第3話:落ちこぼれ聖女とエンハンサー
推し公認…なんていい響き。
「じゃあ、登録所行くよ」
「登録所?」
「聖従者登録するところ。キミ、私の聖従者になるんでしょ?」
「いや半強制でやらされる、だろ???」
「細かいことは気にしないの」
気にするわ。
「で、その登録所とやらはどうやって行くの?」
「ん?簡単だよ」
リィナは杖を軽く振った。
「さっきキミがくれたやつ、使ってみるね」
嫌な予感しかしない。
「——《高速魔法》」
「ちょ待っ」
次の瞬間。
世界が、消えた。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」
風?いや違う。
俺が風だ。
体が、伸びてる。
いや違う。
潰れてる。
紙。
完全に紙。
俺、今ペラッペラになってる。
「ちょっっっっっっっと待っっっっっっっっっっっっっっっ!!!!!!!!」
「うるさい!!集中できない!!!」
「無理無理無理無理無理!!!!!!!!」
そして——
ドンッ。
「……ふぅ、着いたよ」
満足気なリィナがいた
「……」
「……あれ?」
地面に、ひらひらと一枚の紙が落ちていた。
「……あ」
それ、俺。
「え、ちょっと待って!?大丈夫!?」
リィナが慌てて拾い上げる。
くしゃ。
やめろ。
雑に持つな。
「戻れ……戻れ俺……」
ぶるんっ。
元に戻った。
「……はぁ……はぁ……」
「ご、ごめん……ちょっと速すぎたかも……」
「“ちょっと”のレベルじゃない」
そうして落ち着きを取り戻した俺の目の前にあったのは、大きな石造りの建物だった。
看板にはこう書かれている。
【聖従者登録所】
「ここで聖従者として登録するの」
「なるほど……」
周りを見渡す。
人が多い。
聖女訓練生と、そのサポーターらしき人たち。
鎧の男、ローブの魔法使い、回復役っぽい人。
……ちゃんと“パーティー”って感じだ
「……あれ、あの子……」
「アストレア家じゃない?」
「まだいたんだ……」
「落ちこぼれって噂の……」
リィナのことだ。
俺はそっとリィナの方を見る。
「……っ」
リィナの肩が、少しだけ揺れた。
「……大丈夫?」
「……うん。慣れてるから」
笑ってる。
でも、ちょっとだけ無理してる。
(……ああ、これ)
"りぃな" と同じだ。
"りぃな"もコメント欄でアンチに何か言われても、こうやって笑って誤魔化していた。
(…本当に似てるな。)
「——へぇ」
場の空気が変わった。
振り向くと、そこにいたのは——
金色の髪をなびかせた少女。
整った顔立ち。
完璧な姿勢。
その周りには、三人のサポーター。
剣士、魔法使い、あと1人は…ヒーラーか。
どう見ても“強いパーティー”だ。
「まだいたのね、アストレア家の“出来損ない”」
空気が凍る。
「……ルミナ…」
リィナは、小さく呟いた。
金髪の少女の視線が、ゆっくり俺に向く。
「で、その隣の"それ"は何?」
(…"それ"って俺のこと!?!?!?)
「あなたの聖従者?まさかね」
くすっと笑う。
「だってあなたみたいな出来損ないに聖従者が付くわけないもの。」
言葉が、静かに刺さる。
「聖女の名家だったアストレア家に泥を塗ったあなたに仕えるなんて、家柄まで汚すようなものだわ」
「……」
リィナは、何も言わない。
少女は優雅に微笑み、俺を見た。
「私は——ルミナ・ヴァルエル。
現在の聖女ランキング、1位よ」
やっぱりか。
オーラが違うもん。
「あなたは……見たところ、何も知らないただの一般人かしら?」
ルミナは一歩近づき、静かに言う。
「悪いことは言わないわ、この子の聖従者だけはやめなさい」
視線が鋭くなる。
「聖女になるために必要な“加護魔法”すら使えない人間が、私たちと同じ聖女訓練生でいること自体——」
一瞬、間を置いて。
「おこがましいのよ」
「……」
リィナは、俯いたまま動かない。
握った手が、少しだけ震えている。
(……まただ)
"りぃな"が脳裏にチラつく。
こうやって、何か言われても——耐えてた彼女に俺はいつも"エール"を送っていたんだ。
「……あのさ」
気づいたら、口が動いていた。
「それ、間違ってると思うけど」
「……は?」
ルミナの視線が、俺に向く。
冷たい。
でも、知らん。
推し以外の視線なんてどうだっていい。
「リィナ、さっき自分よりも大きな魔物を倒して俺を守ってくれた」
「……」
「しかも——」
俺は、リィナの方を見た。
「めちゃくちゃ頑張ってた」
静かになる。
「……ふふ」
ルミナが、小さく笑った。
「ただの感情論ね」
「そうだけど?」
即答。
「だって俺、それしか知らないし」
周囲がざわつく。
「でもさ」
一歩前に出る。
「頑張ってるやつが、挑戦するのってダメなの?」
ルミナの目が、わずかに細くなる。
「それに、俺の推しだから、推しは何やっても最高なんだよ」
「…おし?」
ルミナがポカンとした顔になる。
「おしってなに?」
「え、どういういみ?」
周りもざわつく。
「とにかく俺は周りに何を言われようがリィナを応援してるってこと」
沈黙。
「……ふふ」
ルミナは、笑った。
「面白いわね。あなた」
「でも——」
その目が、冷たくなる。
「その程度で、1位を狙うつもり?」
空気が張り詰める。
《スキル発動:Fav Sync-フェイヴシンク-》
《応援内容:推しは最高》
《同期率:120% 踏み出す勇気》
「え?発動?!?!?!!!」
その瞬間、リィナが一歩前に出た。
「狙うよ」
小さな声。
でも、はっきりと。
「私は、聖女になる」
ルミナは一瞬だけ驚いた顔をして——
すぐに、笑った。
「あら、今日は逃げないのね。……せいぜい、頑張りなさい」
そう言って、背を向けた。
「……行こ」
「うん」
受付に向かう。
「聖従者登録ですね。お名前は?」
(…名前?そういえば異世界転生してから俺推しにしか目がいかなくて、何もわかってないな…どうしよう)
!!!
