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僕の美少女モンスター  作者: 秋保嵐馬
Ⅵ.僕と美少女モンスターの人助け
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二、老人とみなしごモンスター6

 午後の仕事も見るからに重労働だった。

 肉体労働は、重蔵さんみたいに高齢になってくるとキツいだろうな。

「オラ、もたもたすんなっつってんだろ! まったく役に立たねーな!!」

 現場監督は、午前にもまして重蔵さんに厳しくあたっていた。

 重蔵さんは言われるまま何も言い返さずに必死に重い物を運んでいる。

 でも……、僕にはどうしてあげることもできない。

 ガタンと大きな音がした。

 重蔵さんが、押していた一輪車を横倒しにしてしまったのだ。

「何やってんだよ、このくそじじーー!!」

 現場監督が走り寄ってきた。

「す、すまん、直ぐ片づける」

「片づけるじゃねーだろ! この土ムダになっちまっただろうが!!」 

 現場監督が一輪車をガンと蹴飛ばした。

 いくらなんでもあんまりだ。

 ちょっとあの現場監督に、僕のマミーの包帯でひと泡吹かせてやろうか……そんなふうに考えていると――。

 僕の近くから、パリパリと火花が散るような音が聞こえてきた。

「ちくしょう……、じいちゃんに……、じいちゃんに……」

 稔だった。

「!」

 な、なんだこれは?

 稔の全身がぼうっと光っている。

 パリパリという音は、稔から聞こえてきたのだ。

 稔の髪の毛は逆立ち、そしてなんと額の両側には……、小さな牛の角のようなものが生えていた。

 稔の異変には、僕だけじゃなく、ケイも蘭も気付いた。

「み、稔……?」

 僕が声をかけたけど、稔の耳には入っていないようだ。

「じーちゃんをいじめるなーー!!」

 ドオーーンと、落雷のような衝撃音がした。

 稔の体からいく条もの稲光が放たれた。

「危ない!」

 ケイが僕を抱きかかえて十メートルは跳んだ。

 ケイが機転をきかしてくれなかったら、直撃だったろう。

 蘭は……?

 なんと!

 普見蘭は稔の放電の直撃を受けていた。

 けれど……、特にダメージを受けた様子はない。

 さすがその正体はフランケン。

 なんて頑丈なんだ!

「稔君、落ち着いて」

 蘭は、稔の両肩に手を置こうとした。

 しかしその蘭の手を、稔は強引に振り払った。

 突然の異変に、工事現場はざわざわしだした。

「なんだ?」

「カミナリか?」

「こんなに晴れているのに……」

 こんな声が聞こえる。

「あいつ、やっつけてやる!」

 稔が現場に向かって走り出した。

「よせ、稔! ケイ、止めてくれ」

 僕の声に、ケイが猛スピードで走り出した。

 稔の前に立ちはだかる。

「よして! 稔君」

「どけ! あいつをやっつけなきゃ気が済まない」

「落ち着こうよ……、ね?」

 ケイがゆっくり稔に近づいたが……、稔は再び放電した。

 さっきのように、全方向に向けてではなく、明らかにケイを狙って撃ったのだ。

 稔の電撃がケイが立っていた場所を打った。

 だが一瞬早くケイは上空に跳び、体をひねって稔の真後ろに着地した。

 稔がケイに振り返る。

 その稔のみぞおちに、ケイは手刀を打ち込んだ。

 並の人間ならこれで気絶だ。

 しかし!

 稔の様子は変わらなかった。

 それどころか、ケイに向かって殴りかかってきたのだ。

 ケイがスカートがひるがえるのも構わず、足を上げて蹴りで稔のこぶしを受けた。

「く……、こんな小さな子がなんというパワーなの!」

 稔が反対側のこぶしを繰り出してきた。

 ケイはバク転、バク宙を繰り返して距離をとった。

「稔君、やめて」

 いつの間にか来ていた蘭が、稔を背後から抱きしめた。

「くそ、離せ! 離せよーー!」

 稔は暴れようとするが、稔よりは蘭のパワーの方が上のようだ。

 稔は蘭の腕の中から出られない。

「離せって言ってんだろうーー!」

 稔がまたもや放電した。

 最初と同じ、全方位に向けてのものだ。

 ケイがその身体能力を駆使してかわす。

 僕はさっきケイに助けてもらって距離をとっていたので、大丈夫だった。

 しかし!

 稔の放ったいくつかの電撃が、工事現場の何箇所かに襲いかかった。 

 その衝撃で、足場が崩れ、四人の作業員が落下した。

「うわあああーーー」

 このままでは四人は地面に激突して即死、よくても大怪我だ。

 僕は、一瞬、両手首に巻いてあるマミーの包帯を伸ばそうかと思ったけど……。

 腕は二本、つまり伸ばせる包帯が二本。

 四人いっぺんに救うのは無理だ。

 二人ならどうにかなるかもしれないけど……。

 などという躊躇が、その二人を救うタイミングすら逸してしまった。

 だめだ!

 地面に激突する!

