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洗濯日和

後日談です。


今回の主役はユーリ。彼女のもとにアンが相談にやってきます。



晴天の霹靂。まさにそれだった。


「ユーリ…どうしよう私、子供が、出来たかもしれない」

カシャーン…と、ユーリの手からフォークが落ちる。

反対の手に持ったケーキの皿はあやうく取り落とす所だった。


「月のものが来ないの…。もう2ヶ月になる…。ねぇ、どうしよう?」

3つ年下の彼女は、けれど自分も訳がわからないような話題をし、途方に暮れたように答えを待っている。

ここで取り乱して叫んだりしなかっただけ、自分はよくやったとユーリは思う。

「そ、それ…お医者様には見せたの?」

赤い髪を揺らし、アンは首を振った。

「本当だったら大変だよ。…ユーリしか、相談出来る人いなくて」

「……」

何と言ったらいいかわからず、ユーリは天井を仰いだ。


子供が出来たら大変だ、くらいアンだってわかっていたはずだ。

まだアンとルーセルは婚約をしていない。

現在は婚約を国王夫妻に認めてもらうため、アンは城を出て、自分の力で生活している。

というより、気持ちの上では国王夫妻だって2人の結婚には賛成なのだが、アンは世間を知らない。

本当に自分達の息子でいいのか!?と、不安になって出した案だったのだが。

アンの妊娠は言ってしまえば、国王夫妻の思いやりを裏切る事になる。

けれどもアンの表情を見てしまうと、もはや十分すぎるほどに責任を感じている。自分まで責める訳にはいかない。

「わかった。それとなくギル…はダメか。先生に、聞いてみるよ」

アンが今日初めてほっとしたように笑った。

つられてユーリも笑う。アンの笑顔が、ユーリは大好きだった。




「2ヶ月かぁ…」

次の日の昼。

膝の上で両手を硬く握り締めるユーリの前で、王宮専属医師である老医師、通称先生は顎をさすった。

「微熱…体がだるい…ううん…それくらいだとなぁ。何とも言えないんだが」

「だが…なんですかっ!」

ユーリは身を乗り出さんばかりだ。

「ただの疲れとか、そういう原因でも現れる症状なんだよ。やはり本人を診てみないと…」

と言って、ちらりとユーリを見る。

「ちがっ…!私じゃないって言ってるじゃないですか!」慌てて手を振って見せるが、彼はあまり納得してくれたようではない。

「わかったわかった。まぁ、2ヶ月くらいじゃわからない事も多いんだよ。もう少し時間が経たんとね。また何かあったら来るといい」

「はぁ…」

結局確かな事はわからないまま、ユーリは医務室を後にした。

そんなユーリの後姿を見送って、老医師は穏やかな笑みを浮かべた。





「…そう」

その日の夜。

仕事を終えるなりユーリはアンの働く町のパン屋へと直行した。

アンは城下町のパン屋で働きながら生計を立てている。住んでいる所も城の近くなので、ユーリは仕事終わりなどに、こうしてよく会いに来ていた。

