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僕の美少女モンスター  作者: 秋保嵐馬
Ⅵ.僕と美少女モンスターの人助け
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二、老人とみなしごモンスター8

 僕らはモンスターの世界にいた。

 といっても、ここへ来るのは簡単だ。

 僕の家の玄関の靴箱の扉をくぐればいい。

 キークリスタル(鍵水晶)さえあれば、僕の家の玄関の靴箱は、いつでもモンスター世界との出入口になるのだ。

 モンスター同士が戦う際に使うという闘技場に僕らは来ていた。

 このあいだ、女子高生モンスターのクオン、ユラ、ミア、ライムらが相手のときは、崖やら湖やら沼やらが戦いの舞台だったけれど、今回の闘技場はギリシャ神話に出てくるような場所だった。

 広い観客席に、座って見守るのは、僕、マナ、ハピ、カナ、ラキ、それに稔の六人だけ。

 眼下の円いフィールドの、一方の端にケンタウロス体となったケイが、そしてもう一方の端には身長三メートルの完全なフランケン体となった蘭が立ち、互いににらみ合っていた。

「ケイ、おまえと初めて戦ったのは、中学校での体育倉庫だったわね、覚えてる?」

「ええ、よく覚えているわ」

 そうだった。

 確かあのときは、体育の時間、先生に言われて、僕は倉庫に用具を取りに行ったんだった。

 あのときは、最初に血祭冴が、続いてケイが駆け付けて助けてくれたんだっけ。

「あのときは、冴の邪魔が入ったけれど、一度おまえとははっきり決着つけたいと思っていたわ」

「蘭、それはこっちだって同じ気持ちよ。あのとき、私は絆君のボディガードとしての役目をきちんと果たせなくて、おまえや冴に悔しい思いをさせられた。あのときのリベンジを果たすわ」

 風が吹いた。

 ケンタウロス体のときのケイはロングヘアーだ。

 背中にたなびく長い髪が、馬のたてがみを思わせる。

 一方の蘭は、フランケン体のときはとても髪が短くなる。

 額には横一線の縫い傷が走り、両のこめかみには銀のボルトが空からの光に輝いていた。

「いつでもいいわよ、ケイ」

「そっちから来たら? 蘭」

「スピードでおまえに勝とうとは思っていないわ。私があなたに向かっていってもかわすでしょ? 私はおまえの攻撃を受ける。そして返し技で勝つ!」

「蘭、確かにおまえに捕えられたら終わりでしょうけど、おまえは絶対私のスピードにはついて来られない。体育倉庫とは違って、ここは広い闘技場。勝つのは私よ!」

 蘭もケイも、どこまで本気なのだろう。

 僕はちょっと心配になってきた。

 二人ともまさか相手の命を奪うことまで考えていないよな?

 でも、そのあたりのモンスターの感覚が分からない。

 大怪我とかなければいいんだけど……。

 風が吹いている。

 動いているのは空気だけ。

 フィールドのケイと蘭は微動だにしない。

 観客席の六人も誰も動かない。

 このにらみ合い、いつまで続くんだ……?

 強めの風が吹いた。

 ケイのロングヘアーが大きく揺れた。

 ――と?

 ケイの姿が消えていた。

 次の瞬間、ケイは蘭の背後に出現した。

 まるで超能力のテレポーテーションを見ているようだが、ケイのあまりのスピードに、そう見えるのだろう。

 背後からケイはあの強力な後ろ足キックを蘭に見舞うつもりに違いない。

 ところが、蘭の反応も速かった。

 こぶしを握りしめた太い右腕を思いっきり背後に振り回してきたのだ。

 走るのは遅いけれど、蘭のパンチのスピードは速い。

 三メートルの完全なフランケン体から繰り出す、体重の乗ったあのパンチをまともにくらったら、ケイはひとたまりもないだろう。

 だが、蘭のこぶしは空を切った。

 ケイは再び姿を消し、五、六メートル離れた場所に姿を現したからだ。

「そんなスローなパンチじゃ、私は倒せないわよ」

 ケイにはあの高速パンチがスローに見えるの?

 でも、かわしたということは、やはりあのパンチを受けてしまってはまずいということなのだろう。

「パンチが当たれば私はおまえを倒せるわ。でもおまえはキックを当てても私を倒せない」

 二つの握りこぶしを構える蘭。

「私の武器は、別にキックだけじゃないのよ」

 ケイは両腕を弓矢を打つポーズに構えた。

 ケイの左手に弓が、右手に矢が出現した。

 ケイは弓矢を放った。

 蘭の真正面から矢が襲いかかる。

 蘭は手のひらをかざした。

 矢は、蘭の手のひらに当たると、かすり傷もつけず、地面に落下した。

「言ったでしょう。おまえの攻撃は当たっても私を倒せない」

 確かに、鋼鉄のように頑丈な蘭のボディには、ほとんどの物理的攻撃は通じまい。

 先日、街中でラミアのミアと戦ったときもそうだった。

 だけど、あのとき、ミアは恐ろしいことをしようとした。

 蘭の目を狙ってきたのだ。

 さすがの蘭も、目までは鋼鉄でないらしい。

 まさかケイが目を狙うなんてことをするとは思えないが、そうでもしなければ、ケイに勝ち目はないのでは?

