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救済の聖女のやり残し ~闇と光の調和~  作者: 物書 鶚
第二章 第二部 目指すべきところ
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第十三幕 「異文化交流」

あの声が聞こえた

こんな私にも役目があることを告げる声

こんなにも嬉しい日が来るとは思っても見なかった

……その報せの中身を知るまでは


「……そうね、良いことだけじゃないもの……ね。」


亜人種、獣人族。

シャル達のような陸棲獣人族や爬竜族、水棲の海人族や海獣族。そして空を主な活動領域にする鳥人族。


陸海空に住まう獣人系亜人たちは、別系統の亜人族であるエルフやドワーフ達に比べると、人族の我々とは交流の歴史が浅い。


それは彼らが野生動物の因子を持つことで、より自然的な暮らしを好む傾向が強かったことに起因し、文明の発展が他の種族よりも遅かったことが交流の歴史が浅いことの理由だろう。


その閉ざされた種族間にある価値観の差異は、かなり近代まで双方の文化的交流を断絶させるほどのものだった。


だが自然崇拝的な思考が主体のエルフ族たちは、我々人族たちより遥かに昔からいろんな獣人族と交流があった。そんなエルフ族から獣人族の文化的な情報が入ってくることにより、人族と獣人族の交流が始まる


ようやく始まったそんな(つたな)い交流も、最初の頃の人族側は獣人族たちを排他的な態度で接することが多かったし、獣人族側も複雑な社会のルールになじめずに粗暴な振る舞いをすることが多かったようだ。


そして時を重ねお互いの理解と信頼が深まる頃には、獣人族それぞれの生物的特性を生かした現場での社会的活動が増えてくる。平時と戦時、両方の様々な場面においてだ。


戦時はその動物的因子が如何なく発揮され、陸で海で、そして空でも貴重で強大な戦力として扱うこともあった。


そして平時においても彼らの動物的な身体能力と超自然的な感覚を活用し、様々な場面で活躍することとなる。


超自然的感覚から学び伝えられてきた自然学、植物学、海洋学、天候学といった人族が知らない、あるいは未発達な分野での学術的文化交流。

身体能力を生かした労働力、力仕事や運送、社会の治安維持や政治的活動における特殊な仕事など様々だ。


そして鳥人族が平時において活躍した場面は、当然ながら空を飛ぶことに関わる仕事だ。高所作業、到達困難な高地への空輸、空からの調査や情報収集などなどだ。


なかでも有名なのは「軽量輸送業」だろう。

文章や情報の伝達、手紙や書類、軽量物の空輸。


鳥人族の軽い体で飛ぶのに支障がない程度の荷物を、非常に安価で運んでくれる空輸網は世界中で今もなお需要が絶えず、小さな荷物をひとっとびでお届けする『空便(そらびん)』は現代社会の重要な情報・輸送インフラの一つだ。


なのでこれらの仕事は短距離を素早く運んだり、遠距離を安く運ぶのが、それらを得意とする鳥人族たちの一般的な働き口となる。


ただし、それらの仕事は全ての鳥人族が関わるわけではない。


短距離輸送では早く飛べる鳥人族が好まれるし、遠距離輸送では長く飛べる鳥人族の求人が一般的だった。その一方、空輸に向かない種の鳥人族たちは情報の収集や調査などを担うこととなる。



では『ハクトウ』の民はどうなのかというと。


彼らが社会において活躍する分野は、どちらかというと戦闘向きな仕事に適性があったと記憶している。


鳥人族の中でも体格に恵まれている『ハクトウ』は空中戦や急襲対地攻撃などの戦術要員だったり、戦地における空からの調査や秘匿伝達業務などで活躍しており。『ハクトウ』たちが平時において高所での活動や輸送に関わるという話は聞いたことがない。


