


一人。


二人。


やがて全員の姿が、木々の奥へ消えた。


ウルは振り返らない。


黒墓標の銃口も。


変わらず正面の帝国軍へ向けられている。


機関音が響く。


また一つ。


帝国兵達の集団が撃ち崩された。


気づいていない。


ザルガンの口元に、小さな笑みが浮かんだ。


迂回部隊は。


森の奥を慎重に進んでいる。


落ち葉を踏む音を抑え。


茂みを避け。


木々の陰からウルとの距離を詰めていく。


やがて。


先頭の兵士が、ウルの側面を捉えた。


既に距離は近い。


ここからなら。


黒墓標の長い銃口を向けられるより、兵士達が斬りかかる方が早い。


「上手くいった……」


ザルガンが、堪えきれず小さく呟いた。


拳を握る。


「あれほどの射手でも」


「間合いへ入られてしまえば――」


その考えが。


ザルガンの表情へ、露骨な喜びを浮かべさせた。


だが。


兵士達が森へ入った瞬間から。


ウルはその存在を把握していた。


土を踏みしめる足の振動。


枝へ触れた鎧の音。


抑えた呼吸。


動く人間によって生まれる空気の乱れ。


魔紋は木々を一つずつ避けるように森へ入り込み。


迂回する兵士達の動きを、途切れることなく捉えていた。


気づいていないのではない。


必要がないから。


振り返らなかっただけだった。


茂みが大きく揺れる。


「今だ!」


帝国兵達が、一斉に森から飛び出した。


剣。


槍。


斧。


複数の武器が、ウルの側面と背後から迫る。


「隙あり!」


先頭の兵士が叫んだ。


「接近すれば、射手など恐れるに足りん!」


ウルは。


ようやく黒墓標の射撃を止めた。


巨大な十字架を持ち上げ。


長い銃身を地面へ突き立てる。


重い衝撃が、大地を揺らした。


黒墓標が。


まるで本物の墓標のように直立する。


ウルの左右から、兵士達が迫る。


次の瞬間。


黒墓標の短い横軸部分から。


二つの機構が分離した。


金属の固定具が外れ。


落下しかけた二つの武器を、ウルが左右の手で掴む。


横向きの持ち手。


短い銃身。


打撃に耐えられる厚い装甲。


黒墓標へ組み込まれていた、一対のガントンファーだった。


右側から。


帝国兵の長剣が振り下ろされる。


ウルは半歩だけ前へ出た。


右のガントンファーを持ち上げ。


厚い銃身で刃の根元を受ける。


甲高い金属音。


そのまま手首を返し。


長剣の軌道を外側へ押し流した。


兵士の右腕が開く。


左のガントンファーが、脇腹へ密着した。


銃声。


至近距離から放たれた弾丸が、鎧を内側から弾けさせる。


兵士が倒れるより早く。


正面から槍が突き出された。


ウルは身体を僅かに沈める。


穂先が頭上を通り過ぎた。


右のガントンファーで槍の柄を下へ叩く。


槍先が地面へ食い込んだ。


ウルは柄を押さえたまま前へ踏み込み。


左肘を槍兵の顔面へ叩き込む。


骨の砕ける音。


仰け反った身体へ。


右の銃口を向けた。


一発。


その背後から。


斧を振り上げた兵士が迫る。


ウルは振り返らない。


左手だけを、背後へ向けた。


発砲。


放たれた弾丸が。


斧を振り下ろす直前の兵士の額を撃ち抜いた。


目で確認する必要はない。


兵士の位置。


武器の長さ。


踏み込む速度。


肩の動き。


重心の変化。


次に何をしようとしているのか。


魔紋によって。


すべてが先に伝わってくる。


二人の兵士が、左右から同時に斬りかかった。


ウルは右手のガントンファーで片方の剣を受け止める。


反対側の刃は身体を捻って避けた。


回転する勢いのまま。


左のガントンファーを兵士の膝へ叩き込む。


体勢を崩した兵士へ一発。


銃撃の反動を利用して、さらに身体を回す。


右のガントンファーが。


もう一人の兵士の顎を打ち上げた。


その胸元へ銃口を押し当てる。


発砲。


撃つ。


払う。


打つ。


流す。


黒い二つの武器は。


銃でありながら鈍器として振るわれ。


近接武器でありながら、間合いの内側から弾丸を撃ち込む。


銃撃と体術の境目が存在しない。