アンの仕事が終わるのを待って、2人で部屋に帰ると、ユーリは早速老医師の言葉をアンに伝えた。

ユーリが想像したより、彼女は動揺してないようだった。

「私、産もうと思うの」

「……え」

ぱしゃっと、紅茶が少しこぼれた。

「もちろんまだ本当かどうかはわからないけど。…でも、もし赤ちゃんがここにいるなら。私産む」

「……」

呆然と、ユーリはアンを見返した。

彼女は恐る恐るといった感じで自分を見ている。

「そうしたら、ユーリにも助けてもらいたいの。…多分、もう王達の助けは借りられないし」

その言葉に、ようやく思考能力が戻ってくる。

「えっ…。何よ、ルーセルは?」

「言えないよ。だって私の為にって3年間離れて暮らすように言われたのに、こんな事になって、合わせる顔がないもん」

「………」

全て真実だから、ユーリは何も言い返せない。

確かにルーセルには責任もあるし、知る権利もあるけれど、彼は王子なのだ。

自分達とは、立場が違いすぎる。

「…わかった」

アンがほっとした笑みを浮かべる。

「でも、まだ何も確かな事はないんだから自分で焦って決めない事、いい?具合が悪かったらちゃんと医者に行くのよ?」

「うん。…ありがとう」

「ううん」

ああ、この笑顔に弱いんだ、とユーリは思う。

こんな風に言われたら、味方になってあげない人間なんていないに決まってるのに。




メイドの朝は早い。

仕事の種類によってまちまちだが、ユーリの朝一番の仕事は掃除である。

入ってすぐにある大ホール。ここを磨くのだ。

ここの掃除は気合が入る。

何故なら王宮に来る人間がまず最初に目にするのがこの場所だからだ。

誰の目にもつくだけに、ここが汚ければ即国王の威光を落とすことになる。

それが終わったら、今度は寝室のシーツを洗濯する。

先にベットメイクをするメイドがいるので、部屋まで行って洗濯物を預かって来るのだ。

王族の寝室まで任されているメイドは、それだけ信用のおける優秀なメイドと言える。


第1王子の部屋へと続く階段。

そこに見慣れた後姿を見つけて、ユーリは声を上げた。

「シャルティン様!」


振り向いた第1王子シャルティンは、ユーリの姿を認めるとにこっと笑みを浮かべた。

「あ、ユーリ。久しぶりだねぇ」

「いつ帰って来られたんですか?」

彼の趣味は諸国放浪だ。

暇さえあればすぐに王宮から姿を消す。

そんな兄の悪癖のおかげで、弟ルーセルは最近社交界にひっぱりだこなのだが。

「今さっき」

「ふぅん。…かわいい彼女、出来ました?」

「うーん、出来ないんだよねぇ、これが」

「あの…」

誰もいないとわかっていても、ユーリは声を落とした。

「ふと思ったんですけど、結婚前に女の人に子供が出来ちゃったら、どうなるんですか?」

「は?」

何を言ってるんだ、という瞳。ユーリはかすかに顔が赤くなるのを感じた。

(これも親友の為よ…!)