「……晴です」
「…ハルさまですね。」
《登録処理中……》
《聖従者契約:アストレア・リィナ》
《承認》
「これで、正式に私の聖従者だよ」
リィナが、少しだけ笑う。
「よろしくね、晴」
推し公認?!?!?!?!
やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい。
レスきた!!!!!!!!
「…よ、よろしくお願いします。」
こうして俺は、
落ちこぼれ聖女(推し)の聖従者として、
正式に登録された。
「ところで…晴。キミの役職ってなんだったの?」
「…役職??」
「登録した時になんか言われなかった?」
「あぁ…エンハンサー(?)って言われたな」
「……え?」
リィナの動きが止まった。
「……今、なんて言った?」
「え、だからエンハンサー?って……」
「……もう一回」
「エンハンサー?」
「……は?」
空気が一瞬で変わった。
さっきまでのざわつきとは違う、明確な“どよめき”。
「エンハンサーって今言ったよな…?」
「いや、聞き間違いじゃないのか…?」
「そんなレア職がこんなところに…?」
周りの視線が、一斉に俺に集まる。
……え、なにこの感じ。
怖いんだけど。
「え、ちょっと待って!?なに!?なんかまずい!?」
「まずいどころじゃない」
リィナが、真顔で言った。
「それ、かなりレアな役職」
「え?」
「エンハンサーっていうのは——」
少しだけ間を置いて、続ける。
「“強化特化の特殊能力者”」
「……あー、なるほど」
全然わからん。
「普通の聖従者は、剣士とか魔法使いとかヒーラーみたいに“自分で戦う”でしょ?でも、エンハンサーだけは違うの」
リィナが、一歩近づいてくる。
「“他人を強くすることに特化した存在”なの」
「さっきの……《Fav Sync》」
「キミの能力、多分それ」
「……マジ?」
「マジ」
沈黙。
「……つまり俺は異世界で推し活スキルを得たってこと?!?!」
「はぁ???」
「いやだって、君は俺の推しだ(正確には似たもの)」
「似たものって何よ」
「でもそれでも俺は推しを応援してる時が楽しいんだ!!」
俺はただ推しを応援してればいいんだろ?めちゃくちゃ楽しそうじゃん!!」
そういうとリィナはふっと笑った。
「キミって本当に変。ちなみに…」
リィナの声が、少しだけ弾む。
「エンハンサーって、滅多にいないの」
「へぇ」
「下手したら、一国に一人いるかどうか」
「っっ!?!?!」
周りのざわめきがさらに大きくなる。
「本当にエンハンサーなのか?」
「でもあんな素人みたいなやつが……?」
…うるさいな。
ほっとけよ。
(俺が一番分かってんだよ……)
「本来エンハンサーは、王国に管理される特別な存在なの」
リィナが少しだけ声を落とす。
「騎士団に所属して、国家が保有するレベルの力」
「え、なにそれ怖い」
「だから——」
「キミが今ここにいるの、ちょっとおかしいの」
「おかしいって言うな」
でもまぁ、確かにそうだ。
「……晴」ん
リィナが、真っ直ぐこっちを見る。
その目が——
さっきまでとは違う。
「これ……もしかしたら」
一歩、距離が縮まる。
「本当にいけるかもしれない」
「……え?」
「私、聖女になれるかも。だって⸻」
少しだけ、笑う。
「キミが応援してくれたら、私——」
一瞬、言葉が止まる。
「……もっと、頑張れる気がする」
(……あ)
胸の奥が、ぎゅっと締まる。
これ、知ってる。
画面越しに、何度も見てきた。
“りぃな”が、リスナーに向けて言ってたやつだ。
『みんながいるから、頑張れる』
それを今——
目の前で、俺に向けて言われてる。
「……晴」
名前を呼ばれる。
「私、まだ弱いけど」
まっすぐな目。
「キミが応援してくれるなら——」
一歩、近づいて。
「もっと上、目指せる」
……無理。
無理無理無理。
「それってさ」
やっと声が出た。
「推し公認じゃん」
思わず、笑ってしまう。
「応援してくれるでしょ?」
……ああ。
ダメだこれ。
「……するに決まってるだろ」
声が、少しだけ震えた。
「俺、ずっと推してきたんだぞ」
リィナが、少しだけ驚いた顔をして
ふっと、優しく笑った。
「じゃあ——」
手を差し出される。
「“私”を応援して」
……ああ。
「……任せろ」
こうして俺は、
推し公認の上位リスナーとなった(×)
おっと、正式な推しの聖従者となった。




