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僕の美少女モンスター  作者: 秋保嵐馬
Ⅰ.僕のボディガードは美少女モンスター
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7.意外な救い主

 夢を見た。

 両親の夢だ。

 豪快な父さんと優しかった母さん。

 今は二人とも外国で暮らしているから一緒に住んではいない。

 母さんは、いつも顔を含め、体中に包帯を巻いていた。

 小さい頃からそれが当たり前だったので、疑問にも何とも思わなかったけれど、ミイラ女だったというのであれば、納得がいく。

 母さんの顔は……、よく覚えていない。

 その日の包帯の巻き方によって、包帯の隙間から出ているのが、右目だけだったり、左目だけだったり、口元も出ていたり出ていなかったりと、いろいろだったからだ。

 でも、素顔を見た覚えもある。

 母さんは時々包帯を取り替えていたからだ。

 なのに……、どんな顔だったのかは、よく分からない。

 母さんの素顔の写真も無い。

 でも優しい顔だった……気がする。

 それは間違いない。

 夢の中で、僕は母さんに問いかけていた。

「ねえ、マミー」

「なあに、絆」

 そう。

 幼い頃、僕は母さんのことを

「マミー」

と呼んでいたのだった。

「マミーは、どんなお顔なの?」

「マミーの顔が見たいのね?

 いいわよ、包帯をとって見せてあげる」

 夢の中の母さんは、ぐるぐる巻きの顔の包帯をほどき始めた。

 母さんの素顔が口元から上にかけて、どんどんあらわになっていく。

 あと少しで、母さんの顔を全部見ることができる――。

 その時。


 ピピピ、ピピピ、ピピピ――

 目覚ましの電子音で僕は夢から現実に引き戻された。

「あと少しだったのに……」

 夢の中とはいえ、もう少しで母さんの顔を全部見られるところだったのを邪魔されて、僕はちょっと不機嫌だった。

 ケイのベッドを見る。

 ケイはいなかった。

 今朝も目覚ましより早く目覚めたようだ。


 ケイが用意してくれた朝食を二人で摂り、僕らは登校した。

 リビングの時計の電池は取り替えておいたので、今日はあわてて走らなくて済んだ。

「絆君、今日も私が全力でボディガードするからね」

 並んで歩きながら、ケイが右こぶしをぐっと握って見せた。

「う、うんありがとう。よろしくねケイ」

 今日は、できれば男子生徒や冴とのトラブルが無いといいなあ……。


 朝のホームルームの時間。

「えー、今日も転入生を紹介する。

 じゃ、入って」

 担任の先生の声に、クラス中の男子が今日もまたざわついた。

 またまた美少女が転入してきたからだ。

 日本人形みたいなおかっぱ頭のおとなしそうな感じの子だ。

「それでは、自己紹介して」

 先生に促されて、女の子が口を開いた。

「……普見蘭ふけんらんといいます。よろしくお願いします」

 普見蘭と名乗った子がおじぎをする。

 前に垂れた長い綺麗な黒髪から、サラサラという音が聞こえてきそうだった。

「あーー、普見の席だが……」

 ここで先生はちょっと間を置いた。

 クラス中の男子生徒の視線が僕に注がれた。

 この転入生、普見蘭が、昨日の陸守ケイや血祭冴みたいに、この僕――掛橋絆――の近くの席を希望するのではないかと様子を見たのだ。

 しばしの間――。

 だが、普見蘭は何も言わなかった。

 ほ。

 これが普通だよな。

「じゃあ、普見。

 好きな席に座っていいぞ」

「はい……」

 言われて普見蘭は、空いている席の一つに腰掛けた。

「よろしくお願いします」

 普見蘭は隣の席の男子に礼儀正しくお辞儀した。

「こ、こちらこそ……」

 お辞儀された男子は、顔を赤くしてデレデレしている。

 クラス中の男子の視線が、今度はその男子に注がれた。

 よかったあ……、これで、僕への風当たりが今日は少しは弱まるかも。


 体育の時間。

 中学校の体育の授業は男女別だ。

 これもケイにはあらかじめ何度も言い含めておいたので、男子の体育の授業に参加するとダダをこねることはなかった。

 授業中、僕は先生に呼ばれた。

 授業で使う三角コーンをいくつか、体育倉庫から持ってくるように言われたのだ。

 僕は体育倉庫に向かった。

 かび臭くほこりっぽい体育倉庫の中から三角コーンを探し出し、持って出ようとすると――。

 開けっ放しだった体育倉庫の両扉の間に誰かが立っている。

「?」

 逆光なので、誰が立っているのか分からなかった。

 だが、体格から女の子であることは直ぐ判った。

 そして、髪型のシルエットで見当がついた。

 そう。

 これは今日転校してきたばかりの、普見蘭だ。

「あれ?

 普見……さん?