「だって気になるんですもん。シャルティン様っていつも遊び歩いてるし」

「失礼な。…僕はそんな事態に陥った事はありません」

「わかってますよ。で、どうするんですか?」

「ユーリ!」

「ちょっと知りたいだけなんです!」

「……」

はぁ。と大きなため息。

僕はなった事ないからわかんないけど、と言い置いて、ようやくシャルティンは口を開いた。

「やっぱり責任取って結婚するしかないでしょ。でも、血筋がどうのってなると、堕ろさせるか、産ませても認知しないか…」

「……」


アンが子供を産むことを、きっと近しい人なら認めてくれるだろう。

だが、ルーセルは第2王子だ。アンとの結婚について心無いことを言う人間はきっとたくさんいる。

王との約束があるにも関わらずこんな事になってしまって、傷つくのは間違いなくアンだった。

「らしくないねぇ、ユーリ。眉間にしわが寄ってる」

「え?あ…ほんと」

おでこを揉み解す。

ユーリは途方に暮れていた。





「ユーリ」 

「あ、ギル」

仕事を終え部屋で先生に借りた妊娠の本を読んでいると、ギルがやって来た。

真剣…というより、その顔からは表情の全てが消えている。

「どうしたの?」

彼がこうしてやって来るのは珍しい事ではない。本来この女子寮は男子禁制なのだが、ギルはいつの間にやら門番と仲良くなってしまい、こうして度々やって来るのだ。

だが今日は、お酒も食べるものも何も持っていない。


ギルは1歩進んで扉を閉めた。

「カルテ見た」

「え?…カルテ?」

ユーリは読んでいた本を机の上に置く。カバーがしてあるので何の本かはわからないはずだ。

「先生のカルテ」

「?」

何を言っているのかわからない。

ギルは全身から怒りを撒き散らして、ユーリの前のいすを引くとそこにどさっと腰を降ろした。

「どうして何も言ってくれないんだよっ!!」

「ちょっ…ギル。あんま大きい声出すと聞こえるから…!」

ここは男子禁制なのだ。見つかったら大変なことになる。もっとも、もはや公然の秘密、という感じだが。

「ほら、これでも飲んで」

ユーリは冷めかかった紅茶をギルに差し出す。ギルはそれを一気に飲み干した。

続く不気味な沈黙。

やがて、ギルが小さく呟いた。

「…が」

「え?」

「………子供が、出来たって聞いた」

「………」

「………」

「………」

長い沈黙の後、ユーリはぽつりと呟いた。

「あんたの子じゃないわよ」

「っ、そんなんわかってるよっ!!!」

素早く反応したギルの顔は真っ赤だった。

それがあんまりおかしくて、ユーリは大笑いしてしまう。

「あはははははっ!ちがっ!はは、く、苦し…」

「………」

ぽかん、と立ち尽くすギルの顔が、ユーリの笑いを増長させる。

「ちょっ、ごめ…ぷぷ…あ、あははは」

そんなユーリの様子にようやく誤解に気付いたのか、ギルががたっといすに崩れ落ちた。

「なんだ…よかっ…ったく、先生はぁ…」

「わ、私じゃないって言ったんだけど。やっぱり誤解してたんだ…くく」

目じりの涙をぬぐいながらユーリは紅茶を入れなおした。

改めてギルの前に座りなおす。

ギルはいまだに机につっぷしたままだ。

「……本当に、お前じゃないんだよな」

「――ぷ」

「帰る!」

がたんと机を鳴らし、ドアへ向かうギルの服の裾を慌てて掴んだ。

「ごめんごめん!待って待って、帰らないでってば!」

「いいかげん笑うの止めろよ!」

言いながらもギルはちゃんと振り向く。

「あのね、相談があるの」




「………アンが」

ギルはぽかんと口を開けて、しばらく理解できないようだった。

自分も動揺したのを覚えているから、彼の顔がどんなにおかしくても、ユーリは笑いを堪えていた。

「へぇ―…」

やがてギルが満面に笑みを浮かべ始める。

「そっかぁ…。あいつが父親かぁ…」

そう言って、なんとも嬉しそうな顔をする。

「………」

ぽかんと、今度まぬけな顔をするのはユーリの番だった。

「なに?」

「いや…だって…」

まさかそんな反応をするとは思わなかったのだ。

「だって…」

いすに座りなおして、ギルが体を反らして首の後ろで手を組んだ。