一つの攻撃が、次の防御へ繋がる。


刃を受けた動きが、銃口を相手へ向ける。


発砲の反動が。


身体を回し、次の敵を打つ力へ変わっていく。


三人。


五人。


十人。


森から飛び出した兵士達が、次々とウルへ襲いかかる。


だが。


誰一人として。


その身体へ刃を届かせることができない。


一人が踏み込む前に。


ウルはその攻撃の方向を知っている。


二人が同時に動けば。


互いの進路が重なる地点まで読み取っている。


ウルは右側の兵士を撃たず。


その腕だけをガントンファーで打ち上げた。


弾かれた剣が。


左から迫っていた別の兵士の進路を塞ぐ。


一瞬遅れた二人へ。


左右の銃口が同時に向けられた。


二つの銃声。


二人の身体が、ほとんど同時に地面へ沈む。


「そんな……!」


最後に残った兵士が、恐怖に顔を歪めた。


「見えているのか……?」


ウルは答えない。


兵士が剣を捨て。


森へ逃げ込もうと背を向けた。


右のガントンファーが持ち上がる。


一発。


兵士の背中が弾かれ。


そのまま前のめりに倒れた。


森を迂回した部隊は。


僅かな時間で全滅していた。


ウルは両手のガントンファーを下ろす。


周囲を見回すこともない。


二つの武器を。


地面へ突き立てた黒墓標の横軸へ戻していく。


金属部品が噛み合い。


固定具が閉じる。


一対のガントンファーは。


再び十字架の一部へと戻った。


「気づいていた……?」


ザルガンの顔から。


先ほどまでの喜びが消えていた。


「あの時から、すべて……?」


離れた場所で。


クルドが兵士の足へ糸を絡ませながら、その様子を眺めていた。


「ウル姉に死角なんてないし」


指を引く。


糸へ足を取られた帝国兵が、倒木へ頭から突っ込んだ。


「寝てる時ですら隙なんてないよ」


クルドは楽しそうに笑う。


「バカだなぁ」


『誇張するな』


ウルの声が耳元へ返ってくる。


「でも、前に俺が夜中にこっそり酒を持ち出そうとした時」


クルドは別の兵士の腕を糸で引き、握っていた剣を落とさせた。


「ウル姉、寝たまま俺の足掴んだじゃん」


一瞬。


通信へ沈黙が落ちる。


『足音がうるさかっただけだ』


「ほら、やっぱり隙ないじゃん」


クルドが笑った。



ウルは。


地面へ突き立てていた黒墓標を引き抜いた。


だが。


すぐに正面へ向き直ることはなかった。


十字架を持ち上げる。


そして。


上下を反転させた。


普段は基部となっている黒墓標の下端が。


帝国軍後方へ向けられる。


装甲の一部が開き。


内部に収められていた太い砲口が露出した。


ウルは腰を深く落とす。


片膝を曲げ。


反対側の脚を、地面へ沿わせるように大きく横へ伸ばした。


巨大な十字架を身体の前へ斜めに構え。


反動を大地へ逃がすための。


独特な低い射撃姿勢。


その砲口が向けられている先を見て。


ザルガンの表情が固まった。


自分だ。


あの女は。


こちらを狙っている。


「ま、待て……」


ウルの指が。


引き金へ掛かった。


「お返しだ」


黒墓標が咆哮した。


先ほどまでの。


獣が唸るような連続音とは違う。


腹の底を直接打ちつける。


一度きりの重い轟音。


砲口から放たれた榴弾が。


青白い魔力の尾を引き、帝国軍の上空を飛んでくる。


ザルガンの生存本能が。


考えるより早く、危険を告げた。


「防御!」


声を限りに叫ぶ。


「全員、盾を構えろ!」


「魔法師! 障壁を展開しろ!」


直属の盾兵達が。


即座にザルガンの前へ飛び出した。


大盾を地面へ突き立てる。


隣の盾と重ね。


幾重もの防壁を作る。


その背後では。


魔法師達が杖を掲げた。


半透明の障壁が展開される。


一枚。


二枚。


三枚。


さらに外側へ。


複数の防御魔法が重ねられていく。


榴弾が。


最も外側の障壁へ衝突した。


一瞬。


青白い光が、ザルガンの視界を塗り潰す。


次いで。


世界そのものが砕けたような轟音が響いた。


最初の障壁が。


ガラスのように粉々に砕け散る。


二枚目が大きく歪む。