 君も先生に何か用事頼まれたの?」

「私……」

 言いながら、普見蘭は後ろ手で両扉を閉めた。

 ガチャーン!と、大きな金属的な音が体育倉庫内に響く。

 すごい力で閉められた証拠だ。

 普見蘭の一見華奢な体のどこに、そんな力があるのだろう。

「私……、本当は普見蘭じゃないわ」

 え……?

 どういうこと?

 だって、今朝の自己紹介で

「普見蘭です」

って言っていたじゃない。

「普見蘭というのは、人間としての仮の姿。

 私の……、本当の姿は――」

 扉を閉められ薄暗くなった体育倉庫内に目が慣れてきた。

 普見蘭は、とてもこわい顔をして僕を見ている。

 いや、にらんでいる。

 この感じ、覚えがある。

 そう、血祭冴に、にらみつけられていたのと似た感じだ。

 普見蘭は両手を挙げた。

 あれ?

 目の錯覚かな?

 なんだか、普見蘭の背が伸びた気がする。

 いや、背だけじゃない。

 横幅も増え、彼女の体が、一回りも二回りも巨大化した。

 さらに、両のこめかみの辺りには、銀のボルトが出現し、彼女のこめかみにねじ込まれているように見える。

 そして、髪は短髪になり、さっきまでのおかっぱ頭で隠れていた額が出現した。

 その額には、横真一文字に縫い傷があった。

 これは……、この姿は!!

「私は普見蘭じゃない。

 私の……、私の正体は――」

「フランケン!」

 僕は叫んでいた。

 そう、彼女――普見蘭――が変貌したのは、フランケンシュタインの怪物の姿だった。

 顔は美少女のままだったけれど、体は二回りも三回りも巨大化し、長かったおかっぱ頭は短髪に。

 両のこめかみには銀のボルトがねじ込まれ、額には横真一文字の縫い傷。

 アニメや映画で見たフランケンシュタインの怪物の姿に間違いなかった。

 ただ、違うのは、それが体操服を着て、顔が美少女というところだ。

 体操服はぴちぴちになってきつそうだった。

「普見蘭……、いや、フランケン。

 君ももしかして、僕の命をねらうモンスターなのか?」

 僕は後ずさった。

「そう……。

 掛橋絆。

 おまえの命をもらう」

 フランケンとなった普見蘭は、右こぶしをいきおいよく振り下ろしてきた。

 僕はすんでのところでかわしたが、彼女の巨大なこぶしで殴りつけられた跳び箱が、こなごなになって吹っ飛んだ。

 あんなのでぶん殴られたら、ひとたまりもない!

「おとなしく、私に殺されろ……」

 普見蘭は、左のこぶしを横から殴りつけてきた。

 逃げられない、やられる!

 僕は覚悟した。

 その時。

 バーンッ!と、体育倉庫の屋根を突き破って、何者かが飛び込んできた。

 その飛び込んできた何者かは、普見蘭の左こぶしを一蹴し、僕の前に立ちはだかった。

 ケイが来てくれたに違いない!

「ケイ!」

 僕は叫んでいた。

 だけど――。

 その後姿は黒髪のツインテールだった。

 ケイはこげ茶色のショートカットだ。

 黒髪のツインテール……、これは、まさか?

「血祭冴?

 なぜ君が?」

「ふん、さがっていろ、掛橋絆」

 血祭冴は、普見蘭に対峙した。

「なんだお前?

