【参】キャッチボールお見舞いデート<序>
その日、僕と空守ハピは、大神浪子・吼姉弟とキャッチボールを約束した時刻に公園に行った。
空守ハピ、今は人間の女の子の姿をしているけれど、その正体は両腕は翼、下半身は鳥の、半人半鳥のモンスター、ハーピーだ。
約束の時刻になっても大神姉弟は現れなかった。
僕とハピはキャッチボールをしながら待っていた。
約束の時刻を十五分ほど過ぎたところで、大神浪子だけが現れた。
「大神さん。あれ、吼は?」
「遅れてすまない。実は吼が熱を出した。本人は来たがっていたのだが私が止めた。そういうわけで、おまえたちにはせっかく来てもらったのだが、今日は吼は来られない」
「そうなんだ。残念だな」
社交辞令じゃなくて、ハピもほんとにちょっと残念そうだった。
「じゃあ、私は帰る」
「大神さん」
大神浪子が背を向けて行こうとしたところに、僕が声をかけた。
僕とハピはいっしょに大神浪子の家に行くことにした。
吼の見舞いだ。
予想外のことだったのだろう。
大神浪子は戸惑っていた様子だったが、僕らの見舞いの申し出を快く受け入れてくれた。
玄関に入ったところで、僕は小声で大神浪子にたずねた。
「あのさ、大神さん?」
「なんだ?」
「大神さんと吼が人狼ってことは……、当然ご両親も人狼なんだよね」
「ああ」
「やっぱり、そうだよな……」
さっきはあまりよく考えないで見舞いに来るなんて言っちゃったけど、敵対勢力の側の僕やハピが突然訪問して、大丈夫だったかな。
そんな僕の心配を察したのか、大神浪子は言った。
「両親はいない。いろいろあってな。留守がちなんだ」
「いろいろって……、その……、モンスターとしての仕事みたいなのとか?」
「まあ、そんなとこだ。だから私が吼の親代わりみたいなところもあるんだ」
「そうなんだ」
吼の部屋の前に来た。
ドアに「KOH」と書かれた札がかけてあった。
「吼、姉ちゃんだ。入るぞ」
大神浪子がドアの外から声をかけた。
部屋の壁際に置かれたベッドの上に、吼が寝ていた。
額に濡れタオルを載せている。
「あ……、ハピ姉ちゃん……、来てくれたんだ」
弱々しい声で吼が言った。
……ったく、吼のやつ、また僕を無視かよ。
まあ、弱っているから今日は大目に見てやるか。
「掛橋君と空守さんが、おまえのこと話したら見舞いに来てくれるって言うんで、来てもらったんだ」
「そうなんだ……、ありがとう……」
吼はちょっと苦しそうだ。
ベッドの横の椅子にハピがかけると、吼が手を伸ばした。
ハピがその手を取ってやった。
「早く元気になりなよ吼。またボクらとキャッチボールしよう」
「うん……、ハピ姉ちゃん……、今日は行けなくてごめんね……」
「気にしないで」
大神浪子は「お茶を入れてくる」と言って部屋を出た。
「あ、手伝うよ」と、僕も後を追った。
手伝うとは言ったもの、グラスを出し、冷蔵庫の麦茶を注ぐだけなので、特に僕にできることはなかった。
話すこともない。
何となく手持無沙汰でいたら、大神浪子から話しかけてきた。
「掛橋、聞いたぞ。血祭冴や普見蘭とデートしたんだって?」
「デートだなんて……、違うよ。ちょっといっしょに出かけただけで」
「いっしょに出かけたら、普通デートなんじゃないか」
「そうかな……」
「よく、ケンタウロスたちが許したな」
「まあ……、事情があって、それを承知の上だったからね……。今日だってハピといっしょに大神さんと約束してたでしょ」
「まあ……、そうだな」
「大神さんは、血祭さんや普見さんと友達じゃないの?」
「別に友達というわけじゃない。もともと知り合いでもないし……。たまたま今回の……、その、指令を受けていっしょになっただけだ」
大神浪子が言い澱んだ“指令”とは、言うまでもなく僕の命を狙うことだ。
人間とモンスターのハーフである僕の存在を快く思わない勢力がモンスターたちの世界にあって、血祭冴や普見蘭、大神浪子はそこに属している。