 でも、勝ち目がないのは蘭だって同じはず。

 動きの遅い蘭は、ケイの攻撃を受け、返し技を決めるしか勝つ方法がない。

 だけど、蘭に眼にも留まらない高速で動き回るケイを捕らえられるとは思えない。

 これでは勝負はいつまでたってもこう着状態なのでは……?

「このままではいたずらに時間が過ぎるだけね。ケイ、次の私からの攻撃で決着を付けるわ」

「おまえからの攻撃? おまえがどうやって私に攻撃を当てるというの」

「取って置きが……あるのよ!」

 蘭は、その場で左腕のパンチをケイに向かって突き出した。

 そんな離れた場所でパンチしたってケイに届くわけもなく、何の意味も――って、あれ?

「きゃっ!?」

 ケイが跳び退いた。

 蘭のパンチが飛んできたから――文字通り、飛んできたからだ。

 蘭の左こぶしは、手首から外れ、ミサイルのようにケイに向かって放たれていたのだ。

 スーパーロボットかよ、蘭!

「フランケンは人造人間のモンスター。人造人間、すなわちロボット。今時のフランケンは、これくらいできるのよ!」

 蘭は続いて右のパンチを発射した。

 二つのパンチが、予測できない複雑な軌道を描いて空中を飛び回り、ケイを追いかける。

「くっ!」

 ケイが持ち前のスピードで逃げるが、二つのパンチのスピードも速い!

 しかも、地上を走り回るしかできないケイに対し、宙を飛ぶパンチは空間を支配し、前後左右はもちろん、上下からも縦横無尽にケイに襲いかかるのだ。

「な、なんなのよ、もーー!」

 ケイはかわすだけで精いっぱいみたいだ。

 スピードのケイ対パワーの蘭の戦いだと思っていたら、蘭がスピードとパワーを兼ね備えた攻撃をしかけてきた。

 これではケイに勝ち目はない!?

「こうなったら、こっちだって“取って置き”出すわよ!」

 ケイは、見覚えのある特徴的なステップで地面を踏みながら駆けた。

 あれは――!?

 かつて、ケイがラミアのミアと戦ったとき、地面にアリ地獄を引き起こした“激震踏げきしんステップ”だ!

 僕らがいる観客席も含めて、闘技場が大きく揺れ出した。

 地表にも次々と亀裂が走る。

 蘭の立つ位置を中心に、地面がすりばち状にくぼみ始めた。

 このまま蘭を地中に沈めればケイの勝ちだ。

 しかも、蘭は呼吸ができない環境下でも問題ないから、命に別条もないし。

 よかった!

 どちらも大きな怪我をすることなく、決着がつきそうだぞ!

 ところが、そんな僕の期待は甘かった。

 何と蘭の体が、頭や腕、胸、腹、腰、足といったパーツごとにばらばらになったのだ!

 そして、それぞれのパーツが高速で縦横に宙を舞い始めた。

「ふふ、驚いたでしょう? ケイ。誰にも見せたことのない、これこそが私の真の“取って置き”よ」

 頭部だけで宙に浮かんでいる蘭の声には勝利の確信が感じられた。

「そんな……」

 対して、ケイの顔には明らかに焦りが見えた。

 このまま、いくつもの方向から高速で滅茶苦茶に襲いかかられたら、いくらケイでもかわし切れまい!

 蘭の頭部が、胸が、腹が、足が、次々にケイに襲いかかった。

 どれか一つでもケイに直撃したら、そこで勝負はついてしまうだろう。

 無数の地割れが走り、でこぼこになってしまったフィールド上をケイが逃げ回る。

 足場が悪くなり、ケイは自身の技によってかえって状況を不利にしてしまった。

 それでもケイの動きは軽快だった。

 足場の悪さをものともしないで、右に左に縦横無尽に駆け巡って蘭の各パーツをかわしていた。

 だが、このままではいつまで経っても勝負はつかない。

 時間が長引けば持久力の勝負になる。

 疲れを知らない人造人間のモンスター、フランケンの蘭。

 対する半人半馬のモンスター、ケンタウロスのケイは生身だ。

 長期戦となれば疲労が蓄積され、ケイは明らかに不利。

 ケイはどうするつもりなのだろう?