つまり、その点において。目の前の鳥人族の少女、ルドはどういった評価になるのかというと。


『あまり強そうではなく、ハラペコになる位には単独狩猟が下手くそで、戦闘向きというにはうっかりおっとりさん過ぎる』のではないだろうか。


とても戦闘向きな鳥人族には見えない。



「と、いったところかしら。私の鳥人族に関する知識とルドへの評価は。」


「歯に衣着せぬ物言い。さすが奇跡の聖女でございます。我はどうしようもなくめげそうです……。」

そういってルドは、しょんぼりした顔で目に涙を浮かべる。


既に彼女は泣き止み怯える様子もないが……いまいち深刻さに欠ける態度が少々腹立たしい。


「ほとんど合ってるわね。そして、多分ルドは『空便』のお仕事してるんじゃないかしら。どう?」

私の知識を確認し終えたシャルは、ルドへと視線と質問を投げかけた。


「ご明察。仰る通りにございます、シャル殿(どの)。」


殿て。


「そのうっかりさんは狩りも出来ないのにお仕事ほっぽりだしてこんなところで何をしていたのかしら?」


私たち、というかリリスを探していた。

という考えが頭に浮かぶ。


「そこで『風の便り』っつー訳だぜ。」

「だがャ。」


「それが説明になってないから状況が私たちにはわかんないのよ。」


「セレナ。空の民は高い風のマナ適性をもつのを知ってますね?」

「そうね。当たり前すぎて知識として言うのを忘れるくらいには、ごく自然と幼少期から風のマナを使いこなすと聞いているわ。」

「えへへ。」


何照れてんだこいつ。

ほめたつもりはないのだが?


「『風読み』と呼ばれる位に自然の風を読み、自身の風のマナと合わせて自由に空を飛び、あるいは風の魔術を使いこなす。私も風使いの()()()()としてそれくらいは聞いたことがあります。」

「そうですね、エミリア。空の民の風魔術はとても有名です。」


「まだ話が見えません。それがなぜあんなことを知ることに繋がるんですか?」

ルーカスは難しい顔で考え込みながら話を促す。


「セレナ。貴女は『精霊対話』を使いこなしますか?」

「ええ。神聖魔術を使ううえで全属性の基礎を体得し、ちょっと自己流だけど不便しない程度は『察せる』わよ。」


「ルーカス、エミリア。あなたたちはどうですか?」

「俺もトライキャスターとしてごく狭い範囲で短時間なら、3属性との対話は可能です。」

「私はまだダブルキャスターなので……苦手です。風のマナはなんとなくわかる時があります。」


「そうですね。確か人族の魔術体系における『精霊対話』は3属性以上のマナを修めた者たちが、その各精霊との共振の差異を感じることで『想い』を察する技能。だったと思います。」

「その通りです。シャルさんは我々の魔術体系に対する造詣も深いのですね。さすがです。」


「そうね。私たち神職者の一部にも精霊との交流を可能とするものは居るし。私の仲間、ソフィア・ディ・ブレイズも正式にはまだダブルキャスターでありながら。既に高度な『精霊対話』を使いこなしているわ。彼女は火と風のマナを修めた大魔導士だけど、他の属性も既に大魔導士クラスに使いこなすもの。」


「『次なる賢者に最も近い者』として有名ですよね。ソフィア様は。」

「水のマナを監督している姉弟子のマグノリア様が最後の壁だとか。魔術師界隈では常識レベルのうわさですね。」


やっぱりソフィアは魔導士界隈では天才として名高いのだろう。


「でも変じゃないかしら?なぜエミリアは風の精霊とちょっとだけお話できるのかしら?他の精霊との対話をまだ感じられないのでしょう?」


「……マナ適性。親和性の高さ、という解釈を聞いたことはあります。木の精霊は最も声が小さいという話もよく聞きます。」

「ていうか、あいつら木の精霊は話すのが遅いのよ。凄い気長なの。」


もごもごと話すエミリアは自信なさげに見解を語るが、普通に対話をこなす私としては各精霊の個性というか、話好きかどうかの差くらいにしか思っていない。


木の精霊はおっとりゆっくり口数少なく。

火の精霊はかっかとしていて気が短い。

土の精霊は動じないし気難しい。

水の精霊は冷たくさらりと流すし。

風の精霊はおしゃべり過ぎて……


あー……そういうこと?



「ふふ、よかったわね、ルド。誤解は解けたみたいですよ?」

「えっと……?それはどこまででしょうか……?」


私の反応を見て察したのか、『魂の香り』を嗅ぎ取ったのか。はたまた『先見の瞳』なのか年の功なのか。

ほっとして嬉しそうに微笑むシャルの態度に、私は少々気恥ずかしさを覚える。


「セレナ様、一体何がわかったのですか?」

「俺たちにもご教授頂けると助かります。」


「あー……まだちょっと確信はないのだけど。もしかして鳥人族たちは噂好きな風の精霊と……風のマナ単独で『精霊対話』を細やかに知ることを可能としてるのかしら?」

「正解です。さすがセレナ、本当に賢い子ですね。」

「で……『風の便り』というのは風の精霊たちの噂話を元に、様々な噂話を知る鳥人族独特の情報網で……獣人たちはそれを用いる文化がある、とか?」


「えー……そんなことができるんですか?」

「ちょっと我々には理解しがたい話です。」


「奇跡の聖女よ、一部訂正させてください。精霊の噂話や獣人族の誰もが用いるというのは語弊があります。獣人族同士や異種族の交流において『風の便り』はある種の秘匿通信網のことを指します。一定の立場、地位にある獣人族の者が我々『風読み』を通して絶対秘匿の長距離連絡を行うことができます。」