「ま、結構状況は厳しいけどな」

「……」

そう言えば私は一言もおめでとうなんて言ってあげなかったなぁと、ユーリはぼんやり考える。

「そっか。まだ誰にも話してないんだ?」

「うん…」

ギルが手をほどいて、不思議そうにユーリを見た。

「どうしたんだよ。らしくないなぁ。ユーリはこういう時、1番になって大はしゃぎする人間だろ?」

「ギルこそ…。こういう時は1番、あーでもないこーでもないって心配する人間でしょ」

「…だってさあ。子供だぞ?」

「……そうよ?」

なんとなくむっとしてギルを睨みつける。

「子供が出来るってのはな、すごい事なんだぞ?命だぞ命!それが新しく生まれるんだぞ!世の中でこれ以上に大事な事があるか!?」

ギルの瞳は輝いていた。

彼は身を乗り出すと、逆に身を引いたユーリにはお構いなしに彼女の手をぎゅっと握り締めた。

「産ませようなユーリ!」

「へ?」

「俺たちで協力するんだよ!」

「ああ、うん…そう、そうね!」

それに異存がある訳がない。ユーリも目を輝かせた。

「よし、そうと決まれば早速ルーセルにも知らせてやろう」


「ちょ――っと待った!!」

ユーリは大慌てでドアの前に立ちはだかった。

部屋を出ようとしたギルが目を丸くする。

「何だよ」

「い、いいい今、何してくるって言った…!?」

ユーリは顔を青くしている。

対するギルはかすかすに眉をしかめて答えた。

「なにって…ルーセルに言わなくちゃ」

「だめっ!!」

「……はぁ?」

何言ってんだ、という顔。

ギルは肩をすくめると、ユーリの肩に手をかけた。

「いいかユーリ。あいつは父親だぞ。責任があるだろ?」

まるで子供に言い聞かせているようだ。ユーリはいらいらとその手を払った。

「だけど考えてよ!王子だよ!?あっさり結婚出来る訳ないでしょ!?」

「…だけどあいつはその為に努力する奴だよ?」

「だめ。だってそれでだめだったらアンが傷つくじゃん!」

「知らされなかったらルーセルも傷つく」

「傷つかないわよ!ずっと黙ってればいいんだから!」

「…ユーリ」

不意にギルが苛立った様子で、ドアを押さえていたユーリの両手を掴んだ。

「お前って時々そういう所あるぞ。昔何があったか知らないけどな、ルーセルはそいつとは違うんだよ!!」

「―――!」


パン!


乾いた音がして、ギルは顔を反らした。

「いって――…」

手で隠された頬は、赤く腫れている。

ユーリは手を上げたまま、赤い瞳でギルを睨みつけていた。

そのまま後ろを向き、ドアを勢いよく開ける。

そこには門番を始め、何人ものメイドが立っていた。

皆男がいることを知っていたのだが、入るに入れなかったのだ。

ユーリはわかっていたのか、その場に立つ人間をぐるりとにらみつけた。

「罰は受けます。もう彼がここに来る事はないのでご安心を!ほら、さっさと帰ってよ!」

いまだ部屋の中にいるギルの服を引っ張り、無理矢理部屋の外へ押し出した。

ギルも顔を赤くして怒鳴り返す。

「…頼まれたって来ねぇよ!」

そのまま人にぶつかるようにして去っていく。顔見知りの門番が後を追いかけた。


後に残ったユーリは、もう1度ぐるりと視線を向ける。

「………私たちの話、聞きましたか?」

その場にいた人間は一斉に首を振った。






「元気ないね」

「わっ」


運んでいた洗濯かごを落とし、中身をぶちまける所だった。態勢を立て直し、ユーリは恐る恐る後ろを向く。

案の定、そこにびっくりした顔で立っていたのは。

「…ルーセル様…」

この国の第2王子で、アンの恋人でもある男だった。

「だ、大丈夫?」

「平気です。ちょっと、考え事をしていたので…」

「ギルとケンカでもしたの?」

「!」

「やっぱり」

ルーセルが苦笑した。

「あいつも元気ないんだ。ため息ばっかでさ」

(…ギルがぁ?)

あっちは言いたい事を言いたいだけ言ってすっきりしているはずだ。

「それよりも、昨日アンの所行ったんでしょ?元気にしてた?」

「………」

ユーリはまじまじとルーセルを見た。

まさか…何も聞いてないのか?