 ケイを見る。

 目まぐるしく飛び回る蘭のボディパーツをかわしながら、ケイは何かを狙っているように見えた。

 でも、いったい何を……?

 蘭の頭部が、ケイの背後から襲いかかってきた。

 またもかわすのか……と思いきや、ケイは二本の前足で体を支え、後ろ足二本を持ち上げると、縮め、そして勢いよく伸ばした。

 後ろ足によるキック!

 一瞬の動作だった。

 キックは、飛んできた蘭の頭部の額を直撃。

 蹴られた頭部は、一直線に戦闘フィールド上を飛び、壁に激突した。

 壁にめり込んだ蘭の頭部の元にケイは走ると、その頭部を壁から引っこ抜いた。

 さしもの蘭も、ケイの強力なキックの直撃を受けて気を失ったようだった。

 両目がウズマキになっていたからだ。

 空中をものすごいスピードで飛び回っていた蘭の各パーツは、互いにぶつかり合い、地上に落下し始めた。

 頭部から各パーツに出されていた指令が途切れたからだろう。

 これで勝負ありなのか。

 ケイは、蘭の頭部を抱えて戦闘フィールドの真ん中に走り出た。

「この戦い、私の勝ち……」

 ケイが勝ち名乗りを上げようとした時、抱えられていた蘭の頭部の両眼が、かっと見開いた。

「まだよ! まだ勝負は着いてないわ」

 蘭が叫ぶと、地上に落下していた蘭の体の各パーツが再び浮き上がった。

「蘭、降参しなさい。もう勝負は着いたわ」

 抱えている蘭の頭部をケイが諭そうとするが、蘭は耳を貸さない。

「何を言うの、ケイ。戦いはこれからよ。現に、おまえを私の各パーツが取り囲んでいる。周囲から一斉に襲いかかれば、おまえは逃げることはできない。私のパーツにつぶされ、おまえは敗れるわ」

 確かに、真上からも、前後左右からも、蘭のパーツがケイを取り囲んでいた。

 動き回っていたときならいざしらず、いったん動きを止めてしまったケイは、完全に囲まれた。

 一斉に襲いかかられたら、どの方向にも退路は無い!

 ケイは、蘭の重厚な複数のパーツの直撃を受け、大怪我か、下手をすれば命を失ってしまうだろう。

 だが、

「これでもかしら?」

 ケイは、右手に矢を出現させると、それを蘭の目元に突き付けた。

「降参しなさい。さもなくば、お前の眼をつぶすわ」

「私のパーツの方が早い。おまえの矢が私の眼をつぶす前に、私のパーツがお前をつぶす!」

 ケイも蘭も本気だった。

 ケイが蘭の目を狙うなんて、よっぽどのことだ。

 ケイも相当追い詰められている!

 このままでは二人とも無事では済まない!

 次の瞬間――!

 フィールド上の宙空に、まっ白い無数の線が伸びた。

 その無数の線は、蘭の各パーツに絡みつくと、その動きを封じた。

 また、無数の線の一つは、ケイの右腕に絡みつき、蘭の目を突き刺そうとする動きを封じた。

「絆君!?」

 ケイが叫んだ。

 そう。

 伸びた無数の白い線は、僕が放ったマミー(ミイラ)の万能包帯。

 伸縮自在のそれが、ケイと蘭、双方の動きを封じたのだ。

 先日の僕は、一度に両手から二本の包帯から繰り出せなくて、落下する作業員を救うのが遅れた。

 その反省から、三本以上の包帯をいっぺんに操れないか練習しておいたのである。

 ちょっとやってみたら、直ぐできるようになった。

 僕の意志の力さえ強ければ、マミーの包帯は本当に万能だった。

 自由自在に伸縮し、何本でも操ることができたのだ。

 僕は、観客席からフィールド上に飛び降り、叫んだ。

「二人ともやめて! この勝負は引き分けだ。このままでは二人とも相討ちで無事では済まないよ」

「絆君、だけど……」

「ケイ、このまま戦ったら君は大怪我してしまう。僕はケイに傷ついてほしくない!」

「心配してくれるのは嬉しいけど……」

「なっくんの言う通りだ! 戦いはそこまでにしよう」

 僕とケイの会話に、割って入った声があった。

 観客席にいたラキだった。

 ラキは妹のハピと共に半人半鳥のハーピーの姿になり、やはり半人半魚のマーメイドの姿になったカナを伴い、フィールド上に飛んできた。

 ラキとハピでハンモックのようなシートの両端を持ち、それにカナを座らせてきたのだ。

「この戦いの立会人である、僕とカナが判定する。勝負は引き分けだ」

 ラキが宣言した。

 ラキの宣言となれば、勝負は正式に引き分けということだ。

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