三枚目は激しく明滅しながら。


爆発の力を止めようと耐える。


だが。


止められない。


榴弾は。


重ねられた障壁を次々と突き破った。


最後の防壁が砕ける。


盾兵達が構えた大盾の前で。


榴弾が爆発した。


大地が跳ね上がる。


盾兵達が。


大盾ごと宙へ吹き飛ばされた。


炎。


土砂。


砕けた盾。


折れた武器。


人の身体。


あらゆるものが。


爆風によって周囲へ撒き散らされる。


数人の兵士が。


自らの身体ごとザルガンを庇った。


残った僅かな障壁が。


爆炎の向きを逸らす。


それでも。


衝撃までは止められない。


ザルガンの身体は地面から浮き。


背中から強く叩きつけられた。


肺の中の空気が。


すべて押し出される。


耳鳴り。


痛み。


熱。


何が起きたのか。


一瞬、理解できなかった。


ザルガンは。


震える腕で地面を押した。


何度も咳き込みながら。


ようやく顔を上げる。


先ほどまで。


自分を守っていた指揮陣は消えていた。


天幕は燃え。


荷車は横倒しになり。


盾兵と魔法師達の姿も、ほとんど残っていない。


大地は黒く焼け焦げ。


爆心地を中心として。


周囲一帯が焼け野原へ変わっていた。


ザルガン自身も。


魔法師達が障壁を重ね。


盾兵達が命を投げ出して守らなければ。


今頃は。


この焦げた大地の一部になっていただろう。


「これを……」


掠れた声が漏れる。


「あの距離から……」


遠く離れた場所で。


ウルは既に射撃姿勢を解いていた。


追撃しようとしている様子はない。


森からの奇襲に対して。


ただ一発。


返礼として撃ち込んだ。


それだけだった。


ザルガンの身体が。


自分の意思とは無関係に震え始める。


危険だとは分かっていた。


あの三人と戦い続ければ。


取り返しのつかないことになる。


そう考えていた。


だが。


今の一撃で。


それは嫌な予感ではなくなった。


ここにいれば死ぬ。


次に狙われた時。


自分を守る盾兵は、もうほとんど残っていない。


障壁を張れる魔法師も倒れた。


そして。


あの女には死角がない。


森へ隠れても。


兵士の陰に紛れても。


遠く離れても。


居場所を捉えられ。


黒墓標の一撃を撃ち込まれる。


「逃げなければ……」


誰にも聞こえない声で呟く。


しかし。


今すぐ馬を走らせれば、ガルドスに気づかれる。


敵にも。


逃げる背中を晒すことになる。


焦ってはならない。


三人の意識が別の場所へ向く瞬間。


ガルドスが。


残された兵士達へ無謀な突撃を命じる瞬間。


戦場すべての視線が。


正面へ集まる瞬間。


その時に。


誰にも告げず。


この場所から離れる。


ザルガンの視線が。


戦場の周囲を必死に巡り始めた。


森へ続く道。


倒木の少ない斜面。


まだ走ることのできる軍馬。


近くに残った僅かな護衛。


既に。


勝つための策など考えていない。


ガルドスを。


帝国兵達を。


この戦場へ置き去りにしてでも。


自分一人が生き延びるための機会を。


ただ必死に探し始めていた。



その頃には。


ウルは黒墓標を元の向きへ戻していた。


長い銃身が。


再び帝国軍の正面へ向けられる。


低い機関音が。


黒墓標の内部から響き始める。


帝国兵達が。


その音を聞いて青ざめた。


接近戦を仕掛けても倒せない。


森から奇襲しても通じない。


遠く離れた指揮陣にすら、安全な場所は存在しない。


そして。


奇襲部隊を倒し。


ザルガンの周囲を焼き払った時間さえ。


ウルにとっては。


射撃を僅かに中断しただけに過ぎなかった。


再び。


獣の唸り声が戦場へ響く。


黒墓標から放たれた弾丸が。


隊列を作ろうとしていた帝国兵達を、まとめて薙ぎ払っていく。


ベルンが敵陣を斬り開き。


クルドが戦場を絡め取る。


その後方で。


最も動かない射手が。


誰よりも多くの命を奪い続けていた。


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