プロローグ 処刑台の少年 挿絵有
村の広場には、急造の処刑台が建てられていた。
太い縄で縛られた、一人の少年。
白い髪に、痩せこけた身体。まだ幼さの残る顔は、土と傷に塗れている。
松明の炎が揺れる中、処刑台を取り囲んだ村人達は、口々に少年を罵っていた。
「邪神の子だ!」
「化け物め!」
「処刑しろ!」
「神父様の言う通りだ!」
けれど、少年は俯いたまま何も言わなかった。
言い返す気力も、助けを求める気力も、もう残っていない。
――疲れてしまったのだ。
やがて神父が処刑台の前へ進み出て、大きく両手を広げた。
「これより、邪神の子の処刑を執行する!」
広場に歓声が上がる。
誰もが自分達こそ正しいと信じ、これから一人の少年が殺されることを疑問にすら思っていなかった。
――その瞬間だった。
夜空から、月光が降り注いだ。
あまりにも美しく、そして不自然なほどに冷たい光。
突然の異変に、村人達の歓声が止まる。
「なんだ……?」
「誰か来たぞ」
「貴族か……?」
月光の中から姿を現したのは、一人の少女だった。
夜闇に溶けるような黒いドレス。月明かりを受けて静かに輝く、美しい銀髪。
その一歩後ろには、冷ややかな雰囲気を纏ったメイド服の女性が控えている。
少女は処刑台を見上げ、それから周囲の村人達へ視線を巡らせた。
「その処刑、少し待ちなさい」
静かな声だった。
けれど、不思議と広場の隅々までよく響いた。
神父が鼻で笑う。
「何故だ! そいつは邪神の力を使ったのだぞ!」
その言葉を皮切りに、村人達も再び声を上げる。
「そうだ!」
「そいつは化け物だ!」
「処刑しろ!」
少女――エミリアは、その騒ぎをしばらく眺めていたが、やがて小さくため息を吐いた。
「話し合いは嫌いじゃないのだけれど……仕方ないわね。ルミ、例の物を」
「承知しました」
ルミと呼ばれたメイドが片手を差し出す。
すると次の瞬間、何もなかったはずの空間から巨大な金属の塊が現れた。
幾つもの筒を束ねた、明らかにこの世界の物とは思えない奇妙な兵器。
それを受け取ったエミリアは、露骨に眉をひそめる。
「相変わらず趣味が悪いわね」
「実用性を重視した結果だそうです」
「絶対に嘘ね」
「待てぇぇぇ!!」
何かを察した神父が叫んだ。
エミリアは気にする様子もなく、巨大な兵器を腰だめに構える。
村人達がざわめいた。
「な、なんだあれ……」
「武器か?」
「魔道具……?」
そんな彼らへ、エミリアはにっこりと微笑んだ。
「安心しなさい。これ、作った本人曰く殺傷能力はゼロよ」
村人達の表情が、ほんの少しだけ緩む。
その隣で、ルミが小声で付け加えた。
「本人基準ですが」
「待てぇぇぇぇぇ!!」
「嫌よ」
次の瞬間。
ガガガガガガガガガガガガガ――!!
凄まじい轟音が、村中に響き渡った。
回転する銃口から放たれた何かが地面を抉り、神父を吹き飛ばし、逃げ惑う村人達を次々と薙ぎ倒していく。
「ぎゃあああああ!!」
「痛いぃぃぃぃ!!」
「安全じゃないだろぉぉぉ!!」
「死ぬぅぅぅぅ!!」
阿鼻叫喚の広場を眺めながら、ルミは不思議そうに首を傾げた。
「死んでいませんので安全です」
「その基準はやめなさい」
やがて、広場に静寂が戻った。
そこかしこに転がる村人達。
時折聞こえる、低いうめき声。
エミリアはその惨状を一瞥すると、満足そうに頷いた。
「よし。掃除完了ね」
そして何事もなかったかのように処刑台へ歩み寄る。
先ほどまでの騒ぎが嘘のような静けさの中、縄で縛られた少年の前で足を止めた。
少年は、まだ俯いている。
エミリアはそんな彼を見つめ、静かに問いかけた。
「あなた、生きたくないの?」
少年が、ゆっくりと顔を上げる。
月光の中。
美しい王女は、ただ彼だけを見つめていた。
――そして物語は、ここから少しだけ時間を遡る。
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