 邪魔をするな。

 おまえこそ引っ込んでいろ」

「引っ込むのはおまえのほうだ、フランケン」

 血祭冴の体が黒いオーラに包まれた。

 オーラが消えると、血祭冴は黒マントの姿に変貌していた。

 おとといの夕方、僕を襲ってきたときのあの格好だった。

 これが、ヴァンパイヤとしての彼女の姿だったのだ。

 ジャキンと音を立て、血祭冴は両の十本の指に長い爪を生やした。

「貴様、ヴァンパイヤか」

「フランケン。

 掛橋絆は私がしとめることになっているのだ。

 余計な真似はするな」

「勝手なことを言うなヴァンパイヤ。

 別におまえだけが掛橋絆の命をうばう権利をもっているわけではない。

 きたるべきモンスターの新世界の王には、この私がなる」

「獲物を横取りされてたまるか。

 力づくで奪ってみろ」

「力でフランケンの私にかなうと思っているのか」

「言われなくても、もちろん、そのつもりだ。

 貴様の血……、いや、人造人間だから血はないか。

 とにかく、燃料だろうがオイルだろうが、貴様の体中の体液を吸い尽くしてやる」

 せまい体育倉庫で、ヴァンパイヤ対フランケンの凄まじい戦いが開始された。

 様々な体育用具が、こなごなに砕かれながら、体育倉庫内で飛び散る。

「ひ、ひえ~~」

 僕は目を閉じ、頭を押さえて、体育倉庫の隅で縮み上がった。

「絆君」

 その時、聞き覚えのある声が耳元でした。

 目を開けると、今度こそ、間違いなくケイが僕の隣に来てくれていた。

 すでにケンタウロスの姿に変身している。

「ケイ!」

「ごめんね、遅くなって。

 私の背中に乗って」

「う、うん」

 躊躇している暇はなかった。

 ケイの、馬となっている下半身の背中にまたがり、両肩に手を置く。

 ケンタウロス姿なので、今のケイは上半身裸だ。

 素肌の肩に手を置くの、ちょっと躊躇してしまった。

「絆君」

「え?」

「これから、ジャンプして、天井の穴から猛スピードで脱出する。

 誰にも気付かれないくらいの速さでね」

「う、うん、分かった」

「分かってないよ、そんなんじゃ振り落とされる」

 ケイは、もどかしそうに、両肩に置いた僕の手を取ると、自分の腹部に回した。

 ケイの腹部の素肌の感触が、直接僕の腕に伝わる。

 裸のケイの背中に僕の上半身が密着する。

 な、いいのかな、こんなことして……。

 い、いや、今はそんなこと思っている場合じゃなかった。

「振り落とされないようにしっかりつかまってるのよ!!」

「わ、分かった」

 ケイは、思いっきり跳躍し、さきほど血祭冴が空けた体育倉庫の天井の穴から、高く高く上空へと一気に脱出した。

 す、すごいジャンプ力だ。

 眼下に広がる学校や他の家々が、小さく見える。

 ここから万が一落ちたら命は無いだろう。

 僕はケイの裸の上半身に、恥ずかしい気持ちや遠慮する気持ちをかなぐりすてて、必死にしがみついた。

 ケイはそのまま、近くの林の中に着地した。

 ボワンと煙がたち、ケイは変身を解いた――のだが、その時僕はまだそのことに気が付いていなかった。

 僕は、こんな高空から振り落とされたら大変との思いから、体操服姿に戻ったケイに後ろから抱き付いたままだったのだ。

「き、絆君?」

「……」

「絆君!」

「はっ!

 あ、ケイ。

 こ、ここは……」

「近くの林だよ。

 もう大丈夫。

 あそこからは脱出したから」

「そ、そうか」

「あ、あの絆君」

「え」

「その……、ちょっと苦しい」

「あ、ご、ごめん」

 僕はあわててケイから離れた。

 強い力でずっとケイにしがみついたままだったのだ。

「ご、ごめん、痛くなかった?」

「うん、大丈夫。

 それより、こっちこそ、ごめん。

 危ない目にあわせちゃって……。

 私……、こんなんじゃ、ボティガード失格だね」

 ケイは僕から目をそらすと自嘲気味に言った。

「な、何言ってるんだ!

 そんなことないよ。

 今だってケイのおかげで、僕は命を救われたんじゃないか。

 ケイには感謝している。

 僕のボディガードはケイしかありえないよ」

「絆君!」

 ケイが僕の両手を取った。

 ケイの両目がうるんでいる。

「ケイ……」

 その手を僕は握り返した。

 今回のことで、また二人のつながりが深まった気がする。

 おっと、いつまでもケイとここで両手を取り合っていたいのはやまやまだが、そうはいかない。

 学校に――、授業に戻らないと。

 それから……、体育倉庫で激闘を繰り広げていたヴァンパイヤとフランケンの二人――血祭冴と普見蘭はどうなっただろう?


 学校に戻ると、ちょっとした騒ぎになっていた。

 それはそうだ。

 体育倉庫の屋根に大穴が開き、中は滅茶苦茶に荒らされていたからだ。

 すでに血祭冴と普見蘭は姿を消していた。

 三角コーンを取りに行っていた僕は、当然、教師たちからその時の体育倉庫の様子を聞かれた。

 僕は、自分が三角コーンを持ち出したときは、まだ異常は無かったと嘘をついた。

 その後、直ぐに授業に戻らなかったのはトイレに行っていたからだとか、適当にごまかした。


 その夜の、僕の家でのリビング。

「まずいわ……、敵の方が早くこちらに到着し始めている」

「え……、ケイ。

 ということは、敵のモンスターも一人や二人じゃないってことなの?」

「そのあたりはこちらでもよく分かってないんだけど……。

 とにかく絆君は、我々とは反対勢力の世界中のモンスターから目の敵にされていることは間違いないの。

 そして、そのための刺客が何匹か、絆君の学校に送り込まれてくる……。

 その情報はこちらでもつかんでいるのだけれど、どんなモンスターが何匹やってくるのかというところまでは分かっていないのよね」

「ケイが言っていた、味方のモンスターはいつ来てくれるんだい?」

「まだ連絡が入らないから分からない……。

 ごめんね。

 それまではともかく私一人で全力で絆君を守るから」

 なんだか、ケイ一人に負担をかけて申し訳ない。

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