「…げ、元気でしたよ」

「そっか」

そう言って、満足そうに微笑んだ。

胸のどこかが鋭く痛む。

嘘をついているという罪悪感。

どうしてギルは言わなかったのだ。誰が考えたって、彼の方が正しいのに。

自分が望んだ事だったが、彼に対して怒りが沸いてくる。

本当は私が間違っていた。

アンとルーセルの仲を引き裂く権利も、子供から父親を奪う権利も誰にもない。

ただ私が、アンを独り占めしたかっただけなのだ。





昼食の時間、ユーリは城を抜け出してアンの働くパン屋へ直行した。

ちょうど向こうも昼休みの時間で、アンは奥で同僚と話をしていた。

「どうしたの?」

店の外に呼び出して、ユーリはアンに向き合った。

「アン。…ごめん私間違ってた」

「え?」

アンはきょとんと目を丸くしている。

ユーリは視線を落とした。

2人の影は右に伸びている。

「子供のこと…ルーセルに言った方がいいよ。ルーセルも、王様も、皆アンが好きだから、きっと認めてくれる。信じられると…私は思う」

どうしてこんな簡単な事を言ってあげられなかったんだろう。

ユーリは胸の中で自嘲した。

ギルの言った事は本当だ。

ユーリは権力者も男も、信用していなかった。

でも…

「だってあのギルでさえ、アンに子供がいるってわかって喜んでたんだよ。だから…」

「……うん」

そっと顔を上げれば、アンは穏やかな顔で微笑んでいた。

「ありがとう。…私、誰かにそう言って欲しかったのかも」

「……」

「でも私、だからユーリに甘えてたのかも。ユーリはいつだって私の味方になってくれる。両手広げて、私の事受け止めてくれるから…」

ユーリはへにゃりと笑った。

アンが遠くへ行ってしまうような、そんな寂しさは、消えていた。

たまらずにアンをがばっと抱きしめる。

「おめでとう、アン。私はいつだって、大好きなんだから。もし男だったら、ルーセル様と取り合いするくらいよ」

腕の中のアンが、くすぐったそうに笑う。

「そうしたら絶対、ユーリを選ぶわ」

うそつきと呟いて、ユーリは笑った。





その夜、アンが王宮へとやって来た。

迎えにはルーセル1人が出た。だからユーリはその後の事はわからない。

ただ、ルーセルはこの城を出てアンと2人で暮らす事になったと後で聞いた。もちろん第2王子として、仕事をしながらだ。

聞けば、ずいぶん前からルーセルはその事を王に打診していたらしい。

あれだけ人に心配を掛けておいて、結局2人の仲は甘々なのだ。

私の苦労は何だったのと思いつつも、ユーリは嬉しかった。





「ユーリ」

「…ギル」

洗濯物を取り入れる手を止めて、ユーリはゆっくりと振り向いた。

視線の先には珍しく白衣を着たギルがいる。

そういえばあのケンカした夜から顔を合わせていなかった。もうとっくに怒りなんかはなくなっているけれど、お互いに気まずかったのだ。

「今さ、アンが来たんだ」

「えっ」

叫んだきり、ユーリはギルの顔を凝視したまま動きを止めた。

彼女はじっと、続く言葉を待っている。

アンは王宮に診察にやって来たのだ。本当に子供が、いるのかどうか調べに。

「……それよりも」

ユーリのそんな行動を無視するかのように、ギルの手が持ち上がった。

「えらかったな、ユーリ」

「―――」

ぽん、と頭をなでられて、ユーリは言葉を失った。

「…な、何言ってんのよ。…そ、それよりアンはどうだったの」

顔を赤くしながらギルの手を振り払う。その照れた様子に、ギルが笑いをかみ殺す。

「妊娠じゃなかったよ。…ただの疲れだった」

「……そう」

一瞬沈黙して、ユーリは口元に笑みを浮かべた。

「アンの傍には…ルーセル様がいるんでしょう?」

「うん。2人ともそんなにショックは受けてない。ばかみたいに笑ってた」

「そっか」

つられてユーリも笑う。

が、その表情はすぐに硬くなり、やがてふっと下を向いた。

ギルの方を見て泣きそうな笑みを浮かべる。

「私、アンの事好きだったんだ、本当に…」

守ってあげたかった。大好きだったから。

アンを守る事が彼女の生きる意味だった。

この城で暮らしていく中で、希望だったのだ。

「…知ってるよ」

ギルが優しく笑ってくれる。本当に、彼らしくない。

ああ、彼も私を守ってくれているんだと、素直にそう思えた。

私がアンを守ってたように。

「ありがと」

そう見上げると、ギルが頭をぐしゃぐしゃとなでる。

「わっちょっと髪がぐしゃぐしゃになるでしょ!!」

もがくユーリにはお構いなしに、ギルは楽しそうに笑っている。

「大丈夫。そのうちお前にだって、ユーリが1番って奴が現れるよ」

「そんなの要らないわよ」

「……は?」

頭に乗った手から逃げ出して、ぼさぼさ頭のユーリは仁王立ちになって言った。

「私は一生ここで暮らすの。それで、女中頭になって影の支配者になって、アンとルーセル様を助けるのよ!」

「……お前ってほんと、アンが1番だよなぁ」

ギルが呆れたようにため息をつく。

「あんただってそうでしょ。友達思いのお医者さん」

「…まぁね」

目を見合わせて笑う。日の光が眩しかった。



ああ、今日はなんていい、洗濯日和!




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