ルドが流暢に喋り始めた。どうやら得意分野らしい。


「何よそれ。誰かが誰かに伝えて欲しいなんて注文を風の精霊たちが細かく応じてくれるってこと?」

「はい。風の精霊に認められれば彼らは応じてくれます。そしてそれは然るべき『風読み』へと精霊側から語り掛けられ、我々はそれを伝えに空を駆けるわけです。」


「精霊側から!?」


素直に驚いた。


マナの根源たる精霊たちは基本的に我々に対しあちらから干渉することは無い。魔法にしろ魔術にしろ、これらすべては何かしらの手段を用いて精霊の力を借りてマナを行使しているにすぎない。『精霊対話』ですらこちらからの魔術的な干渉により精霊の反応を読んでいるだけだ。

対話などという言葉を使っているが、その実態はなんとなく態度を察しているだけなのが実情なのだ。


その反応と状況を加味して、状況を推察する。あるいは魔術行使の予兆や残滓を探るのが『精霊対話』の限界。


と、思っていたが……『風の便り』はそれにとどまらず、風の精霊を介した情報を伝聞として内容を判断できるほど言語化され、意思疎通を可能としていることになる。


対話のレベルが段違いだ。


「つまり、ルドさんは風の精霊から伝聞を頼まれて、我々……というかセレナ様やリリスさんを探しに来た、ということですか?」

エミリアが端的にルドの意図を言語化する。


「左様です。しかしながら我は『風読み』のお役目に浮かれるあまり、旅支度をおろそかにしてしまいまして、愚劣の極みに悶えつつ飢えに苦難していたところ、狩りに勤しむ猫人族の皆々様を見つけた次第でして……そこに奇跡の聖女と魔王の姫君がいたことで舞い上がってしまいまして。その、まぁ色々と大事な手順を忘失しておりました……平にご容赦を!」


再び地面に額を擦り付けるルド。

だが、私はまだ油断することができない。


「ルドさん。貴女の目的は理解しましたが、肝心なことが抜けています。それを聞かずには安心ができません。」

ルーカスは真剣な口調で、伏したままの彼女に声をかけた。


「そうね。ルドが『風読み』として風の精霊づての伝聞を届ける目的だったのは理解したわ。でも、一体どこの誰がなんの目的で何を伝えようとしているのかしら。大事な手順とやらがあるというのであれば、ぜひそれを最初から実行してくれるかしら?」

彼の切り込みに乗じて、私は場の仕切り直しを提案する。


「是非もなく!我の不始末を(そそ)ぐ機会を頂けるのであれば、必ずやご満足頂ける内容であるかと申しあげます!」


つまりぜひともやり直させてくれ、と。


「リリス。それで大丈夫?」


私は隣に向けて声をかけた。


先程からずっと黙ったまま、私に寄り添うように佇むリリス。

不安と恐怖に押しつぶされてしまいそうなくらい小さく身を縮めている。


「はい……。」


消え入りそうな声でかろうじて返事をするが、明らかに怯えている。

そんな彼女を見ると再び苛立ちと焦燥感が自らの胸中に渦巻くのを感じる。


もし、聞かされた話がろくでもない内容だったら……。


「セレナ。止めなさい。」

シャルが強い口調で私を諌める。

また私の中に膨れ上がる感情を察したのだろう。


「ごめんなさい。ちょっと頭に血が上ってたわ。」


素直に謝罪しておく。



ルドは動じる様子もなく静かに(うなづ)くだけだった。

どうやら私の胸中は理解してくれている。


不躾な態度を取ったことを少し後悔した。

相手は役目を果たすためにちゃんと私たちを待ってくれているというのに。


ありがたい。



目を閉じて深呼吸をする。

2~3度、深く大きく、吸って吐いてを繰り返し、目を開いてルドを真っ直ぐ見つめる。


「おまたせいたしました。『風読み』イド・ルグ様、(いわ)れのない無礼を働いたこと、お詫びいたします。どうか私と彼女に『風の便り』をお聞かせください。」


久々に聖女の仮面を被る。

今は無用な(いきどお)りを抑えねばならない。


ほかでもない、背後に居るリリスの為に。

知るべきことを知ることを最優先に考えるよう。




眼の前の鳥人族の少女が静かに立ち上がり、静かに語りだす。


「『風読み』イグ・ルドが風の精霊より告げられた『便り』をお伝えします。」


私の耳に、不思議な声が響き渡った。


あわてんぼうのメッセンジャー

情報伝達は素早く正確にね

それと、慎重に……

人は言葉一つで殺し合う生き物なので


こわやこわや

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