第1話:推しが目の前にいたんだが?
こっち書きたくなってしまった。
「……は?」
目を開けた瞬間、思考が止まった。
「——え、マジで?」
目の前に立っていたのは、
俺が現世でずっと応援していた“あの子”だった。
銀色の髪。透き通るような瞳。
何度も画面越しに見てきたその姿。
間違えるはずがない。
「……ねぇ、キミ大丈夫?ぼーっとしてるけど」
◇
:
5年前
夜中の2時。
コンビニで買った冷めた弁当を前に、俺はただ座っていた。
スマホの通知は、何もない。
誰からも必要とされていない。
そんな感覚だけが、やけにリアルだった。
……その時だった。
なんとなく開いた動画配信サイト。
そこに映っていたのが——あの子だった。
「今日もお疲れさま!」
たったそれだけの言葉。
でも、不思議だった。
誰に向けた言葉かなんて分からないのに、
まるで自分に言われたみたいで。
気づいたら、泣いていた。
その日を境に、俺は“推し活”を始めた。
:
5年後
こんりぃな〜!
今日はてるボorてるガたちみんなに重大なお知らせがあるよ!
前にりぃなが言ってた…
念願のファンミーティングの開催が…!!
なんと!!
決定しました〜!!!パチパチパチ〜⭐︎
事務所に何度も何度もお願いして、みんなの応援もあってこうやって開催できることになりましたっ!
ちょっと待って待って!みんなスパチャ嬉しいけど!!
まだ詳細話してないから落ち着いて!!笑
※てるボorてるガ=てるてる坊主×ファンボをかけた晴天りぃなのファンネームである
:
「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!
ファンミきたああああああああああ!!!!
これは絶対行かなきゃ!!!全力応援!!!!
え、てか生ライブに1on1で対話?!?!?
そんな盛りだくさんでいいの?!?!」
推しができてからの俺は、それはもう毎日が充実していた。
推しができる前の俺は、遊ぶ友達もいなければ趣味もない。
ゲームはたまにやる程度で、特に上手いわけでもない。
土日はただダラダラして、パチンコに何となく行って時間を潰す。
出来の悪い上司のはけ口にされて、心がすり減っていく毎日。
会社と自宅の往復だけの生活で、
生きる気力さえ、少しずつ失っていた。
そんな俺が、ふと開いた配信で出会ったのが——
Vtuber【晴天りぃな】だった。
「あなたのてるてる坊主で晴れにしちゃうよっ♪
みんなの心をパァッと晴天!晴天りぃなです!」
⸻
ゲームは飛び抜けて上手いわけじゃない。
でも、下手でもない。
それ以上に——
何でも楽しむ才能と、周りを明るくする力があった。
だから、気づけば俺は救われていた。
:
「次の方どうぞ」
「こんりぃな〜!今日は来てくれてありがとう!お名前は!」
「えっと、あの…!」
「むむ??ん〜?どれどれ…あ、め…おとこ?
あまお!!!!!!!!!」
「…!?!?!そうです!!!」
「あまおおおおおーー!!!!いつも配信最後まで見てくれてるあまおだっ!!!」
「え?!?そこまでわかってるんですか?!」
「私がまだリスナー50人くらいの事務所所属前から見てくれてる古参だし、それにいつも私が最後の挨拶で"今日もみんなの心に晴天!"って言うと、絶対"雨上がって晴れ晴れ〜!"って返してくれてるでしょ?いつも面白くてね…あれ好きなんだぁ〜ふふ。」
「りぃな最初の方それに大爆笑して、笑って涙止まらなくて配信終わるって言ったのに30分も笑ってやめられなかったよね笑」
「そう!!だって雨男って名前の人が雨上がって晴れ晴れしてますって言ってるのが面白くてね…笑 今でも笑える…ははは。いつもありがとっ!」
「…!!!!そんな俺こそ…いつも本当にありがとう。りぃなの配信で本当に元気もらってるから!今日は直接お礼が言いたくて来たんだ。これからも"晴れさせて"くれ!!」
※晴れさせて=推させてというファン言語
「わかった!私あまおの名前を晴れ男にいつかさせてみせるわっ!!www」
スタッフ「そろそろお時間です、最後2ショット撮って終わりになります。ポーズはどうしますか?」
「やっぱり、あまおは晴天ポーズでしょ!」
「はいっ!!!」
スタッフ「撮りますよー!3、2、1」
:
(2ショットの写真を閉じる)
あの日だけは、絶対に見ようと思っていた。
“最後かもしれない配信”って、本人が言ってたから。
でも——
「今日中にこれ終わらせろ」
上司の一言で、全部崩れた。
気づいた時には、もう終わっていた。
アーカイブは残っていなかった。
残されたのは公式snsのお知らせ
【晴天りぃな 無期限お休み】だけだった。
最後に何を言ったのか、
結局、俺は知らないままだ。
信号が変わるのを待ちながら、俺はスマホを見ていた。
“もし、もう一度会えたら”
そんなありえないことを、考えていた。
その時——
視界が、白く弾けた。
◇
「…おーーーい」
?!?!?!?!?!?!
いやいやいやいや待て待て待て。
そもそもここは何処だ。
俺はどうなった。
よし、落ち着け。深呼吸。OK。
もう一度よく見ろ。
「…おーい!大丈夫ですかー??
もしかして衝撃で記憶喪失に…それはまずいかも…どうにかして…」
やっぱりこの顔!!!!この声!!!!
推し!!!!!!!!
無理無理無理無理。
「…だ、だ、だ、だ、だいじょぶです…あ、あ、あ、あ、あなたは?」
「ん?私?アストレア・リィナ。聖女訓練生だよ。
あの、キミ…怪我とかない??」
リィナは、ぽんっと俺の目の前にしゃがみ込んだ。
声、同じ。顔、同じ。距離、近い。
え、待って。これ近くない?
配信だとこんな近くなかったよね???
「え、あの、ごめん。ちょっと静かにしてもらっていい?」
「なんで!?」
だって今、尊すぎて脳が処理落ちしてる。
俺に何が起こった。
さっきまで横断歩道を歩いてなかったか???
なのに今俺の目の前には推しらしき推しが(?)
まずい。語彙が死んでる。
リィナは心配そうに俺を覗き込む。
「……最高か?」
「え?」
あ、口に出てた。
その瞬間だった。
リィナの体が、ふわっと光った。
「え、ちょっと待って!?なんか強くなってるんだけど!?」
《スキル発動:Fav Sync-フェイヴシンク-》
《対象:アストレア・リィナ》
《応援内容:最高か?》
待って、俺何した?????????