 その時、上空から金色の翼の二体の巨大な鳥が飛来した。

 その鳥は、両足の鉤爪で落下途中の作業員を二人ずつ掴むと急上昇し、向かいのビルの屋上に消えた。

 一瞬のことで、他の人には何が起きたのか分からなかったろう。

 けど僕には分かった。

 今のはハーピー体に姿を変えていたラキとハピの兄妹だ。

 稔は放電を続けている。

 額の両側の牛の角は巨大化し、顔まで牛のように変わってきた。

 稔の変身につれて、放電の音と光がますます大きくなる。

 放電の威力の増加に、さしもの蘭も表情が苦しそうになってきた。

 工事現場の作業員たちも、この異変の原因が、中学生の女の子に後ろから抱きかかえられている小さな男の子にあるということに気付き始めた。

 人外の姿を現した稔に、作業員たちのざわめきが大きくなる。

 そのざわめきに紛れて、何かが聞こえてきた。

 それは……、歌だった!

 今までも何度か聞いたことのある、心地よい歌。

 あまりの心地よさに眠気を催してしまうそれは――人魚の歌だった。

 しかも、今回はダブルの歌声。

 マナカナ姉妹だ。

 僕は脳みそに気合を入れて眠くなるのをこらえ、周囲を見回した。

 工事現場を挟むようにして、現場の両端に二人の少女が向かい合って立っていた。

 背の高い方が妹のカナ、トランジスタグラマーな方が姉のマナだ。

 現場の作業員たちを見る。

 どの作業員たちも、その場に座り込んだり倒れ込んだりして眠りこけていた。

 僕は、稔を抑え込んでいる蘭に向かって叫んだ。

「蘭! 今なら人間たちはみんな眠ってしまっていて誰も見ていない。稔を頼む!」

 僕の声に、蘭は小さくうなずくと、フランケン体への変身を始めた。

 小柄な蘭の体が徐々に巨大化する。

 日本人形みたいなおかっぱ頭はどんどん短くなり、顔の輪郭を覆う程度の「フランちゃん」状態になった。

 そこから更に蘭の体は巨大化する。

 その身長は三メートルはあるだろう。

 髪ももっと短くなり、額には横一線の縫い傷、両側のこめかみには銀のボルトが出現した。

 完全なフランケン体に変身だ。

「稔! やめるのよ」

 蘭は、稔をその太い腕で力いっぱい抱きしめた。

 でも、稔は放電をやめない。

 というか、やめられない?

 稔の表情は……、なんだか気を失っているように見える。

 気を失いながらも放電をし続けているのだ。

 モンスターの力が暴走している!

「駄目だ! 稔は放電を止められない! このままじゃ稔も蘭も……」

 いったい、どうすればいいのだろう?

 そのとき、僕の視界に煙が入った。

 ケイやマナ、ハピが人間体からモンスター体に変身するとき身にまとう煙。

 ケイが、上半身は人間の体、下半身は馬の体の、ケンタウロスの姿に変身したのだ。

 ケイは、稔と蘭の元に駆けた。

 何をする気だ?

 ケイは、稔の真ん前まで来ると、くるりと後ろを向いた。

 そして、その後ろ足で稔のみぞおちに蹴りを撃ち込んだのだ。

 ヴァンパイア(吸血鬼)血祭冴の腕の骨や、ラミア(人蛇)のミアの尾の骨を一撃で砕いた強力な蹴りだ。

 幼い人間の男の子が受けたら間違いなく即死の威力。

「きゃあっ!!」

 ケイの悲鳴が響いた。

 蹴り足が稔に接触した瞬間、感電したのだ。

 そのまま倒れるケイ。

「ケイ!」

 僕は美少女ケンタウロスに駆け寄った。

 ケイの蹴りを受け、稔の放電はやんでいた。

「ケイ、ケイ」

 ケイの肩を揺する。

 まぶたが、次いで、唇がかすかに動いた。

「き、ず、な……君?」

「良かった、無事だったんだね」

「ちょっとビリっときただけ。稔は?」

 言われて僕は、直ぐそばで蘭に抱きかかえられたまま気を失っている稔を見た。

 稔は気を失っていた。

 その姿は、人間のそれとは大きく変わっていた。

 下半身は人間だったけれど、上半身は牛の姿に変わっていたのだ。

「これは……」

「ミノタウロス」

 ケイは体を起して立ち上がった。

「ミノ……、タウロス?」

「ええ、絆君。ミノタウロスは半牛半人のモンスター。上半身が牛で下半身が人間。強い力と電撃がその能力よ。稔の正体はミノタウロスだったのね……」

 蘭は中学生の女の子の姿に戻り、両腕で稔を抱きかかえた。

 お姫様だっこというやつだ。

 ただし、抱いているのはお姫様じゃなくて小さな男の子だけれど。

 ハーピーの姿のハピとラキが、先程のビルの屋上から飛んで降りてきた。

 マナとカナも来た。

 マナカナは人間の姿のままだ。

「なっくん、みんな、早くこの場を立ち去った方がいいな」

「そうですわね。私と姉様の歌声で人間たちはみな眠ってしまっています。目が覚めたときには今見たことはきれいに忘れているでしょう」

 ラキとカナの言う通り、僕らは足早にそこを離れた。

 重蔵さんを残していくのは気がかりだったけれど、重蔵さんも連れていったら、きっとあの現場監督がまたサボッただの何だの言うだろう。

 今回の一連の件は、目が覚めたときには重蔵さんだって忘れているのだろうから、取りあえず今はこのままにしていく。

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