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帝国軍出陣

今日は短めです

数日後。


帝都バルディアの空に。


無数の軍旗が翻っていた。


帝国宮殿から北門へ続く大通り。


その両側には。


出陣する軍を一目見ようと、数えきれないほどの帝国臣民が集まっている。


鳴り響く軍楽。


石畳を踏み鳴らす軍靴。


重く連なる荷馬車。


槍を掲げ、整然と進む歩兵達。


その中央を。


朝日に輝く、白銀の軍勢が進んでいた。


白銀騎兵団。


磨き上げられた銀色の鎧。


同じ色で統一された馬鎧。


風にはためく、帝国の双頭鷲旗。


そして。


第一皇妃家の紋章を刻んだ旗。


数千の軍馬が歩調を合わせるたび。


大地そのものが震えているかのような音が、帝都へ響き渡る。


その先頭には。


純白の軍馬に跨がる、第七皇子ガルドス・バルディアの姿があった。


白銀の鎧。


深紅の外套。


腰には。


皇帝より授けられた、帝国皇子の剣。


ガルドスは胸を張り。


沿道に集まった民衆へ、堂々と手を掲げた。


「ガルドス殿下!」


「白銀騎兵団に勝利を!」


「帝国に栄光を!」


歓声が上がる。


それに応えるように。


白銀騎兵団の騎士達が、一斉に槍を掲げた。


「帝国に勝利を!」


「帝国の正義のために!」


重なった声が。


帝都の城壁さえ揺らす。


ガルドスは満足そうに笑った。


自らへ向けられる歓声。


帝国最精鋭の騎兵団。


一万の兵。


同母兄バルカーボの仇を討つという大義。


この出陣を見た者の誰もが。


自分こそ、この戦争の主役だと理解したはずだった。


宮殿正面の高台には。


皇帝と皇妃達。


帝都に残る皇族や重臣達が並んでいた。


その最前列に立つ第一皇妃は。


出陣する息子の姿を、誇らしげに見つめている。


「見事です」


第一皇妃は。


隣に立つ皇帝ガルディオスへ語りかけた。


「さすがは、陛下の御子」


「そして」


「帝国の正統なる血を受け継ぐ皇子です」


その声には。


隠しきれない喜びがあった。


第二皇子バルカーボは。


異国の神による祝福に囚われた。


肉体は生きている。


だが。


皇子として表舞台へ戻れる状態ではない。


第一皇妃にとって。


今やガルドスこそが、自らの派閥を支える希望だった。


「ローゼンバーグ王国を落とし」


「兄の屈辱を雪ぎ」


「帝国へ新たな領地をもたらすでしょう」


「ガルドスは」


第一皇妃は、確信を込めて告げた。


「必ずや、帝国の英雄となります」


皇帝ガルディオスは。


答えずに息子の軍を見下ろしていた。


白銀騎兵団。


第一皇妃派の貴族達。


先陣を争う若き騎士。


勝利を疑わぬガルドス。


そして。


その軍を笑顔で見送る第一皇妃。


何も知らぬ者が見れば。


帝国皇族が一つにまとまり。


外敵へ立ち向かう、勇壮な光景に見えただろう。


だが。


ガルディオスは知っている。


皇子達が。


互いに何の思惑もなく、手を取り合っているはずがないことを。


グラゼルが。


純粋な善意だけで、白銀騎兵団をガルドスへ預けたわけではない。


ロギウスが。


北砦攻略だけを考えて、兵站を整えているわけでもない。


第一皇妃派も。


ただ帝国のためだけに、ガルドスへ力を貸しているわけではない。


誰もが。


この戦争の先を見ている。


領地。


軍功。


派閥。


皇位継承権。


次代の皇帝。


皇子達は。


敵国との戦争を進めながら。


帝国の内側でも、既に戦っていた。


それを。


皇帝は止めようとは思わなかった。


バルディア帝国は。


力を美徳とする国である。


剣を振るう力。


兵を率いる力。


富を集める力。


人を従わせる力。


策を巡らせる力。


そして。


敵を退け。


最後まで立ち続ける力。


力の形は、一つではない。


だが。


力なき者が上に立つことだけは。


帝国では許されない。


ガルディオス自身も。


ただ皇帝の子として生まれたから、この玉座に就いたわけではなかった。


兄弟を退け。


政敵を屈服させ。


反抗する貴族を黙らせ。


戦場で勝利を重ね。


自らの力によって、皇帝の座を奪い取った。


敗れた者達が。


何を願い。


どれほど自らの正統性を主張していたのか。


今となっては。


誰も覚えていない。


残ったのは。


勝者であるガルディオスだけだった。


「陛下?」


返事のない皇帝へ。


第一皇妃が視線を向ける。


ガルディオスは。


ようやく口を開いた。


「英雄となるかどうかは」


「帰ってきてから決まる」


第一皇妃の表情が。


僅かに強張った。


「ガルドスは必ず勝利します」


「白銀騎兵団が」


「弱小国の兵などに敗れるはずがありません」


「ならば」


ガルディオスは笑った。


「勝って証明すればよい」


その言葉に。


第一皇妃は口を閉ざす。


皇帝の視線は。


再び、出陣する軍勢へ向けられた。


ガルドスが勝つならば。


北砦を落とし。


新たな領土を帝国へ持ち帰るだろう。


その軍功によって。


皇位継承争いへ名乗りを上げるかもしれない。


グラゼルの策が勝るならば。


総大将として帝国へ勝利をもたらし。


現在の立場を、さらに強固なものにするだろう。


ロギウスも。


ただ兄の影に隠れているだけの男ではない。


他の皇子達も。


何もせずに結末を待つとは限らない。


誰が誰を利用するのか。


誰が策を見抜くのか。


誰が戦場で功を立てるのか。


そして。


誰が最後まで残るのか。


皇帝ガルディオスにとって。


それは憂うべき争いではなかった。


次代の皇帝を選ぶための。


当然の競争だった。


「我が子だからといって」


ガルディオスは小さく呟く。


「玉座を与えられると思うな」


第一皇妃には。


その言葉の全ては聞こえなかった。


皇帝は。


薄く笑みを浮かべる。


「見せてみろ」


「お前達の力を」


剣だけではない。


兵力だけでもない。


知恵。


策。


運。


人望。


そして。


勝利。


持てる全てを使い。


兄弟を越え。


敵を破り。


帝国の頂点まで辿り着いた者。


その者だけが。


次代のバルディア皇帝に相応しい。


「さて」


ガルディオスは呟いた。


「最後に残るのは」


「誰だろうな」


その眼下で。


ガルドスが剣を抜いた。


朝日に照らされ。


白銀の刃が眩い光を放つ。


「全軍!」


ガルドスの声が響き渡った。


「我らはこれより」


「帝国皇族を害した邪悪なる女王を討ち」


「ローゼンバーグ王国へ」


「帝国の正義を示す!」


白銀騎兵団が。


槍を高く掲げる。


「帝国の正義を!」


「帝国に勝利を!」


「ガルドス殿下に栄光を!」


轟く歓声。


鳴り響く軍楽。


舞い上がる軍旗。


帝国の正義を掲げた白銀の軍勢が。


北門を抜けていく。


その背中を。


第一皇妃は、喜びと期待を込めて見送っていた。


皇帝は。


息子達の争いの行方を楽しむように。


静かに見つめていた。


誰もが。


これが輝かしい勝利への出陣だと信じていた。


白銀の軍勢が向かう先で。


悪の女王が。


既に彼らを迎える準備を終えていることなど。


まだ。


誰も知らなかった。


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